A56.室戸岬観測所、2013年
ー地球温暖化監視の重要な観測所ー


著者:近藤純正
高知県東部の室戸岬気象観測所は、地球温暖化など気候変化を監視する重要な 気候観測所である。 (完成:2013年2月22日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。

これは、室戸岬気象観測所の見学会(2013年2月20日)において参加者に配布した 資料である(質問にもとづき加筆した内容である)。


トップページへ 応援会情報の目次



室戸岬気象観測所(旧室戸岬測候所、現在は室戸岬特別地域気象観測所)は、 設立されてから今年で93年目になる。

位置と標高
北緯33度15.1分、東経134度10.6分、標高185m

沿革(主なことのみ)
大正9年(1920年)7月10日 中央気象台 室戸測候所として設立、気象観測開始
昭和11年(1936年)7月5日 室戸岬測候所と改称
昭和35年(1960年)8月25日 気象レーダー1号機設置
昭和36年(1961年)9月の第2室戸台風襲来時に気象レーダーで台風の全体像を観測
昭和45年(1970年)4月1日 スカイライン完成
平成18年(2006年)11月28日 風向風速計を海上保安庁無線方位信号所敷地内に移設
平成19年(2007年)5月31日 旧測風塔(40m)を解体
平成20年(2008年)10月1日 無人化、室戸岬特別地域気象観測所となる
平成23年(2011年)3月    同上 観測所局舎完成

観測露場における観測
気温、湿度、降水量、視程、日照時間、および震度

記録的な気象
室戸台風:1934年(昭和9年)9月21日午前5時ころに室戸岬付近に上陸した台風で、 西日本を中心に大きな災害がもたらされた。死者・行方不明3,036人、負傷者14,994人、 被害住宅92,740戸、被害船舶27,594隻である。

室戸岬上陸時の中心気圧は911.6ヘクトパスカル(ミリバール)であり、戦前の日本 本土に上陸した台風の中で上陸時の中心気圧が最も低い台風である。室戸岬では 最大瞬間風速60m/sを記録したのち器械が破損、正確な数値は不明である。

第2室戸台風:1961年(昭和36年)9月16日午前9時過ぎに室戸岬西方に上陸し、 大阪湾沿岸に大きな被害を及ぼした。被害は死者・不明202人、負傷4,972人、 住宅499,444戸、船舶2,540隻。上陸時に、中心気圧925ヘクトパスカル、 最大風速66.7m/s、最大瞬間風速84.5m/s以上の新記録を観測した。ただし、この記録は その後、1966年の第2宮古島台風にともなう最大瞬間風速85.3m/sによって更新された。

最大風速の記録:富士山頂を除けば歴代全国ランキング1位の最大風速69.8m/s が 1965年9月10日(昭40年)の台風23号のときに記録された。

注1: 上記の風速記録は旧測風塔による高度41.8mにおける値(69.8m/s)である。2006年 から使用されている現在の測風塔(標高=161m、風速計高度=21.8m)で観測された とすれば、69.8×0.86=60.0m/sと推定され、それでも強い風速であり、 旧測風塔が高かったことだけが強風の理由ではない。 なお、係数0.86は現在の測風塔における平均風速の旧測風塔における平均風速に対する 比である。「A51. 室戸岬の気象」の表57.7の注3を参照 のこと。

重要性
室戸岬は本土における台風観測の最前線、「台風銀座」として注目されてきた。 最近の室戸岬観測所は、地球規模の地球温暖化を監視する上で重要な観測所となって いる。

日本の多くの気象観測所は、周辺が舗装され、ビルが増えるなど都市化されて 都市独特の気候が現れ、地球温暖化などの地球規模の気候変化を正しく観測でき なくなってきた。表1は室戸岬と高知の年平均気温の比較である。最近の高知が 室戸岬より高温となったのは、都市化の影響によるものである。

表1 室戸岬と高知の年平均気温の比較
                室戸岬	高知	気温差
1921~1950年	16.1	15.6	0.5℃ 昔は、南にある室戸岬が高温
1980~2009年	16.6	16.9 -0.3℃ 最近は、高知が高温
 気温上昇量	 0.5	 1.3

注2: 室戸岬観測所の標高=185mである。気温に及ぼす標高差を考慮すると、
 岬の海岸近くでは、年平均気温は上記より約1℃高温と推定される。
注3: 室戸の市街地では、都市化の影響により、岬の海岸近くより0.5℃ほど高温と
 推定される(日本の中都市の都市化による気温上昇は平均約0.5℃である)。
 したがって、室戸市街地の1980~2009年の年平均気温推定値は18.1℃であり、
 高知より1.2℃高温と推定される注4: 地球温暖化と都市化による気温上昇の分離は、
「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」を参照のこと。中都市の都市化
による気温上昇量(平均として0.5℃)はその中の図8に示されている。	


長期的な気候変化を正しく観測できる気候観測所は、北海道日本海沿岸の寿都、 岩手県三陸沿岸の宮古、高知県東部の室戸岬の3か所である。ほかに鹿児島県屋久島 と沖縄県最西端の与那国島も環境に恵まれているが、観測期間が短い。

これら3か所のうち、室戸岬観測所は環境にもっとも恵まれた気候観測所であり、 将来にわたり観測環境を大事に守っていかなければならない。温暖化など長期の 気候変化は100年間当たりわずか0.7℃である。それゆえ、高い精度で観測しなければ ならない。高精度の観測を行うには、周辺を含む観測環境を可能な限り一定に 保つことが重要となる。

観測環境の維持管理のために、露場から見た周辺の樹木等の仰角測量と露場での 風速の長期観測が必要である。現在、露場での風速の試験観測が行われている。

備考:
旧測風塔に設置された風向・風速計の地上からの高さは41.8mであったが、風向風速計 のみ2006年11月28日に室戸岬灯台の北側、標高161mの場所に建つ鉄塔の地上21.8mの 高さに移設された。この移設により、 2007年以後の年平均風速は従来の値の約86%に 減少している。

詳しい内容は次を参照してください。
近藤純正ホームページ 「気候観測応援会」の、
A51. 室戸岬の気象
A52. 室戸岬気象観測所



トップページへ 応援会情報の目次