プログラム
ヨハン・セバスティアン・バッハ Johann Sebastian Bach (1685-1750)
イタリア協奏曲へ長調 Italienisches Konzert F-Dur
Allegro moderatoー AndanteーPresto

ロベルト・シューマン Robert Schumann (1810-1886)
幻想曲集作品12 Fantasiestucke op.12
1.Des Abends  夕べ
2.Aufschwung 飛翔
3.Wamm?  なぜ?
4.Grillen 気まぐれ
5.Inder Nacht 夜に
6.Fabel おとぎ話
7.Traumes Wirren 夢のもつれ
8.Endevom Lied 歌のおわり
一一一一一一一一一休憩一一一一一一一一
セルゲイ・ラフマニノフ Sergej Rachmaninov (1873_1943)
コレルリの主題による変奏曲作品42 Variationen uber ein Thema von Corelli op.42

フランツ・リスト Franz Liszt (1811_1886)
水面を歩くポールの聖フランソア St.Frangois de Paule marchant sur les flots

御挨拶

 アルファベットの組合わせによって、言葉が出来、意味が出てくるように、音楽では各音間の音程が、この言葉にあたる役割を果たしています。したがって、音と音との関係を知ること、音程間をよく聴く事が、よくわかる語り口となります。
 ピアノの音楽のこの語り口を、いかにしたら、自由自在に調整出来るかについて、私は長年たずさわっております。
 各々の作曲家の語り口を皆様とご一緒に楽しむことが出来ましたなら、この上なく幸せに存じます。
 去る8月末、3日間にわたり、はじめて"Michiko Tsuda Musik Treffen" と題して私のピアノを中心に室内楽などで、小さなフェスティバルをチューリヒのトーンハレ小ホールでいたしました。おかげ様で多くの方々の集いの場となり、大変喜んでいただくことが出来ました。来年も続けるつもりでおります。日本からもこのフェスティバルにご参加いただけましたら、どんなに嬉しいことでしょう。私の楽しみな夢の一つでございます。

Program Note

バッハ : イタリア協奏曲へ長調
 この曲はバッハのライプチヒ時代(1723-1750)に作曲され、1753年に出版されました。バッハはこの曲にイタリア好みによる協奏曲と題をつけました。すでにワイマール時代(1708-1717)に宮廷オルガニスト、ウィルヘルム・エルネストから影響をうけ、当時、コレルリやヴィヴアルディの作曲家によりイタリアで完成していた協奏曲の様式を研究していました。この曲はひとつのクライヴイーアという楽器で協奏曲の総奏と独奏の効果を出すように工夫されています。2楽章のオスティナート・バスの上に自由に歌うアリアはとても味わいが深く、何度弾いてもすばらしいの一語に尽きます。

シューマン : 幻想曲集作品12
 この8つの標題はE.T.A.ホフマンの"カロツツ・マニールの幻想集"に見いだせるもので、ホフマンの夢や幻影の世界からのしゃれ、徹底的な皮肉などを、シューマンは意味深長な、そして色々な調の音の響きで表現しています。
 これはシューマンの初期の作品で、許婚者クララとの仲がなかなか思うようにいかず悩んでいる時、1837年に作曲しました。
 中学一年の夏、7番目の"夢のもつれ"を"指のもつれ"などと先生に言われながら勉強していたことを思い出しますが、以来、全曲を通して演奏する機会はありませんでした。この曲もいつか弾きたかった曲の一つです。
 子供の頃は楽譜を忠実によみ、演奏し、いい曲だなと感じるだけでしたが、今回は新しい曲を弾くような新鮮さで取り組むことが出来ました。とくに一音と一音の間のつながり具合、音程や和音のふくらみなど、一回弾く度に少しずつちがいが味わえ、シュ一マンの音楽のスペ一スの広さに驚くと共に、充分に楽しむことが出来ました。

ラフマニノフ : コレルリの主題による変奏曲作品42
 ヴァイオリニスト、フリッツ・クライスラーに捧げられた20の変奏曲と間奏曲、コーダからなるこの変奏曲のテーマは、コレルリのヴァイオリンソナタの最終楽章にとりあげられたスペインの民謡"ラ・フォリア"です。このテーマは多くの作曲家がとりあげていますが、ラフマニノフは種々な形の他の変奏曲には無い独特な展開をする変奏曲に仕上げています。
 ブリュッセルに留学していた時、ラフマニノフのプレリュードやエチュードを聴くために買い求めた、若かりし頃のアシュケナージのレコードに、この曲が入っていました。
 もの悲しいテーマ、そして変奏曲の和声の展開には強い印象をうけ、毎晩よく聴いたものでした。
 ニューヨークで暮らす故郷を離れたラフマニノフの心情が、さながら風景のように心にうかんできます。

リスト : 水画を歩くポールの聖フランソア
 "二つの伝説"からの一曲で、1863年に作られ、リストの一番下の娘コジマに捧げられた曲です。燃える石炭を片手に、もう片方の手を高くかざしたポーラの聖フランシスが波の上を歩む姿を描写的につづったものですが、ピアノで表現するリストの手法に感心します。ピアノという楽器を充分に活かして演奏することが出来る、多くの楽しみのある曲だと思いました。