丹波大女娘子 たにはのおおめのおとめ

伝不詳。丹波国(京都府北部、及び兵庫県の一部)出身の女性か。ただし丹波は氏名ともとれる。大女は字(あざな)か。万葉集に三首。

丹波大女娘子の歌三首

鴨鳥の遊ぶこの池に木の葉散りて浮べる心()が思はなくに(万4-711)

【通釈】鴨の遊ぶこの池に木の葉が散り落ちて、浮かんでいる――そのように浮ついた心など私は持っていませんよ。

【補記】第三句までは「浮べる」を導く序。「浮べる心」は浮ついた気持。

【主な派生歌】
奧山の岩垣沼に木の葉おちてしづめる心人しるらめや(*源実朝)

 

味酒(うまさけ)を三輪の(はふり)(いは)ふ杉手触(てふ)りし罪か君に逢ひかたき(万4-712)

【通釈】三輪の神官が大切に崇めている杉のように、畏れ多いあなたに手を触れた罰でしょうか、再びあなたに逢うことができません。

【語釈】◇味酒を 三輪の枕詞◇祝 三輪の神に仕える神官。◇斎ふ杉 標縄などを張り、神として祀られた杉。◇罪 罪を犯した結果の罰。

【補記】身分違いの相手と契り、親族等の反対でその後逢えなくなった、ということであろう。

 

垣穂なす人言聞きて我が背子が心たゆたひ逢はぬこの頃(万4-713)

【通釈】垣のように取り巻く大勢の人達が言いはやす私の悪口――それを聞いて、私の愛しい人がためらって逢ってくれないこの頃だ。

【補記】以上三首は万葉集巻四の大伴家持を中心とした歌群に挿まれた位置にあり、作者はおそらく家持の交際圏に属した人と推測される。


更新日:平成15年12月28日
最終更新日:平成20年09月29日