updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2290. 登録型ですが、派遣予定先の事情によつて派遣契約がキャンセルされてしまいました。派遣就労の内定を、簡単に取り消すことができるのでしょうか。  1月10日にA派遣会社から、斡旋連絡を受けました。派遣先B社で、業務内容=ソフトウェア開発業務ということ。ただし、「問題は機種がマック」とのことであったので、マックについて基礎知識しかない私は迷いました。そこで、12日から派遣会社のマックを借りて機種の特徴を学習することにしました。14日、B社の担当者から、一定水準のマックについての知識を身につけておくように指示がありました。しかし、Bへの正式の派遣紹介の話にまで至っていないとのことでしたので、16日、A社に問い合わせの電話連絡をしました。
 17日、A社の担当者から、B社での派遣就業について詳しい内容が初めて伝えられました。前日、登録していた他の派遣会社C社から別件の派遣紹介があったので、その旨をA社の担当者に伝えると、担当者は、「今更それは困る、確定した話で動いている。なぜ他社の斡旋の話を聞くのか? 派遣社員としてルール違反の行為である。Bに対しても非常に迷惑がかかる」との話でした。そこで、B社との話が確定していたことを繰返し聞かされました。
 そこで、C社からの話を断わり、18日から、B社が求める水準に達するように、A社での学習・訓練を始めました。
 ところが、24日になって、A社担当者から電話があり、「すみません、Bの件はなくなってしまいました。Bから突然連絡を受けました。Aとしてもビックリしています。」
 突然の話で何が何か訳が判りません。こんな派遣会社の対応に派遣労働者としては泣き寝入りするしか方法はないのでしょうか。

 

 (1)法的な問題点−1 労働契約の成立

 派遣労働関係では、三者間の法律関係が生じます。

 とくに、常用型労働者派遣だけでなく、登録型労働者派遣が容認されていますので、労働契約(雇用契約)の成立と労働者派遣契約の関係が判りにくくなっています。

 登録型とは区別される「常用型労働者派遣」の場合には、ご相談のように、派遣先との労働者派遣契約が切れたり、なくなったときでも派遣元との間の労働契約関係は存続しますし、一般の雇用と特別な違いはありません。

 この点は、私も編集に参加しまし『事例で読む労働法実務事典』(旬報社)に、参考になる項目(中島正雄京都府立大学助教授担当)がありますので、機会があれば参考にして下さい。

 ご相談の場合が「登録型派遣」であっても、、契約締結の過程が進んでいるときには、常用型と基本的な違いはないと考えられます。

 ◎労働契約の締結=採用内定の法理

 これまで労働契約の締結=採用をめぐる法理については、学生が初めて就職するときの内定とその取り消しをめぐっての争いが中心でした。最高裁判所は、この内定が労働契約の成立であることを認めています。その結果、内定取消は「解雇」と類似した「解約権の行使」となり、相当な合理的理由が必要であることになります。法的に、内定によって、使用者と労働者(学生)の間には、「解約権留保付の労働契約」が成立していることになります。

 図1で説明しますと、◆の内定の段階で労働契約は成立していることになります。学生の場合には、卒業後に就労しますので、就労する始期■を特別に決めて、労働契約だけは成立したことになります。

 図1 一般の採用内定の過程
                            試用期間
      ○−−○−−−○−−−−◆−◇−−○−−−■−−−□−−>
 使用者 求人募集   試験・面接 内定    研修  入社式 本採用
 労働者     応募        誓約書     就労
 学生                    卒業

 ◎登録型派遣と採用内定

 登録型派遣の場合にも、この採用内定をめぐる法理が適用されることについては、特別な違いはないと考えられます。

 登録型派遣の「登録」が法的にどのような意味を有するかについては、労働者派遣法や関連政令・省令にも明確な規定がありません。職業安定法など、関連した法令を参考にして、当事者の意思=契約の解釈によることになると考えられます。

 登録型派遣の一般的な登録→派遣就労の過程をを整理してみます。

 1.派遣元(派遣会社)に登録します。
 2.派遣先が見つかって、派遣就労することになったときに、派遣元とは期間を定めた労働契約(有期雇用契約)を締結し、派遣先に派遣されるものをいいます。
 3.派遣先への派遣期間が、派遣元との労働契約の期間になります。派遣が終われば、派遣元との労働契約も終了し、登録状態に戻ることになります。

  図2 登録型派遣と労働契約

 1.派遣元への登録        ○−−−−−−−−−−−−−−−−>
 2.派遣元との労働契約(雇用契約)   ○−−−−○  ○−−○
 3.派遣先への就労           ○−−−−○  ○−−○

 派遣の場合には、登録だけ労働契約が成立するのではありません。登録した後、 派遣元から紹介があり、登録者がそれに応じて初めて「採用内定」=労働契約の成 立となります。
 通常は、この「採用内定」と実際の派遣(=就労)が近接していると

  図3 登録型派遣と採用内定・派遣就労

        ○−−○−−○−−○−−◆−−−−■−−−−−|
  使用者  登録募集   登録 紹介 内定
 (派遣元)
  労働者    登録応募     承諾     就労(派遣)期間満了
                         ○−−−−−|

 つまり、参考資料のQ&Aで指摘していますように、登録型派遣の場合には登録だけでは、「採用内定」とは言えないのですが、ご相談のように、派遣先が特定し派遣元との間で労働契約の締結過程が進んでいるときには、「採用内定」類似の関係が成立するということです。

 たしかに、労働契約は派遣元との間に成立し、派遣先での就労については期間を定めたものとなります。内定から就労(派遣)までの間が、学生の場合のように数ヶ月ということはありませんが、それが数日であっても、考え方としては、派遣元から、派遣先の紹介があり、登録者がそれに応じて承諾した時点で、労働契約そのものは成立していると考えてよい訳です。この場合、数日後に就労(派遣)する始期を定めた労働契約が成立していると考えられます。

 派遣元は、就労(派遣)までの期間は「解約権」を留保しているだけです。この場合、「合理的な理由」なく解約することはできません。

 労働者派遣法の建て前では、派遣元との雇用関係にある派遣労働者を派遣先に派遣することになっていますので、論理的には、次の順序になると考えられます。

  (1)派遣元と派遣労働者の間の労働契約(雇用契約)成立
  (2)派遣元・派遣先の間の労働者派遣契約成立
  (3)派遣元から派遣労働者へ就業条件明示+派遣先での派遣就労の合意
  (4)派遣元から派遣先へ派遣労働者の氏名などを通知
  (5)派遣先での派遣労働者の就労開始

 以上の通り、労働者派遣法の建て前では、本来は、労働者派遣契約も、労働契約・ 就業条件通知書など、契約の「要式」が求められていますが、これは、労働者を保護 するための公法的な義務(派遣先・派遣元事業主が国に対して負担する義務)です。違反については、監督者である国から一定の制裁の可能性があります。

 しかし、民事的には、そうした「要式」をともなわない契約であっても、契約とし ては成立しており、その効力は生じることになります。

 ◎ご相談の事例と派遣元A−労働者Wの間の労働契約の成立

  図4 ご相談の事例と採用内定・派遣就労

        ○−−○−−○−−○−−−−◆−−−−■−−−−−●
  使用者  登録募集   登録 B社の紹介内定 派遣先Bで就労
 (派遣元A)
  労働者W   登録応募     承諾     マックの訓練

 ご相談の事例を、この採用内定法理に即して検討してみます。
 Aに登録されている段階では、まだ、A−Wの間に労働契約が成立しているとは言えません。
 AからB社を紹介され、B社と面接をされていますが(この面接は、後で述べるように労働者派遣法違反です)、その時点で、A−Wの間で少なくとも、内定関係(解約権留保付労働契約)が成立したと考えられます。

 その時点は、少なくとも1月17日の段階であると考えられます。

 相手方Aからは、D社での派遣紹介の話があったことを反対の根拠として指摘することが考えられますので、どんなに遅くても、A社がD社を断わるように求めた22日の段階では、A−Wの間に労働契約が成立していたことは間違いがありません。

 私の個人的な見解では、マックについて学習を始めた1月12日の時点でA−Wの間に労働契約が成立していると考えてよいと思います。つまり、Aが使用者として、Wを一定の支配下(指揮命令下)に置くことになっているからです。

 つまり、1月12日(または、1月17日)に労働契約が成立していたとすれば、Aは、合理的で相当な理由なく、この労働契約を解約することはできません。Aから労働契約の成立がないと主張することはできません。それは、Aからすでに成立している労働契約の解約(=解雇)ということになります。

 労働法では、この解約は、「解雇」(あるいは、それと同等なもの)となります。不当な解雇は無効ですし、そうであれば、A−Wの間には、労働契約が継続していることになり、Aの責任で、派遣就労させられない状態が継続していることになりますので、その間の反対給付(=賃金)をWは失わないことになります。

 したがって、1月12日以降の賃金全額をAに対して請求することが可能だと思います。


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