ゲームのイベント探訪記


球磨拳


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 「うんすんカルタ」と並ぶ人吉の伝統遊戯。それが球磨拳(くまけん)である。球磨拳はじゃんけんのような拳遊びの一種で、人吉市とその周辺の町村で行われている。話によれば江戸勤めの武士の間でできたらしいのだが、発祥の経路はそれ以上は不明である。拳遊びは形を出して勝敗を競うすくみ拳と、数を出し同時に合計を言って当てあう数拳があるが、球磨拳は数を出して勝敗を競うすくみ拳という珍しい形式である。どう勝負を決めるかというと、0から5までの数を片手で作って同時に出し、一つ大きいものが勝つのである。例えば2は1に勝ち、4は3に勝つ。さらに、すくみ拳らしく0は5に勝つのである。では差が1でないときはどうなるのか、というとこれは無勝負(あいこ)で打ちなおしである。やたらあいこが多そうな気がするが、早く打てば勝負が着くまでにそれほど長くはかからない。ただし、球磨拳の勝負は2回続けて勝って始めて一本となるので、慣れていない者がやるとそれなりに時間はかかるかもしれない。その球磨拳の大会が年に一回行われている。その名も熊本日日新聞社主催球磨拳選手権大会で、平成13年度で第34回を迎える。会場は人吉駅から徒歩30分ほど(バスもある)、球磨川のほとりに建つ国民宿舎「くまがわ荘」。参加は5人一組で、今回の参加は12組60名。最初に大会委員長の球磨拳保存会長の挨拶後、組合長の人吉市長挨拶。こんな酒の席の遊びを新聞社が後援して大会をするのさえ立派だが、市長が組合長を勤めているのはもっと偉い。

 参加者には球磨焼酎の小瓶とおつまみが参加賞として配られている。通常は負けたら焼酎を飲むのだが、この大会は試合中の飲酒だけは禁止となっている。とはいうものの参加賞はあちこちで口が開いている。年に一度の祭りのようなものだ。いくら会場が国民宿舎と言っても、休憩中の飲酒を禁ずるのは野暮と言うものだろう。

 さて試合形式だが、まず5人全員が向き合って座る。個人の間には台があり、割り箸のようなものが10本乗っている。先程2回連続して勝ったら一本と書いたが、一本取ったらこの棒を一本取れるのである。そして10本の棒が無くなったら、この2人の対戦は終わりとなる。5対5でも決定戦などは無い。団体戦だから関係無いのである。5組の対戦が終わると、一方の組の端の一人が反対側へ移動して一人ずつずれ、新たな組み合わせとなって10本の棒を取りあう。これを5回、すなわち一人が相手チーム5人すべてと行って1試合は終了する。結果は合計250本の棒が何対何で取られたかで表され、もちろん多い方が勝ちとなる。まれだが250対250の場合は1本を賭けて最後の組み合わせの5組が勝負を行って決めるらしい。何かものすごく長い時間がかかる気がするが、この一試合が1時間ほどで終わる。何しろ拳を打つ速度が驚くほど早い。だいたい一秒間に2回の速さで打っているのだ。だから一分あれば棒一本の勝負は終わることになり、10本取り終わるのは10分。これを5人とやって50分あれば終わるのである。素人目にはどちらが勝っているのかわからない。が、彼らは1回勝ったら「いち!」あるいは「いっちょ!」と叫び、2回勝ったらきちんとやめる(やめずに続けて打ってしまうと、勝ちが無効になるらしい)。我々でもグー、チョキ、パーのじゃんけんであれば、その速さでも勝ち負けはわかるだろう。しかしそれはもの心ついてから何十年もやっているからである。球磨拳は6種類である。グー、チョキ、パーのじゃんけんより複雑である。瞬時に勝敗を判別できるようになるためにはかなりの年月を要するはずだ。これぞまさに修練の賜物、伝統の技である。無形文化財にしてもいいくらいだ。この速さ、何年ぐらいやればそうなるものか尋ねてみた。2,3年かと聞いたら笑われた。「2,30年だよ。」と言われたが確かにそうかももしれない。

これだけ修練を要するとなれば後継世代がいないことは容易に予想が着く。たずねて見れば予想どおり若い人にやり手がおらず困っているとのことであった。が、小学校で教えている、という声も聞かれた。まだ諦めたものではないのかもしれない。


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