巫部麻蘇娘子 かんなぎべのまそのおとめ 生没年未詳 略伝

巫部氏は祭祀氏族の一つで、姓ははじめ連、のち宿禰。神に仕え、音楽や舞で神の心を和らげる役割を負ったことからの氏名かと言われる。マソは麻のことで、特に神祭の際用いられた麻を言う。名からすると、神子(みこ)だったか。
万葉集巻七に二首、巻八に二首の歌を残す。大伴家持と親交があったらしい。

巫部麻蘇娘子の雁の歌一首

たれ聞きつこよ鳴き渡る雁が()の妻呼ぶ声のともしくもあるか(万8-1562)

【通釈】誰が聞いたでしょうか、我が家の上を通って鳴いてゆく雁の、連れ合いを呼ぶ声が羨ましく思えるのです。

【語釈】◇こよ ここを通って。

【補記】第五句の原文は「乏知左寸」。「乏蜘在可」の誤りとして「ともしくもあるか」と訓む説、「乏知在乎」の誤りとして「ともしくもあるを」と訓む説などがある。「ともし」は心ひかれる・羨ましい意。大伴家持の和した歌は、「聞きつやと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり」(万8-1563)。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日