1996年労働者派遣法改正についての意見

 労働者派遣法改正についての意見労働者派遣法改正案は、この国会で成立してしまいました。

対象業務の拡大を中心にした、今回の改正について、反対の立場から、派遣労働者保護については、より具体的な保護を求めるのが私の基本的立場です。国会では、とくに、国際的比較の視点から、労働者派遣法の問題点を改めて指摘しました。

長い発言ですが、労働者派遣法の問題点をまとめています。

ある限りの知識をまとめて発言しました。後から読むと、言葉使いを含めて、恥ずかしいものですが、一つの記録として掲載します。

とくに、派遣労働の形式で働いている方のご意見を聞かせていただきたく思っています。

(途中の見出しは、読みやすくするために、付けました。現在、英文にするための作業中です)。


第136回国会 参議院労働委員会での参考人としての発言(一部)

平成8年(1996年)4月18日(木)午後1時開会

なお、当日の参考人は、私以外に下記の3名でした。

社団法人事務処理サービス協会会長 大原慶一氏

弁護士 中野麻美氏

連合社会政策局長 桝本 純氏

〇委員長(足立良平君) 次に、脇田参考人にお願いいたします。

〇参考人(脇田滋君)龍谷大学の脇田です。よろしくお願いいたします。

 基本的な立場

 私は、労働者派遣法にかなり以前から強い関心を持ってまいりました。本日は、労働法を研究している者の一人として発言させていただきたいというふうに思います。

 まず、労働者派遣法には、法自体に基本的な問題点があります。また、外国の関連する法制と比較しましても、問題が少なくありません。こういう点から考えますと、今回の改正については極めて不十分なものであると思いますし、特に派遣を一層拡大するという点については反対の意見を持っております。  労働者派遣法の基本的問題点  まず、労働者派遣法の基本的な問題点としまして、労働法の原理には、契約の形式にとらわれず実態に基づく使用者責任を問うていく、こういう考え方があると思うんです。

 雇用関係と使用関係の分離

 ところが、派遣労働の場合には、派遣先の指揮命令を受けて就労し、派遣労働者の賃金や労働条件の多くは派遣先によって左右されるのが実態であります。ところが、派遣法は、派遣元と派遣労働者の間の関係が基本で、これを雇用関係とし、派遣先と派遣労働者の間には使用関係ということで、基本的には派遣元との関係を中心に考えるという意味で、派遣先の使用者責任を非常に追及しにくくしている。こういう点が、労働法の基本原理と大きく違っているという点であります。

 派遣元事業場での労働条件規制=フィクション

 それから二番目は、労働基準の監督を含めまして、事業場単位に労働条件を把握する、これが基本的な考え方としてあったかと思うんですが、派遣労働者の場合には、派遣元の事業場を中心にして例えば三六協定等を締結する、こういうふうなことになっておるわけです。

 派遣元というのは、多くの労働者をあちこちの派遣先事業場にやっているわけで、派遣労働者が実際に就労する場ではないわけです。ところが、この派遣元事業場単位に、そこでの過半数の労働者代表が例えば時間外の三六協定を締結する、こういうふうな仕組みをとっているわけです。これはもう明らかにフィクションとしか考えられないものであるわけですし、さらに労働基準監督というのは事業場単位にそれを行うというふうになりますと、このような派遣労働者の監督というのは極めて難しくなる。同じ派遣先事業場で業務をしていても、例えば監督官については、派遣労働者は三六協定が締結されているのかどうか、その事業場ではわからないわけです、派遣元で調べないといけない。そうすると、基本的な労働条件自体を確認することさえ面倒になる、こういうふうな大きな問題を含んでおります。

 登録型労働者派遣の不安定さ

らに、派遣法ができたときに、縛られないで自由な就労形態を選択したい、こういうふうな労働者の意識にこたえるものというのが制定の理由に挙げられました。

しかし、その典型とされております登録型の派遣というのは、実態は、なかなか登録をしても仕事が来ない、来た仕事も短期で終わってしまう。ところが、雇用保険の適用資格については就労の継続を前提にしているということで、加入が非常に難しいというふうになっているわけです。そうすると、派遣という非常に不安定な雇用を法認しているのに、それに必要な法的な配慮をしていない、こういう根本的な問題があるというふうに思います。

 違法派遣についての制裁の不十分さ

 さらに、派遣法自体に法律上、立法上といいますか、根本的な欠陥を含んでいたというふうに考えます。特に、違法派遣に対して民事的な制裁あるいは刑事的な制裁が極めて貧弱なものである。特に、違法派遣を受け入れた派遣先の責任はほとんど何も定めていないという重大な欠陥を持っていたというふうに思います。しかも、職業安定行政はこれをどう取り締まるのか、取り締まりについて特に触れることがなかったと思います。

 異常な条文=労働者派遣法44条

 さらに、派遣法の四十四条を見ていただければわかるんですが、私も労働法学者の一人ですが、この条文を正確に理解するというのは到底困難なんですね。本当に長い条文で、複雑な仕組みになっております。労働基準法の責任を派遣元と派遣先が分担するということになっているんですが、だれが責任者かわからない。これは結局深刻な問題を派遣労働者の犠牲の上に生んでいく、こういう原因になっているというふうに思います。

 全体として不安定雇用を法認する一方で、それに必要な法的な配慮を欠いているというのが派遣法ではないかというふうに思っております。

 労働者派遣法に対する学界・裁判所の立場  派遣法が導入されたとき、労働法学者の多くは、厄介な法律ができたもんだというふうに困惑したのが正直なところだというふうに思います。なぜ、このような派遣法が労働法の基本原則の修正を持ち込むことができるのか、こういう例外的と言われる法律が基本原則を大きく修正するようなことができるのだろうかという疑問が提起されたわけですし、この疑問は現在でも解消されていないというふうに思います。

 むしろ、最高裁を含めて裁判所の方が労働者の保護、特に派遣先の使用者の責任を認めるという点では積極的だというふうに思います。

 朝日放送下請け(派遣労働者)の団体交渉事件

 きょうお配りしております資料を見ていただければ、昨年の二月に、大阪の朝日放送で働く派遣労働者、当時はまだ派遣法ができる前で、派遣法違反の疑い、派遣法違反といいますか職安法違反の疑いがあるんですが、そういう派遣的な労働関係で働く労働者が労働組合をつくりまして、親会社である朝日放送に労働条件の改善を求めての団体交渉を求めた事件です。

 これについて最高裁判所は、労働条件に実際に影響を及ぼす親会社、朝日放送が派遣労働者の労働組合の求める団交に応ずるべきであると、こういうふうな判決を下しているわけです。この判決は恐らく労働法学界のほとんどの方が支持する当然の内容であるというふうに思うわけですが、労働者派遣法の考え方というのはこれと大きくかけ離れている。また、判決はこうなんですが、この判決を得るまでに実に二十年もかかっているわけです。最も弱い派遣労働者が労働組合をつくって改善の要求を掲げて実際に解決できる親会社に団交を求める、最高裁も認めるようなこの基本的な考え方が受け入れられるのに二十年もかかるというふうな状況になっているわけです。

 外国の労働者派遣法に比較した問題点  さらに、外国の派遣法と比べましても、日本の派遣法には大きな問題があります。ILO九十六号条約の見直しが叫ばれて、労働省は派遣あるいは職業紹介の自由化の方向に行くんだと、これが世界の流れだというふうに言っているんですが、果たしてそうなのか、もう少し正確な実情を見てみる必要があろうというふうに思います。

 企業横断的労働条件のある国との違い

 まず、日本と外国との違いとしまして、日本の場合には、同じ仕事をしていても企業が異なれば労働条件が違う。それと比べましてヨーロッパでは、企業横断的に労働条件を規制しておりますので、派遣労働者についても基本的にはその規制を受けておりますから、派遣労働についての最低の保障というのがあるわけです。そういう保障のない日本での派遣と大きな意味が違っている。関連しまして、派遣法ができたときに、大企業の子会社や系列会社として派遣会社が数多く生まれました。外国にはこのような系列的な派遣会社というのは恐らくないだろうというふうに思います。日本的な異常な状況であろうというふうに思いますし、これは当時から第二人事部型派遣ということで問題が指摘されてきたわけです。特に、日本の労働組合は正規の労働者だけを対象にした企業別組合です。非正社員は組合員にはしていない実情があります。労働協約の拡張の適用もありませんが、ヨーロッパでは、労働組合は未組織も代表するそういう代表的な労働組合ですから、派遣労働者を含めた未組織労働者全体に例えば労働協約等が適用されているわけです。その点での大きな日本との違いがある。

 派遣先従業員と派遣労働者との同等待遇

 さらに、ヨーロッパの派遣法を見てみますと、派遣先の従業員と派遣労働者の待遇は均等にすべきである、こういう考え方が共通して見られるわけです。ところが、日本の場合は、きょうお配りしました資料の最後を見ていただきますと、これは派遣会社の関係の資料なんですが、ちょっと数字は古いですが正社員で月五十二万、人件費等がかかる。ところが、派遣の場合には派遣料金、ファイリングで二十二万九千円であると。この格差がまさに派遣会社のキャッチフレーズになっているわけです、派遣を雇えば安くつきますよと。しかも、この二十二万というのは労働者が受け取る額ではありませんで、ここからさらに料金が三割なら三割、ここもはっきりわかりませんが、なくなるわけです。そうすると、派遣労働者の手元に行く額というのは、これよりもまた大きく下がるというふうなことになっている。こういうふうに、派遣先の従業員と派遣労働者の間の待遇の違い、これがヨーロッパ諸国の派遣法と日本との決定的な差異の一つであるというふうに思います。

 短期労働についての保護

 さらに、ヨーロッパでは、派遣労働者はテンポラリーワーカーということで短期契約と重なってとらえられているわけです。ヨーロッパの場合は常用雇用というのを一応基本原則にしておりますから、短期については非常に事由を限定している、例外的な場合にしているわけで、派遣の場合にもそういったことが言えるというふうに思います。こういうふうに、短期労働の保護を前提にした上で、さらに三面関係から出てくる弊害を取り除こうというのがヨーロッパの派遣法の考え方であろうというふうに思うわけですが、日本ではこういった短期契約に対する保護もない中で派遣が導入されている、この点に大きな違いがあります。また、違法派遣に対する制裁も非常に日本の場合には乏しい。例えばドイツの場合は、許可のない派遣がされた場合には、制裁の効果としまして、派遣労働者が直接に派遣先の使用者のもとの従業員になれるというそういうふうな擬制、みなしをしているわけです。日本の派遣法には、派遣先の責任を追及するような、このような仕組みはありません。

 雇用促進(欧州)とリストラの一環としての派遣(日本

 さらに、全体として、ヨーロッパでは非常に若年労働者の失業が多いという中で、一度も就職をしたことがない青年が多いわけです。そういった青年を何とか就職させる、初めての雇用につけるということが大きな課題になっておりまして、その中で、派遣がいわば見習い労働、試用労働の一種として利用される、そういうふうな若年労働者の就職促進として、本来は常用雇用が望ましいんだがそれが難しい中で派遣労働を位置づける、こういうふうなことだろうというふうに思います。ILOの九十六号条約の見直しの中でも、こういった雇用促進という意味に積極的な点を認めているというふうに私は考えます。

 ところが、日本では従来常用雇用であった女性や中高年の労働者が現在リストラの対象になっておりますし、その一環として労働者派遣が拡大されるというふうになりますので、雇用破壊というふうな意味で労働者派遣が利用されているということになると思います。いわば、全く逆のあらわれになっているという点、問題が多いというふうに思います。

 派遣労働者の団結権行使の困難

 それから三点目。労働者派遣法、十年たちました。この中で非常に大きな問題が出てきております。皆さんのお手元の資料には六点書きましたが、その中で、特に派遣労働者の団結権、団体交渉権の権利行使というのが非常に不十分であるということを特に強調したいというふうに思います。  これは、労働省の調査なんですが、派遣労働者の組合組織率は約三%というふうな調査がありました。先ほどのお話でも全体で組合組織率が非常に下がって二三%というふうに言われておりますが、派遣の場合には極端に少ない。派遣労働者は、労働組合をつくることが非常に難しいということだと思います。

 さらに、ヨーロッパとの比較でいいますと、労働協約の適用率というのが組織率以上に重要だというふうに思うんですが、派遣労働者が果たして団結活動を前提にした労働協約の適用をどれだけ受けているのだろうか、非常に疑問に思います。

 一方で、比較的恵まれた正規従業員が団結権や団体交渉権を行使し、労働協約の適用を受けているわけです。ところが、弱い立場にある派遣労働者のほとんどが実際には未組織であり、憲法の保障する労働三権を行使することができない、こういう事態が現実です。これは、日本の労働法が持っている最も深刻な矛盾ではないかというふうに私は考えております

 労働行政による派遣労働者保護の不十分

 さらに、こういうふうに労働組合によって十分に保護されない派遣労働者に対しては、行政による保護というのが非常に大切だというふうに思うんですが、この十年間、労働行政は派遣労働者保護の点から違法派遣の取り締まりをほとんどしてこなかった。統計を見ましても、警察が暴力団対策あるいは入国管理といった治安政策の点から外国人の違法派遣を取り締まったのが中心であって、労働省のサイドから派遣労働者保護という視点からの違法派遣の取り締まりというのはほとんどなかったのではないかというふうに思います。少なくとも、労働基準監督で派遣労働者を対象にした監督が計画的に行われたということを聞いておりません。そういう意味では、派遣法の弊害がいろんなところから指摘されているのに、政府・労働省にはこれを把握しようとする姿勢が基本的に欠けている、そういうふうに思っております。

 今回の改正について

 最後に、今回の法改正についての私の意見ですが、第一点は、国際的な派遣労働規制の動向、ヨーロッパ諸国の動向等を正確に把握する。日本には何が欠けているのか。例えば、均等待遇ですね、派遣先会社での派遣労働者と派遣先会社従業員との均等待遇、こういった比較、そういったものを正確にとらえる。そういう中で日本の実情を踏まえて法見直しが必要だというふうに思います。

 ILO条約を踏まえての改正を

 今、ILOの九十六号条約の見直しが言われておりますが、そこではやはりヨーロッパの、先ほど述べたような考え方が前提になってくるというふうに思うわけです。日本では、労働者派遣や職業紹介の自由化がいわば無制限のように宣伝されていますが、ILOやヨーロッパ諸国は決してそういうふうには考えていないんではないか。日本から見れば、かなり厳格な規制を維持しようとしているのではないか。  そういう中で、来年一九九七年に見直しがあると言われているそういう条約を踏まえた上で、派遣法の見直しをしても遅くはない。今回のように、派遣法の見直しを自由化、規制緩和という流れの中だけでやるということについては、タイミングが非常に悪いというふうに考えております。

 常用雇用の代替にならないように限定を  それから二点目としまして、派遣法ができるときにも派遣が常用雇用の代替にならないようにというふうに言われました。その点では、派遣労働の対象業務や派遣受け入れの理由をできるだけ限定すること、これが必要であろうというふうに思います。

 育児休業・介護休業代替に派遣導入には反対

 さらに、育児休業、介護休業の代替と派遣を結びつけることはこの点から好ましくないというふうに考えます。また、逆に育児休業や介護休業の権利の行使そのものが困難になるというふうな面もあるのではないかというふうに思います。最後に、派遣労働者の保護については、政令や省令ではなく法律の規定で明確に定めるべきであろうということで、そこに書きました六点を盛り込んでいただければというふうに思います。

 法改正に盛り込んでほしい6点

 一つは、職業安定法と同様の違法派遣の受け入れ禁止を法律の明文で定めるということです。

  それから二点目は、常用との代替を防止するために、長期に及ぶ派遣受け入れを対象業務、派遣によるべき理由の点からより明確に禁止すること。

  三点目は、一定期間を超えた長期の派遣の受け入れは、派遣先との間で契約関係が存在するという擬制を盛り込む。

  四点目は、派遣先従業員の労働条件との同等待遇を保障する。

  五点目は、派遣労働者の組合の団交に応諾する派遣先会社の責任を明文で確認する。

  六点目は、職業安定法が定める守秘義務を派遣法にも盛り込むということです。以上です。

○委員長(足立良平君)ありがとうございました。


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