高橋会長ヨーロッパゲーム探訪記


第2部:ゲーム博物館見学の巻

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 世界にはカードゲームの博物館なるものがいくつか存在しているらしい。そ こへ行けばククの秘密も解き明かされるかもしれない。いくつかの住所を手に 入れた私は、これらの訪問を試みた。

●フランスの章

 1996年も押しつまった12月31日。私はフランスの首都パリにいた。 この郊外にフランスのカードゲーム博物館があるのである。日本なら年末年始 休業と言うものがあるが、ヨーロッパは基本的に1月1日が祝日なだけで、1 2月31日も1月2日も普段と何ら変わらない。ただ午前中で閉館、などとい うことはあるかもしれない。午前11時半。私は急いだ。地下鉄の終点から歩 いて3分。カードゲーム博物館の看板はあった。だがドアは閉まっていた。横 の呼び鈴を押す。しばらくしてドアが開き、怪訝そうな表情で若い女性が顔を 出した。
「あの、今日は休みですか?」
「え、ええ。」
残念。年末休業中だろうか?私は1月2日まではパリにいる予定だ。 「1月2日はやってますか?」
フランス語で早口でまくしたてられたので良く分からなかったが、年末年始だ けでなく、しばらく休んでいるようだった。スゴスゴと退散。

●ベルギーの章

 2つ目はベルギーである。チュルノーという街にカードゲームは博物館があ るらしい。だが場所が分からない。まずは首都ブリュッセルに行き、そこの観 光案内所あたりで調べようと思っていた私が時刻表の地図の中にその名前を見 つけたのは、ベルギーに入る直前であった。チュルノーがブリュッセルよりア ントワープの方に近いと見て取った私は直前で予定を変更しアントワープに向 かった。  到着は夕方。そしてそこに宿を取った私は、翌朝まずアントワープの観光案 内所へ。もしかしたらチュルノーの博物館について情報が聞けるかもしれない し、休みだったりした場合、行ってからでは大損である。観光案内所にいたお 兄さんは昨年日本に来たことがあるようで、
「トウキョウはどこだい。マツドを知っているか。僕はマツドの友達のところ にいたんだ。エドガワでサイクリングもしたんだ。」
と大変な日本びいき。チュルノーの博物館に電話を入れて今日開いていること を確認してくれた上に、
「カードゲームの研究をしているのか。マジックっていうゲームを知っている かい。僕はタカマツで日本語のカードを買ったんだ。チュルノーにはカルタム ンディという大きなカードゲームの会社があるんだ。そこにも行ってみるとい いよ。ちょっと待って、電話してみるから。」
 こっちの意向も聞かず電話をかけ出した。そういえばマジックはどの国の版 も全てベルギーで作られているという話を聞いたことがあるぞ。
「OKだ。会ってくれるそうだ。場所はここだよ。」
なんかとんでもないことになってしまった。
 アントワープから電車で約1時間。チュルノーは予想通り小さな駅の街だっ た。荷物預かりも無いため、20数キロのかばんを持ったまま、まずバスでカ ルタムンディのある通りへ。工場が建ち並ぶ広い通りを歩くこと十数分。玄関 を入ると受付の女性が、
「アントワープから電話のあった日本の方ですね。お待ちしていました。」
ゲームの調査をしていることを告げると、電話で誰かを呼び出している様子。 で現れたのは中年のおじさん。ククについて一通り説明するが、どうも知らな いようだ。一応ククの絵を見せる。
「イタリアとスウェーデンとノルウェーでは見つけたんですけど、ドイツには 残ってないですかねぇ。」
「これはないねぇ。」
「どうして他は残っていてドイツだけ残っていないんでしょうか。」
「ドイツは大きな変革が何度もあったからねぇ。北欧はほとんど変わってない だろう。」
なるほど、そんなことも原因かなぁ。とにかくたいした情報は得られなかった。 土産のパンフレットとカード1組をもらって駅まで戻る。

 街の中ほどに観光案内所がある。もらった街の案内パンフがトランプの形。 外の広場にはトランプの絵札の旗が翻っている。
「ここはトランプが有名なんですか。」
「そうよ。ここにはトランプの会社があるから。」と案内所のおばさん。
「たくさんあるんですか。」
「いいえ、一つだけよ。」
「ああ、カルタムンディですね。」
「ええ。」

 2時になったのでカード博物館へ。なにしろ開館時間が2時から5時までな のだ。泊まって朝一番で来たら大きな無駄になるところだった。外見は4階建 ての立派な建物だ。受け付けで入場料を払うと「プレイングカード国立博物館」 と書かれたトランプを一組くれた。気が利いている。中は広い体育館のような 感じでカードを印刷、裁断した機械が並んでいる。壁には様々なデザインのカ ードが展示されている。ほとんどすべてヨーロッパのもので、トランプとタロ ーが半々ぐらい。イタリアのものはだいたい現在のもののようであった。一角 に日本の花札、株札、うんすんカルタも置かれていた。ざっと10分ほどで見 終わった。そして展示はここ1フロアだけとのことだった。おそらくカルタム ンディが自分のところで使っていた機械と持っていた古いカードを提出して作 られたのだろう。少々期待外れの感がある。受け付けの人も詳しくはないよう だ。ベルギーでククの手がかりは得られないだろうと思ったが予想通り。

●ドイツの章

 ドイツのカード博物館はラインフェルデン・エヒターディンゲンというとこ ろにあるらしい。地図で見てもまったくわからない。時刻表の地図にはライネ フェルデンという地名があるが、どちらかが誤植でなかったらまったく違う処 に行ってしまうことになる。駅のインフォメーションで聞いてもそんな駅はな いという。そこで私は地図屋に行った。だが大きな地図を見ても索引を見ても さっぱりわからない。思い余って店員に相談。店員は、どう見ても買いに来た 客には見えない私のために大きな地図本を繰ってくれた。
「あったよ。ここだ。シュトゥットガルトの近くだね。」
「鉄道は通ってないでしょうか。」
「シュトゥットガルトから空港へ行く鉄道が近くを通ってるね。」
「どうもありがとうございます。」

 シュトゥットガルトに着いたのは土曜の朝の9時頃。駅の案内所で聞くと、 ラインフェルデンには空港行きの近郊電車か地下鉄があるので、カード博物館 のことはそちらで聞いてくれと言われる。大きな市街地図があったので見てみ るとラインフェルデンとエヒターディンゲンは隣町だということがわかった。 カード博物館はラインフェルデンの駅で降りた方が近そうだ。近郊電車で20 分。ラインフェルデンの駅に着く。駅舎も何も無い小さな駅だ。閑静な住宅街 の中をカード博物館まで歩く。十字路にハートとスペードに「博物館→」とい う標識が立っている。これがそうに違いない。
 およそ10分で大きな鉄筋造りの建物に到着。だが無情にも扉は閉まってい た。「火〜金曜:14〜17時、日曜:10〜13時。」てことは月・土休館か。うう ん、これはひどい。しばらくショックで呆然。
 いろいろ考えた末、この日はシュトゥットガルトに宿泊。翌朝一番で来るこ とにする。他の博物館は中止。ここに賭けよう。

   翌日曜朝、一つ電車に乗り遅れたので博物館着は10時半。その大きな建物 の地下が博物館になっていた。広さはチュルノーと同じくらい。しかしこちら は機械はなく、カードの展示だけである。しかし種類は多い。インドのガンジ ハ用丸カードが延々続く。日本の百人一首やうんすんカルタも置いてある。そ してヨーロッパ。そして・・・
 !!。こ・れ・は!!。ヘクセンカードが置いてある!!。イタリアのククがドイ ツに伝わった形だと言われるヘクセンカード。ついにここで現物に巡り逢えた。 一組ではなく、たった6枚だけれど。今回の旅の目的を果たしたような満足感 が沸き上がる。
 本のコーナーには大きなカタログ本らしきものが置いてある。値段は120 DM(約8000円)。財布を開けると…100DMしかない。しまった。一度に 大金を持たないのが災いしてしまった。クレジットカードは受け付けてくれな いというし。日曜でなければ駅前の銀行でおろせるのだが・・・。
「銀行の現金引き出し機は開いてないですよね。」
「今日はみんな閉まってるわ。」受け付けのおばさんも同情している。
シュトゥットガルト駅の銀行は開いているのだが、1時までに帰ってこられる かというと電車の本数から考えると無理そうだ。もう一日泊まって来るしかな いのか・・・
「銀行の現金引き出し機はやっているわよ。」頭を抱えていた私におばさんが 声をかける。
「現金引き出し機は使えます?」
「ええ。」
そうか、さっきの私の質問は「銀行は開いてないか」だと思って閉まっている と言ったのだ。ラッキー。私は荷物をつかんで外に出た。口座はなくてもクレ ジットカードさえあれば金はいくらでも出てくる。24時間いつでも。便利に なったものだ。ラインフェルデンの街の銀行で現金を引き出して博物館に戻り カタログ等数冊の本を買う。いろいろと話をしたいがこのおばさんも単なる受 け付けで詳しくはなさそうだ。第一英語が話せないので、私のお粗末なドイツ 語ではほとんど会話が成り立たない。写真を撮っていいかどうか尋ねたところ、 近づけて撮るのは2枚だけ、ということなので、ヘクセンカードだけ撮らせて もらう。後は本を見ることにしよう。

あわただしくも充実した2時間であった。


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