小鯛王 おたいのおおきみ 生没年未詳 別名:置始多久美

伝未詳。万葉集巻十六の歌の左注に「小鯛王者更名置始多久美、斯人也」とあり、『藤氏家伝』の武智麻呂伝に神亀の風流侍従として名の見える置始工(おきそめのたくみ)と同一人であろう。

 

夕立の雨うち降れば春日野の尾花が(うれ)の白露思ほゆ(万16-3819)

【通釈】夕立がひとしきり降ると、春日野の薄の穂先についた白露がさぞ面白かろうと思いやられる。

 

夕づく日さすや川辺に作る屋の(かた)をよろしみ(うべ)よさえけり(万16-3820)

右の歌二首は、小鯛王の宴する日、琴を取り登時(すなはち)必先(まづ)此の歌を吟詠(うた)へり。
小鯛王は、(また)の名を置始多久美(おきそめのたくみ)といふ、この人なり。

【通釈】夕日が射している、川辺に建てた家の造りが美しいので、なるほど人が寄って来るのも尤もだ。

【補記】家讃めの歌か。「作る屋の」までを「形」を起こす序と見て、容姿の美しい女のもとに大勢男が引き寄せられることを詠んだ歌と見る説もある。


最終更新日:平成15年09月22日