updated Sept. 7 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

7010. 派遣労働者の権利を守るために、労働者派遣法は活用できますか?

労働者派遣法には、本質的な矛盾と限界があります。

 労働者派遣法は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」という法律の標題からも明らかなように、矛盾した二つの面をもっています。
 一つは、本来、使用者責任を派遣元と派遣先に分裂させ、労働者の権利を曖昧にすることから職業安定法第44条などで禁止されていた「労働者供給事業」を、一定の要件の下に合法化したものです。つまり、その限りでは、権利保障に反する可能性の強い労働者派遣事業を法認するという「事業法」の性格をもっています。営利的な派遣業者の「営業の自由」を認める、規制緩和の方向での経済立法ですので、この業者の「営利」と労働者の権利保障が対立する可能性が最初からあります。
 二つは、こうした事業法でありながら、労働法の体系の一部に組込まれているという点です。つまり、「派遣労働者の就業条件の整備」を図るという規制内容をもっています。
 一方で、労働者を実際に指揮命令する者に使用者の責任を負わせるという、労働者の 就業条件についての労働基準法などの規制を大幅に緩和しておきながら、派遣労働者の就業条件を整備しようとするのですから、労働者派遣法自体に矛盾が含まれているのです。いわば「マッチ・ポンプ」法とでも言えるのが、労働者派遣法と言えましょう。
 それでも、労働者派遣法は、派遣先・派遣元が双方でバラバラですが、労働基準法・労働安全衛生法などの使用者責任を配分させています。しかし、派遣先・派遣元の使用者は「連帯や共同責任」としていないなど、EU諸国の労働者派遣法には当然となっている使用者責任が曖昧にされているという大きな問題があります。
 さらに、労働省の労働者派遣法施行の姿勢は、この12年間、不誠実きわまりないものでした。ドイツなどの労働者派遣法については、かなり厳しい規制があって労働者保護もきちんとしているので、一時的に労働者派遣事業が減少するなど、厳格な運用によって労働者派遣法なりに意味をもっています。これに対して、日本では労働者派遣法違反の監督担当者の人員体制も十分でないままです。外国人や暴力団関連の違法派遣が蔓延し、労働者の無権利状態があるのに、労働行政よりも警察や入管当局が、違反の摘発を積極的に行っており、警察が職安にもっと厳しく取り締まるようにという要望を出す(大阪)など、信じられないような行政の怠慢ぶりが報道されてきました。

 昨年以降、大きな社会問題になっている「派遣労働者の社会保険未加入問題」も、すでに早くから、派遣労働者や労働組合、また、私たち派遣110番活動の結果から指摘されていました。1996年法改正のときに、労働省は、いかにも責任逃れの「隠れ簑」のように、社会保険の加入促進を「行政指針」(ガイドライン)といった法的な拘束力がない形で示しました。しかし、業界ぐるみの社会保険各法違反の実態が、同じ政府の機関である「会計検査院」から具体的に突きつけられたのです。労働行政当局は、自らに課したはずのガイドラインさえ、まともに徹底する態勢をほとんどとってこなかったとしか言いようがありません。
 労働者派遣法の「派遣労働者の就業条件整備」の面を実際に適用すれば、現在の数倍、数十倍も労働者の権利や雇用は改善されます。労働者派遣法がバラバラとはいえ、法律の明文の規定で配分している派遣先・派遣元の使用者責任を、きちんと守らせることができれば、派遣労働者の無権利状態は大きく改善することができます。労働省とその出先機関に、違法派遣をきちんと労働者派遣法・職安法にしたがって取り締まり、派遣労働者の権利を守ることを求めましょう。そのときに大切なことは、違法派遣の本質的な解決は、実際に違法派遣で最も大きな利益(人件費の節減と使用者責任の免脱)を受けている派遣先企業の派遣労働者についての直接の雇用責任をとらせることです。違法派遣を是正するために、派遣労働者が雇用を失うのでは何の解決にもなりません。公共職業安定所に対しても、派遣先企業が直接の雇用責任を負担するように指導や勧告をするように働きかけることが肝要です。

 就業条件明示など、労働者派遣法独自の規制は徹底して活用を!
 労働者派遣法は、独自の派遣労働者保護の内容をほとんどもっていません。
 しかし、派遣先へ派遣就労するにあたって、派遣先での就業条件を文書にして、派遣労働者に交付(わたすこと)が、派遣元に義務づけられています。
 これは、賃金関連事項だけを文書で渡せばすむ、現行の労働基準法に比べて、より厳しい規制と言えます。もちろん、どんな相手か不明な派遣先での就業ですので、こうした文書化が必要ということですが、それでも、「就業条件明示書」を交付するという義務に違反したときには罰則もありますので、これを活用することで、労働条件の不利益な変更は、「就業条件明示書」違反として争うことが容易になります。
 他にも、派遣先への直接雇用の制限禁止、派遣先からの不当な労働者派遣契約の解除の禁止、派遣元・派遣先の責任者、苦情処理など、労働者派遣法独自の制度がありますので、これを活用することが必要です。

 労働者派遣法の独自の制度ではありませんが、「労働者派遣事業適正運営協力員」制度が設けられています。この協力員制度は、派遣労働者の権利保護にどの程度役立っているのかまったく不明です。東京では、派遣労働者の労働組合の役員が協力員になっているという実例があるようですが、大阪では民主法律協会派遣労働研究会の弁護士が、協力員の氏名・肩書きを公開するようにもとめたところ、職安行政の責任者がこれを拒否するという不当な対応がありました。税金で賄われている行政の制度を公開しないことは、この協力員制度が、いかにも機能していないことを推測させるものです。こうした制度を、本来の「派遣労働者の就業条件の整備」のために活用することも大きな課題になっています。

 労働基準法、労働安全衛生法、賃金の支払確保法、そして労働組合法の活用を!  労働者派遣法が、あいまいにしているという問題はありますが、派遣先・派遣元は、労働基準法、労働安全衛生法、賃金の支払確保法、そして労働組合法などの労働法規による使用者責任を分担しています。こうした労働者保護法や労働組合法の定める労働者の権利は、派遣労働者にも平等に保障されています。これらを活用することで、派遣労働者の権利のかなりを実現できます。


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