updated Oct.8 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3230. 登録時に派遣会社で銀行口座を作らされるのが、不安です。
 派遣会社によって違うのですが、登録の際に銀行口座を作らされることがあります。他の支店の口座でもダメらしく、派遣会社で申込書を書かされるのですが、暗証番号を書いたり、印鑑を押しているので、心配です。
銀行の口座を作る理由は、「手数料がかかるためだ」と言われました。
しかし、3割程度が派遣会社に取られているはずなのに、そこから出してもらえないのでしょうか。
 

 登録の時点で、労働者に銀行口座開設を要請するという例があることは、これまでのご相談にもありませんでした。このような派遣会社は多いのでしょうか?

 すでにある個人の口座でなく、わざわざ口座を開設させる目的は、会社側の便宜は判りますが、どのように説明されているのでしょうか?

 法的な問題点としては、派遣で働いた後で、銀行口座に賃金を振込むことが前提になっているのだと思いますが、そうしますと、労働基準法の賃金支払をめぐる原則との関連で問題が生じます。

 労働基準法第24条(賃金の支払)

  1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は命令で定める賃金について確実な支払の方法で命令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
 2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定める賃金(第八十九条第一項において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

 つまり、使用者は、労働者に賃金を「通貨で、直接に」支払う義務があります。
 銀行口座の振込みであれば、賃金の通貨払、直接払の原則に違反することになるという疑問が生じます。

 実際には、こうした銀行口座への振込みによる賃金の支払が一般化しています。

 労働者にとっても便利な面がありますので、労働省からは、労働基準法第24条との関係で、次のような解釈基準が示されています。

 【賃金の口座振込み】

 口座振込みを実施する使用者に対しては、次のとおり指導をされたい。
 一 口座振込みは、書面による個々の労働者の申出又は同意により開始し、その
   書面には次に掲げる事項を記載すること。
 (1) 口座振込みを希望する賃金の範囲及びその金額
 (2) 指定する金融機関店舗名並びに預金又は貯金の種類及び口座番号
 (3) 開始希望時期
 二 口座振込みを行う事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合に
おいてはその労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合に
   おいては労働者の過半数を代表する者と、次に掲げる事項を記載した書面に
   よる協定を締結すること。
 (1) 口座振込みの対象となる労働者の範囲
 (2) 口座振込みの対象となる賃金の範囲及びその金額
 (3) 取扱金融機関の範囲
 (4) 口座振込みの実施開始時期
 三 使用者は、口座振込みの対象となっている個々の労働者に対し、所定の賃金
   支払日に、次に掲げる金額等を記載した賃金の支払に関する計算書を交付す
   ること。
 (1) 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
 (2) 源泉徴収税額、労働者が負担すべき社会保険料等賃金から控除した金額があ
   る場合には、事項ごとにその金額
 (3) 振り込んだ金額
 四 振り込まれた賃金は、所定の賃金支払日の午前十時頃までに払出しが可能と
   なっていること。
 五 取扱金融機関は、金融機関の所在状況等からして一行に限定せず複数とする
   等労働者の便宜に十分配慮して定めること。
           (昭和50年2月25日 基発112号)
            *基発=労働省労働基準局長名で発する通達
 この通達は、労働省から出先の労働基準監督署・労働基準監督官に対する指示ですので、労働者が労働基準監督署に申告して、その基準に従って、会社に対して行政指導をしてもらうことができます。

 銀行振込みにするためには、労働者の申し出や同意が必要です。
 会社からの振込みの強制は許されない、ということです。

 個々の労働者、とくに登録者(求職者)に振込みの同意を得るのは、最も拒否しに
くい段階です。また、個々の労働者の真の意思を確保するために、過半数労働組合や過半数代表など集団的な労働者の合意が求められています。
 通達の趣旨を厳密に解釈すれば、登録者の過半数代表との協定がなければ、振込みにすることはできないことになります。登録者の間で、こうした過半数代表を選出することは聞いたことがありません。お互いに連絡のない登録者が代表を選出することは実際には不可能です。

 そうすると、派遣会社が登録段階、つまり、個々の労働者が拒否することが難しい段階で銀行口座を開設させることは、賃金の銀行振込みを事実上強制していると考えることができます。

 さらに、問題であるのは、通達が、

‖ 五 取扱金融機関は、金融機関の所在状況等からして一行に限定せず複数とする
‖   等労働者の便宜に十分配慮して定めること。

 としている点です。特定の銀行口座を開設させ、そこに賃金を振込むこととするのは、この基準に反すると考えられます。

 労働者にとっては引出すのに不便な銀行口座を指定されたら困ることになります。
そこで、労働者の便宜に十分配慮するように、複数の金融機関とするように、指示しているのです。

 口座振込みについては、上で指摘した問題点があります。
 とくに特定の銀行に限ること、「暗証番号」まで書かせることなど、大きな問題点が含まれています。

 テンプスタッフの個人情報管理のミスによる被害が問題になっています。

 派遣のあっせん、紹介に必要な情報以外の個人情報を派遣会社が把握することは問題があります。ILOは、使用者が労働者の個人情報を不必要に収集することに制限を定めています。派遣業者についても同様です。


目次に戻る
110番の書き込み欄へ