スイス音楽紀行について

 「スイスには文化がない」とよく言われます。氷と万年雪の山と美しい湖水はあるがベートーヴェンやバッハ、モーツァルトはいるのかね?と言われると、そうですねとしか言えません。
 ゴッホもピカソもセザンヌもいません。
 スイスにはウィーンやパリ、ローマのような意味での町はありません。

 しかし、かけがえのない文化の世界はここにもあるのです。
 パリ・コミューンの騒乱を逃れて、ガブリエル・フォーレはスイスにやって来ましたし、ロシア革命と第一次世界大戦を逃れて、ストラヴィンスキーがレマン湖畔に住み、ここで多くの傑作を作っています。
 第二次世界大戦によって、大戦中はスイスに多くの非ナチの音楽家が逃げ込んで来ました。そして大戦後は、ナチに協力したということで、追放された音楽家もここにやってきました。また、引退した音楽家たちの多くが、たそがれの時をここで迎えています。

 戦争や騒乱から逃れてきた音楽家たちの、新たな創造の場の提供だけでなく、ブラームスやワーグナー、リストといったロマン派の楽聖たちの創造の場であったことも、記憶しておきたい事実です。
 更に今世紀後半の古楽ブームの火付け役となった、バーゼル・スコラ・カントゥルムの活動や、ブーレーズなどの現代音楽の活動を手助けし、その果たした役割は決して小さくはありません。

 スイスに限らず、ヨーロッパの町や村には教会があり、そこに多くの場合、立派なパイプオルガンが設置され、ミサの時、冠婚葬祭の時、コンサートの時と、みなさんもオルガンの音楽を聞かれたこともあるかも知れません。
 オルガンの音楽は、日本人にはなかなか馴染みがない部分はありますが、そういう面からもスイスの文化を考えてみたいと思います。 

 美しい山と空、夏の風がアルプスを越えてやって来ます。
 涼しげな風景にカウベルの甲高い音が共鳴しあい、独特の情緒を醸しています。
 ハイキングに、トレッキングに、山登り…。
 スイスの夏はたくさんの楽しみを与えてくれます。
 そして音楽祭。
 ルツェルン、モントルー、ヴェルヴィエ、シオン、インターラーケン。色々な場所で開かれます。
 美しい風景の中に音楽がとけ込み、私たちの心に響いてきます。
 多くのハイキングやトレッキングの案内や、観光案内はありますが、音楽という視点からスイスを旅してみましょう。
 ちょっと違った世界もかいま見えるかも知れません。