ゲームのイベント探訪記


「会津坂下初市大俵引き」


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 綱引きは日本各地にある行事だが、福島県会津地方の綱引きはちょっとした特徴がある。ただ綱を引き合うのではなく、中央に俵を置き、その両側に綱を付けて引き合うのである。これが5,6箇所で行なわれている。会津坂下町では初市俵引きと称し、大俵引きが行なわれる。

 平成22年1月、会津地方は十数年ぶりの猛吹雪となった。前日に会津若松に入った私は、市内に宿を取り、この日の朝、駅前のバスターミナルを出発した。会津坂下町には、JR只見線とバスが通っているが、JRは早朝の後はしばらく便が無いこともあってバスの方が良いと判断したのである。雪国であるからバスは滅多な事では運休にならないだろうと思ったが、予定通り走ってくれた。しかしながら天候が良かったのは会津若松駅前だけで、少し走ると雪と風が強くなってきた。バスの中では同じように綱引きを見に行くと思われる老人たちが大声で綱引きや天候のことを話し合っていた。バス停から会場までの道がわかるか不安があったが、彼らについて行けば何とかなるだろう。同行者がいるというのは、何かと安心できるものだ。

 もっとも全員が予想していない事態というのもある。事前の情報では、綱引きが行なわれるのは役場前広場となっていて、バス停も役場前というのがあるので、そこで降りれば良いと思っていたのだが、バスの運転手が途中のバス停で振り向き、「本日は初市祭礼のため、町内は通行止めで迂回路を取ります。」と言い出したのである。これは困ったことになったぞ、と思ったが、やはり大声で話し合っていたおじさんたちも同様だった。「じゃあ、綱引きを見るにはどこで降りればいいんだ!?」「役場前の臨時バス停です。着いたら言います。」やはり同行者は頼もしい。
 それから10分ほどでバスは臨時バス停に着いた。「ここからそこの道をまっすぐ行ってもらえれば役場前です。」運転手の案内はそれだけだ。どれくらいかかるかはわからない。何しろ舗装してあるとはいえ数十センチの雪が積もっている道である。どのくらいの速さで歩けるか皆目見当もつかない。10人ほどの男たちが、その雪の中を歩き始めた。私も遅れないように着いていく。心配は不要だった。ほんの5分ほどで屋台と警備員がいるところに行き着いた。祭りの会場は近そうだ。警備員に聞いてみると、ここが会場の一方の端で、中央の役場前は歩いて3分程のところとのこと。まだ綱引きまでは2時間以上もある。ちょっと拍子抜けだ。

 2列に並んだ屋台の列に沿って歩いていくと、確かに3分程で役場前に出た。広場には大きな縄が丸めて置いてある。役場の正面には「初市」「大綱引き会場」などと書かれた板が掲げられてある。ここが綱引きの会場に間違いは無かった。

 屋台も半分は準備中で、商店街は多くが休んでいて喫茶店も無い。2時間も降りしきる雪の中で立ち続けるのはいやだ。こういうときは駅が良い。駅はみんなの味方だ。無料で座って休める。私は会場を後にして駅へ向かった。事前の情報では歩いて15分くらいとのこと。多少地面の雪が気になるが仕方が無い。2時間待つよりはましだ。

 実際のところ、駅は存外早く、10分ほどで着いた。田舎の駅らしい寂しい駅舎だが有人駅だった。待合室は思ったより広く、ありがたいことにストーブが燃え盛っていた。他に人もいないので濡れた靴下を脱いで乾かす。ほとんど列車の便が無いため、人が来ないのがありがたい。

   12時半、駅を出発。役場前に着くと、当たり前だが人が増えていた。祭りの最初は太鼓の演奏。役場前広場に停められたトラックの荷台で行なわれた。それが済むと、まずスポーツ少年団による俵引き。役場前の道路に長く綱が置かれていき、道を明けるようマイクの指示が飛ぶ。撮影に良い場所を取らなければ、といろいろ考えた末に中央部から50mほど離れたところに陣取る。離れたところから撮りたいのだが、高い所に上れないので縦に撮るしかないと判断した。10分ほどでスポーツ少年団がやってくるのだが、寒さのためその10分が非常に長く感じられた。少年団は上半身裸だ。偉い。

 綱引き開始。予想通り、縦に撮ると中央部が良く見えない。横に撮っても距離が近過ぎて数人しか映らないし、離れれば人垣で全く撮れない。カメラを高く掲げてもあまり変わりは無い。大人の俵引きまでに何か考えなければ。子供の俵引きが終了。私は役場前の若干高くなっているところに移動した。雪で危険だが、少しでもいい映像を撮るためにはやむをえない。

14時、いよいよ大人の部の開始。広場においてあった巨大な俵が道路に移される。子供用は小さかったが、大人は本物を使うようだ。大人のまず裃姿の町長らが神主の祷りを受ける。続いて引き手が入場。マイクで名前と居住地が読み上げられる。ここは引き手が足りないので全国各地から募集しているのである。若干の挨拶があり、中央の俵に町長らが乗って綱引き開始。中央の大俵はほとんど動いているのがわからないが、1分ほどで勝負がつく。全部で3回行なわれ、一方の勝利が決定。4回目は観客が入って良いとのことで大賑わい。引き手の記念撮影があって、目出度く大俵引きはお開きとなった。

 祭りはこの後、鏡開き、餅つき、福俵撒きと続いた。バスの時間が十分あるので見ていたところ、自分のいるところにミカンが振ってきた。なにやら紙切れが付いているので開けてみると「高級醤油1リットル」と書いてあった。それを持って旅を続けるわけにもいかないので、子連れのため福俵撒きに加われない主婦らしき女性がいたので、紙を渡して会津坂下町に別れを告げた。

 

 

 

 


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