updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3010. 通勤可能な場所で働きたいのですが?
   登録型の派遣労働者の場合、職場(派遣先)は、労働契約の締結と同時に決まることが一般的だと思います。したがって、通勤が不可能な職場(派遣先)であれば、労働者の側が同意しなければ、労働契約も成立しません。その限りでは、労働者に選択の自由があることになります。
 登録の際に、通勤可能な場所で働きたいという希望を派遣会社に伝えておけば、それを配慮した派遣紹介がされることになると思います。
 派遣110番の相談例では、登録型派遣労働者からは、  (1)交通費の支給がないので、遠方の場合には、賃金が高くても実際には大きな交通費負担のために実質的な収入が少ないこと、
 (2)通勤の手段として自転車を使っていたが、派遣先が、駐輪場の使用を派遣労働者には認めなかったために、自転車通勤が困難になったこと、
 などでの相談がありました。

 これに対して、常用型の派遣労働者の場合、職場(派遣先)は、労働契約に基づき派遣会社が指示して決まることが一般的だと思います。労働法的には、「配転命令(勤務地変更)」の限界の問題と同様に考えられます。派遣といっても、場合によっては、1年を超える長期に及ぶこともあります。

 常用型派遣労働者であっても、こうした派遣先命令に無条件に従う必要はありません。
 (1)まず、派遣労働者本人の同意なしに行われる派遣命令は原則として無効です。ただし、個別の労働契約では特別な合意が明確ではないことが多く、通常は、就業規則の業務命令の規定や人事異動条項を前提にして、「包括的合意」や「黙示の合意」を通じて、労働者が合意したことになります。
 要するに、採用時の個別契約にしろ就業規則にしろ派遣の人事異動命令権は労働者の合意がなければ、その法的根拠はありません。
 ただし、この派遣命令権は抽象的な権限です。外在的かつ内在的な制約を受けることになるのです。

 (2)派遣会社には、就労にあたって事前に、派遣先=通勤場所の明示が義務づけられています。
 労働契約締結の場合と同様に、派遣労働者が同意をしたとしても、派遣先の実際の労働条件が合意内容と大きく異なるときには派遣労働者は合意を破棄して原職に復帰することができると考えられます(労働基準法第15条)。
 とくに、労働者派遣法では、派遣元は、派遣就労にあたって、「就業条件明示書」を交付することが義務づけられており、派遣会社は、派遣労働者には、次のようにこの労働者派遣契約の内容を「就業条件明示書」で示す必要があります。

 1.派遣労働者が従事する業務の内容
 2.就労する派遣先の事業所の名称、所在地、就労の場所
 3.派遣先で、就労を指揮する者の氏名
 4.労働者派遣の期間及び派遣就業する日
 5.派遣就業の開始・終了の時刻および休憩時間
 6.安全衛生に関する事項
 7.苦情の処理に関する事項
 8.派遣契約解除の場合の措置(以上、労働者派遣法第26条1項)
 9.派遣元責任者に関する事項(労働者派遣法施行規則第22条)
10.派遣就業日以外の就業や時間外の派遣就業ができるとした場合の当該の日
   又は延長できる時間数(労働者派遣法施行規則第22条)

 さらに、労働省令=労働者派遣法施行規則は次のように規定しています。

>> 第二節 派遣元事業主の講ずべき措置等
>>
>> 第25条 法第34条の規定による明示は、同条の規定により明示すべ
>>き事項を記載した書面を当該派遣労働者に交付することにより行わなければ
>>ならない。ただし、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらか
>>じめ当該書面を交付することができない場合において、当該明示すべき事項
>>をあらかじめ書面以外の方法により明示したときはこの限りではない。
>> 2 前項ただし書の場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、
>>当該労働者派遣の開始の後遅滞なく、当該事項を記載した書面を交付しなけ
>>ればならない。
>> 一 当該派遣労働者から請求があったとき
>> 二 前号以外の場合であって、当該労働者派遣の期間が一週間を超えると
>>き

 もし、派遣元が、この10項目の就業条件明示書をあなたに交付しないのであればそれだけでも労働者派遣法・労働者派遣法施行規則違反ということになります。派遣元は、10万円以下の罰金を受けることもあります。

 (3)法令や公序良俗に違反する人事異動は無効ですので、派遣命令が、労働者の国籍、社会的身分、信条を理由にしているときは差別待遇として違法であり(労働基準法第3条)、また、労働者の組合活動を嫌って行なわれるときは不当労働行為として無効となります(労働組合法第7条)。

 (4)労働協約によって、人事異動について労働者の合意が要件となっているときには、就業規則によって使用者の人事異動の権限が規定されていたとしても、とくに労働者の同意が必要となります。

 (5)派遣会社の派遣命令が就業規則や労働協約などの法的根拠を有しているものであっても、その行使が権利濫用にわたるものであるときは無効となります。
 とくに、これまでの裁判例では、権利濫用論に基づき人事権を制約するという考え方が重視されています。
 人事異動命令が権利濫用となるか否かは主に次の3点を基準に判断されています。 (A)業務上の必要性
 労働者が自主的に退職することをねらうなど、いやがらせ目的の人事異動など業務上の必要性がない人事異動の命令は無効です。派遣命令についても同様です。
 (B)人選の合理性
 人事異動の対象となる労働者の選定が合理的な根拠がなかったり、選定の基準が不合理であるとき、その人事異動命令は無効です。派遣命令についても同様です。
 (C)労働者の不利益
 業務上の必要性があったとしても、人事異動(派遣命令)にともなって労働者がこうむる不利益のほうが、業務上の必要性よりも上回るときには、その人事異動命令(派遣命令)は無効となります。
 労働者側の不利益としては、専門的能力や技術の低下、新たな職務との適性、家族との別居(単身赴任)、長時間通勤などを考慮する必要があります。
 ご相談の「通勤可能な場所で働きたい」という希望も、この権利濫用の指標の一つとして十分に考慮されることになります。
 (6)人事異動(派遣命令)は、突然の抜打ち的なものであってはならず、定められた手続きや慣行となっていた手続きに基づくこと、とりわけ不満を示した派遣労働者の納得が得られるように、事前に時間をかけて話合うなど信義誠実の原則にしたがうことが必要です。


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