updated Oct. 2 2000
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3312. 雇用保険に加入したくないが  3ヶ月おきに契約更新をして働いております(1年間勤務を前提に)。社会保険には加入していますが、雇用保険には加入しておりません。派遣会社より1年勤務の見込みがあるものは雇用保険に加入する義務がある、と毎回給料明細をもらうと同時に加入を催促されています。
 しかし、
 ・期間満了後1ヶ月の待機期間があり待機期間中に紹介される仕事を断った場合は給付までの期間が伸びてしまうこと
 ・自分の技術力に自信があること
 ・男性、25才、所帯持ちですので失業保険をもらうまで3ヶ月働かない状況は考えられないこと
 こうした理由から、お金を捨てることにしか思えないので雇用保険への加入は抵抗が あります。
 派遣社員が女性が多く雇用保険の加入を歓迎する方が多いため同じ事例があるかどうかはわかりません。雇用保険は微々たるものですが、私は加入の義務があると思っていないので、国民の義務だから加入するように、とずっと言われつづけている事が腹が立ちます。加入の催促があまりにもしつこいので止めてほしいと思っています。
 色々な勤務形態が選択できるのであえて派遣社員を選択しているので続けるメリットを感じなくなっています。
 法律的にはどうなっているのか、これは派遣会社のローカルルールでの義務なのかを 教えていただければ幸いです。

 
 雇用保険は強制加入が原則

 法的には、労働者の意思に関係なく、派遣元として加入する義務があります。会社や労働者の任意の選択はできません。

 雇用保険に加入したいのに、派遣元の壁があるために加入できないという相談が集中しています。雇用保険の原則では、通常の勤務であれば、加入することが強制的に義務づけられています。

 「加入したくない」という意思に関係なく、強制加入することが必要です。
 雇用保険の意味や役割を理解すれば、派遣労働者としては強制加入であるはずであるのに加入していないことを問題にする方が多いと思います。

 雇用保険は保険料からも有利

 社会保険と違って保険料も少ないので、雇用保険にだけ加入できないか、という相談はありますが、雇用保険にだけ加入したくないというご相談に正直のところとても驚いています。

 雇用保険の保険料や色々な保険給付の内容を、よくご存知の上でのことなのでしょうか?

 保険料率は、次のようなものです。
 (ある事例から)  年収は約200万円。  (ある月の賃金からの天引き額)
              厚生年金   約1万1000円
              健康保険     約7300円
              雇用保険     約 700円
              所得税・住民税  約7000円


 たしかに、2000年4月から、保険料は次のように少し上がります。

2000/04/28 時: 改正雇用保険法が成立=労働者負担、約1万円増に

○改正雇用保険法が成立=労働者負担、約1万円増に
 労使双方が負担する雇用保険料の料率引き上げを柱とする改正雇用保険法が28日午前の参院本会議で、与党3党や民主党などの賛成多数で可決、成立した。雇用保険の料率は現在、賃金の0.8%で労使が折半して負担しているが、2001年4月から1.2%に引き上げられる。平均的な労働者の負担額は、年額1万8800円(1998年度)から同2万8200円に増加する。
(時事通信ニュース速報)

 これに対して、失業給付は賃金の60%から80%を90日から180日まで受けられることになります。

 教育訓練給付も魅力

 また、最近になって「教育訓練給付」が創設され、いま人気を集めています。

 通算で5年間の雇用保険の加入期間があれば、上限20万円の自己啓発の費用への補助がでます。かりに労働者負担が年に2万円でも、5年で10万円にしかなりません。5年で10万円の保険料負担で20万円の教育訓練給付を受けられ、しかも、失業時には、生活保障と様々な手当が用意されています。これは労働者だけでなく、企業や国が保険料のうちかなりを負担しているからです。このように雇用保険は、労働者にとってきわめて有利な仕組みになっています。
関連ホームページ

 いま派遣110番には、さかのぼって加入したいがどうしたら良いか、という相談が集中しています。

 最初、相談をいただいとき、私は、あなたが会社の側の人ではないかと思いました。労働者にとって雇用保険加入で不利益を受けるという相談は、余りにも意外なものだったからです。いままで関心がなかった若い人も、スキルアップに20万円もの公的援助(教育訓練給付)が受けられるので、雇用保険加入をしたいという人が増えているのです。

 雇用保険不加入で最大の利益を受けるのは、派遣会社です。加入によって会社は、「余分な負担」をしなければならないからです。労働者の希望なかったことを理由に、会社は、雇用保険の加入を本気ではさせたくないのかも知れません。社会保険と違って、雇用保険の場合、人数だけを通知して、後で清算するという概算的な保険料納付の仕組みがあります。会社の追及の仕方が社会保険とは違っているのは、こうした保険料納付の仕組みの違いが理由になっているのかもしれません。

 雇用保険加入を勧める派遣会社の指摘は、法的には当然のことです。

 むしろ、派遣会社がわざわざ労働者の希望を聞くことは不要です。何故、労働者の意思を確かめるのか、逆に不可解に思います。
 社会保険に加入されているとのこと、社会保険についても同様のはずです。
 労働者の希望によって社会保険加入することになったのでしょうか?

 雇用保険の欠陥は前向きに改善を


>・期間満了後1ヶ月の待機期間があり待機期間中に紹介される仕事を断った場合は
> 給付までの期間が伸びてしまう事。
 たしかに、このような雇用保険の運用があるようです。しかし、事情によっては待機なしに雇用保険の受給が可能です。

 これまでの相談者でがんばって離職理由を会社都合にさせたり、公共職業安定所で支給制限を受けない例もあります。

 こうした運用があるから加入しないというのでは後ろ向きの「解決」になってしまいます。派遣労働者のために相応しい失業保障制度にするように強く求めていくべきではないのでしょうか?
 運用自体を正面から変えさせ、派遣労働者にも有利な運用を求めるのが筋だと思います。

 ご自分に、自信をもっておられるのは結構なことです。
 しかし、雇用情勢の変化もありますし、技術の陳腐化もあります。何より、毎年、年齢が増えて行くことを止めることはできません。
 現在は25才ですが、10年後には35才、15年後には40才になり、就職困難な中高年になっていきます。

 いま公共職業安定所で雇用保険の受給に列をなしているのは、15年前には、失業など思いもしなかった男性中高年です。雇用保険は、短期の給付というよりも10年から20年の間に、失業状態に陥る可能性に備える「保険」です。

 「明日ありと思う心のあだ桜、夜半に嵐の吹かぬものかは」(伝、親鸞上人)

 交通事故もありますし、若年の脳障害もありえます。リハビリしながら訓練給付を受けて、新たな仕事の道を開拓している40代の人もいます。

 労働者の連帯を基礎に雇用保険の充実を


 雇用保険は、こうした思わぬ(不測の)事態に備える保障の意味もあります。

>上記2つの理由からお金を捨てることにしか思えないので雇用保険への加入は
>抵抗があります。
 ご指摘のような考え方では、公的な「保険」は成り立たなくなります。

 健康保険で、もし、身体頑強で病気などしない人は、お金を捨てることにしかならないとして保険に加入したくないと思っています。これに対して、病気がちな人は、かけた保険料で数倍もの医療給付を受けられますので加入したいと思います。当事者の意思で、加入の選択を認めたら、健康な人は加入せず、健康でない人が加入します。これでは、健康保険はすぐに財政的に破綻します。

 強制加入には、保険の給付を受ける可能性や当事者の意思によって「逆選択」を認めない趣旨が含まれています。この点を是非理解して下さい。

 もし、失業する可能性が少ない人に雇用保険の不加入の自由を認めたら、雇用保険は、失業する可能性の高い、失業の心配のある人だけが加入します。それでは、雇用保険自体が成り立ちません。

 失業する心配の少ない若い人が加入せず、中高年の失業予備軍だけが雇用保険に加入したら、雇用保険は破綻します。雇用が安定した企業では雇用保険に加入しない人が増え、逆に、雇用不安定な企業の労働者は雇用保険に加入すれば、雇用保険は、収支均衡が崩れ保険財政はすぐに破綻します。

 当事者の自由な判断での加入・不加入を禁止して、強制加入にしないと、公的保険(財政)は成り立たないのです。

 たしかに、日本の雇用保険の給付は不十分ですし、欠陥だらけです。

 しかし、労働者の任意の加入を許さない「強制加入」の原則があったから、制度が維持できたのだと思います。雇用保険は、公的な制度ですが、大きく見れば、労働者の連帯を前提にした「共済制度」(相互の助けあい制度)を基本とし、これに会社負担を法的に強制し、国の運営や事務での組織・経費負担を強制させてきた貴重なものです。

 欠陥があるから、雇用保険はいらないとはいえません。欠陥を補正して、より充実させることが本筋であることを理解して下さい。

 もし、あなたの考え方が通用するとすれば、雇用不安の少ない大企業の従業員はほとんどが脱退するでしょう。会社も負担が減って大いに喜ぶと思います。そして、労働者は、思いもしない会社倒産や事故・病気などで、失職したときの生活の最低保障(セイフティネット)を失うことになってしまいます。

 派遣労働者も雇用保険加入を

 派遣労働は、雇用不安の多い雇用形態です。

 派遣と派遣の間に空白があったり、派遣先からの中途解約などのトラブルも少なくありません。雇用保険に頼る可能性が、通常の正社員よりも大きい形態です。通算5年加入で受けられる教育訓練給付などの新たな給付も、転職やスキルアップの必要が多い派遣労働者には利用する可能性が多いと思います。

 派遣労働者が一般の労働者よりも雇用保険に多くを期待するのは当然だと思います。正社員が掛けてくれた雇用保険の保険料による財源を、派遣労働者などの雇用不安の可能性が高い労働者が、雇用保険の失業給付を受け取るといった構図になっています。これは、保険のあり方としても望ましいし、当然だと考えています。

 派遣110番には、加入したくても会社が反対して加入できない人からの相談が集中しています。それでも何とか、がんばって公共職業安定所や派遣元とかけあって遡っての加入を実現しているのが現実です。

 雇用保険が、労働者、とくに派遣労働者にとっても、基本的に有利な制度であることを是非理解して下さい。失業の際の保障だけでなく、教育訓練給付をはじめとする多様な給付も受けられます。損得勘定でも雇用保険加入がきわめて有利なことを知ったうえで判断して下さい。

 結論として、法的には、雇用保険加入が当然だと言わざるを得ません。


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