池辺王 いけべのおおきみ 生没年未詳

葛野王の子。大友皇子・十市皇女の孫。額田王の曾孫。淡海三船の父。神亀元年(724)一月、従五位下に初叙。天平九年(737)十二月、内匠頭。万葉集に一首載る。

池辺王の宴に(うた)ふ歌一首

松の葉に月は(ゆつ)りぬ黄葉(もみちば)の過ぐれや君が逢はぬ夜ぞ多き(万4-623)

【通釈】あなたを待つうちに月影は再びあの松の葉にかかる程になった。それ程の月日が過ぎたのだろうか。あなたと逢わなくなって、多くの夜を経たものだ…。

【語釈】◇松の葉に 「松」に「待つ」の意を掛けるか。◇黄葉の 紅葉した葉は盛りを過ぎて衰えることから、「過ぐ」にかかる枕詞。◇過ぐれや 月日が経過したのだろうか。「過ぐ」には死ぬ意もあり、「あの世へ行ったか」と解釈する人もいる。

【補記】池辺王が宴席で誦したという歌。「誦ふ歌」とあって「作る歌」とあるのではないので、池辺王のオリジナルとは限らない。「君」は普通女から男を呼ぶ称なので、女の立場で、恋人の男の夜離(よが)れの長さを月光に寄せて詠嘆した歌であろう。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成21年05月01日