プログラム

ヨハン・セバスティアン・バッハ (1685一1750)
  トッカータ ニ長調 BWV.912
Johann Sebastian Bach Toccata D-Dur BWV.912

セルゲイ・プロコフィエフ(1891ー1953)
  ソナタ第7番作品83
プログラム

ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)
プレリュードとフーガ変ホ長調
Johann Sebastian Bach Praludium und Fuge BWV 876 Es-Dur
   (aus dem Wohltemperierten Klavier)

ルードィッヒ・ファン・べート一ヴェン (1770一一1827)
ソナタ変ホ長調作品7
Ludwig van Beethoven Sonate Op.7 Es-Dur
  
1楽章 Molto Allegro e con brio
2楽章 Largo con gran espressione
3楽章 Allegro
4楽章 Rondo

一一一一一一一一一休憩一一一一一一一一

クロード・ドビュッシー  (1862-1918)
映像第1集
Claude Debussy Images l
  
Reflets dans l'eau 水の反映
Hommage a Rameau ラモーをたたえて
Mouvement 運動

フランツ・シューベルト (1797-1828)
即興田作品90
Franz Schubert Vier Impromptus.Op.90 D.899
  
Anegro molto moderato ハ短調
Allegro 変ホ長調
Andante 変ト長調
Allegretto 変イ長調

津田理子さん自身の手によるプログラムノートです。
 鐘は世界中いたるところにあります。
 ヨーロッパの中でもとくにスイスでは教会の鐘が人々の生活の中心にすらなっています。文化や習慣のちがいで鐘はいろいろに鳴らされますが、鐘をひびかせようとする根本はいつも同じです。一回うつことによってひとつの響きがつくられます。たくさん鳴らすことによって相応する様々の交ざりあった響の構成者がつくられます。そして音が鳴りひびいていくとき、また消えさっていくとき倍音が生まれます。
 鐘の響きは村や山や風景の空間に共鳴します。静かな谷ではとくによくそれらを追うことが出来ます。人里はなれたアルプスでは単なる牛の鈴からでもそれを聞き分けることが出来ます。
 空間を共鳴させる響きは演奏会の本質でもあります。響きが空間へ共鳴していく過程、関係は、響きがいかに空間におかれるかによって毎回ちがってきます。一かたまり音そしてそれに引続く音の集団は秩序だった拍との関係において、又音楽形式として全体のどこに位置するか(フレーズとして…テーマとして…etcl)によって、どのような一音であるべきかがきまってきます。
 不変なる拍が支配するか、時間的に自由な音のグループ(ルバートやアゴーギク)が支配するか、二つの対照的な音楽になってきます。
 おおまかに云えば、1800年ごろまでの古典音楽は、この定期的な拍の動きが一番中心になっています。つまり継続する振子のように同じ拍でかわらず続くことが、作曲法の基本としても一つの条件でありました。1850年ごろまでには速度をゆらすアゴーギクが作曲法のさけられない要素として中心におさまってきます。ここでは時間的なルバートやアゴーギクの動き(ゆれ)が中心になりそこから秩序が出来、音楽を支配していきます(ブラームスの音楽など)。今回のプログラムではとくにこの拍が中心になっている音楽(バッハ、べ一トーヴェン、シューベルト)を集めました。各作品の響きが増加していく過程、とくに空間へ共鳴していく関係に、"鐘のひびきの原理"とこれらの作品の類似性がよく表わされていると感じます。
 シューベルトのとなりにドビュッシーをもってくるのは無理のようにみえるかもしれませんが、時代も様式もとびこえ.てなお空間と時間の中にいかに響きが発展していくかと、同じ注目点において二つの作品の比較がより特別な緊張感を生むのではないかと思うのです。シューベルトもドビュッシーもこの点については個人的作風に各々自由に対応しています。
 この様に基本はいつも同じで、そこから音楽が生まれるわけです。いろいろな音のくみ合わせを最適にひびかせることによって皆様とご一緒に音の醍醐味にふれることが出来ましたならば幸に存じます。

 バッハの平均率は、べ一トーヴェンのソナタと同じ調の変ホ長調のプレリュードとフーガをとりあげました。本当に簡素な音のくみあわせで、なんとも広い宇宙に広がっていく音楽の大きさにいつもながら感動して弾いています。
 べ一トーヴェンのソナタ作品7は1797年に出版され、その広告がウィーンの新聞に出ていることから、およそ1796〜97年に作曲されたものと思われています。若いべ一トーヴェンがますます成長していく過程の作品で、初期のソナタの中ではじめての大きなソナタといえる充実した曲です。一とくにひびきの美しい2楽章、ひと"愛する女"と通称されるようにとても優雅な幸せな気分の4楽章一。
 ドビュッシーの映像は1905年に作曲されました。新しい和音と手法によるピアノのひびきで光や水のゆらめきを表わしています。とくに水の反映は曲全体がルバートですから、このルバートから秩序が生まれて新しいひびきが共鳴していきます。
 シューベルトの即興曲はおよそ1827年(シューベルトの死の前年)に作曲されたものと思われています。シューベルトはリードの作曲家として有名なように天性歌う人でありました。ながれるようにきれいなメロディーのせん細なニュアンスを、自由な和声、無限な転調がささえています。今回思いきってはじめてシューベルトをとりあげてみました。