updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2280. 登録している派遣会社から、ある派遣先を紹介されましたが、「競合」だと言われました。つまり、その派遣先には、私のほかに3名ほどが紹介されていて、各自面接すると言うことでした。派遣会社から派遣先を紹介されたとき、派遣先で「面接」をするのは普通のことでしょうか? 派遣会社に勤める友人は「競合で紹介するのは違法」と言っていましたが? 本当でしょうか、教えてください。
 
 派遣元が、派遣労働者の面接をするのは当然ですが、派遣先が、事前に派遣労働者を面接することは「直接面接」として厳しく禁止されています。

 派遣110番のホームページに掲載されている労働省の通達を参考にして下さい。

 それによれば、派遣先が直接に派遣労働者の採用にかかわることは、職業安定法第44条違反の労働者供給事業であると考えられることになります。

 職業安定法第5条(用語の意義)
(6) この法律で労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。


 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)
 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。


 少し判りにくいかもしれませんので、説明します。
 派遣労働関係では、派遣元が雇用(雇入れ)について責任をもっているのが建て前です。派遣元が責任もって雇入れた派遣労働者を、派遣先はそのまま受入れなければなりません。派遣先が、事前に派遣労働者と直接面接したり、履歴書を事前にチェックしてから、派遣元と派遣労働者の間に労働契約が締結されたり、派遣元・派遣先の間の労働者派遣契約を締結するのであれば、派遣元の存在意義はありません。派遣元・派遣先・派遣労働者の間の三面関係が崩れてしまいますので、労働者派遣制度の基本に反することになってしまう訳です。

 そこで、労働省は、明確な解釈として、派遣先が派遣労働者の直接面接にかかわるときには、派遣労働者について派遣先が直接に雇用する責任があるとしています。そうしないのであれば、派遣元は、いわゆるダミーの存在であって、実体のない、人貸し業=労働者供給業となってしまうので、職業安定法第44条違反となるわけです。

 「〈参考資料〉直接面接と派遣先の雇用責任」は、こうした直接面接や履歴書のチェックがあまりにも多いので、労働省が、派遣業者に改めて注意を促しているのです。

 言うまでもなく、派遣労働者を派遣先に派遣する行為は、派遣元事業主が行う労働者の配置と位置づけられ、派遣先による書類選考は事前面接と同様に、派遣先が特定の派遣労働者を指名する行為であり、派遣先と派遣労働者の間に雇用関係が成立すると判断される可能性が強くなり、このように判断されれば、職業安定法第44条に規定する労働者供給事業に該当することとなります。


 職業安定法第44条違反ということになれば、罰則があります。違法な労働者供給の受け入れも禁止されていますので、派遣先が労働者を直接雇用しないときには、受け入れ側も処罰の対象となります。

 職業安定法第64条
 次の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
四 第四十四条の規定に違反した者



 派遣労働者は、派遣先に対して、直接雇用の責任を追及することができます。
 労働者は労働省の考え方によっても、面接した以上、労働者を直接に雇用する責任が生じていると考えられます。
 もし、こうした責任を派遣先がとらないときには、職業安定法第64条の刑事責任を追及することも考えられます。

 もちろん、多くの派遣労働者は、派遣先の正社員に採用されるという希望をもっているとは思いませんし、派遣先も派遣労働者を正社員にしようとする意思をもっていたとは思えません。

 しかし、そうであれば、派遣先が派遣元を飛び超えて、複数の派遣元から「入札」のように派遣労働者を競合させて選抜する(=採用する)ことは、どう考えても、労働者派遣の建て前に反することになります。そうであれば、派遣元は不要な存在になります。派遣元は、労働者供給事業となり、派遣先は、この労働者供給事業を通じて、労働者を導入しようとしか言えないのです。

 派遣先による直接面接の事例はきわめて多いと思いますが、派遣先が直接に履歴書を見て受入れる派遣労働者を選考したりすることは禁止されているのです。派遣先が直接に採用にかかわることは明らかに労働者派遣法・職業安定法違反です。この職業安定法違反であれば、派遣先にも罰則が適用されるのです。

 実際には、派遣労働者が弱い立場であるためにこうした直接採用を求める裁判を提起することが難しいので、実例は少ないと思いますが、これまで派遣110番としても、職業安定法第44条を活用して、派遣先に派遣労働者を正社員として採用させた経験ももっています。(→派遣110番のHPにリンクしています、『がんばってよかった 派遣から正社員へ』(かもがわ出版)には、暁明館病院で働いていた派遣労働者が正社員化した事例を紹介しています。)

 履歴書を派遣先に送ること、派遣先が直接面接すること、まして、「競合」というのは、違法を何重にも重ねたことになります。派遣元は、実際には、きわめて形骸的な存在です。派遣先の系列会社の場合には、ますます実体がありません。

 派遣元に実体があれば、熟練した能力をもった派遣労働者を、責任と誇りをもって派遣先に送るということが、労働者派遣法の本来予定する派遣元の役割です。登録しただけの派遣労働者に、特別な研修や訓練もせずに、単に紹介するだけの派遣会社の現状では、派遣会社の存在意義はあまりありません。

 派遣先も、こうした派遣会社を媒介にして、実際には「正社員」と同様に働かせる目的で、派遣労働者の面接をしているのが現実です。最近は、女性労働者については、正社員の採用に替えて、派遣労働者の導入をしている企業が少なくありません。本来は、正社員として採用するべきポストに派遣労働者を導入しようとする点に違法な「競合」という慣行が蔓延している理由があると考えられます。

 労働省の出先機関である、公共職業安定所を通じて、こうした労働者供給事業の責任追及が可能です。派遣110番としては、もし、労働者が争う意思があれば、競合によって派遣採用された労働者については、派遣先への直接採用を求めることが法理論的には、十分可能だと考えています。

 とくに、派遣労働者にとって、「競合」や「面接」は時間的にも金銭的にも大きな負担になります。派遣先会社が、「候補者」を何度も面接に呼び出したり、試験を実施して何時間も拘束するような場合は、その拘束時間について、賃金を請求することが可能です。実際にも、この拘束時間について賃金支払いを求めて、支払いがなされた相談例もあります。詳しいメモをとって、拘束された時間や交通費などの記録を残しておいて下さい。

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