updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2200. 出向と派遣とはどう違う?

 出向(在籍出向)も派遣も、出向元・出向先・出向労働者、派遣元・派遣先・派遣労働者と、3者の関係で労働を提供する点できわめて類似しています。実際にも、また、法的にも出向と派遣を区別するのが難しい事例も少なくありません。

 出向と派遣との区別

 出向というのは、法律上の特別な用語ではありません。会社ごとに色々な意味で使われています。したがって、「出向」という言葉にこだわることは適当ではありません。その会社でどのような意味で使われているかによって判断が異なります。場合によっては、その会社では「出向」という用語を用いていたとしても、実際には、「労働者派遣」「派遣」と考えられる場合も出てきます。

 ここでは、労働省の解釈にしたがって「出向」と「派遣」の違いについて考えてみます。

 出向=二重の労働契約の成立

 労働省の解釈では、「出向」とは出向元と出向先の両方で二重の労働関係が成立するものであるとされています。労働者にとっては、「出向元との間の労働契約」と「出向先との間の労働契約」の二重の労働契約が成立することになります。もちろん、三者関係ですので、出向元と出向先の間に何らかの出向協定(出向契約)が結ばれることが前提になります。この出向協定、出向元・出向先との労働契約に基づいて、出向労働者の労働条件や業務内容などの大枠が決まることになります。「出向先」が労働者を指揮命令して労働させる使用者であると同時に労働契約上の相手当事者として雇用関係が存在することになります。つまり、出向では、従来の直接雇用と同様に、「雇用関係」と「使用関係」は分離されていないのです。


 派遣=雇用と使用の分離

 これに対して、「派遣」は、派遣元との間にのみ「雇用関係」(労働契約関係)が存在し、派遣先との間には指揮命令を受けるだけの「使用関係」のみが生ずることになる、というのが労働省の解釈です。戦後の労働基準法などの労働法体系では、「間接雇用」が禁止されて、労働者については直接雇用を原則とする考え方が基本になってきました。労働者派遣の「雇用関係と使用関係の分離」は、この基本的な労働法の考え方と対立するものです。
 いいかえれば、労働法では、「実態として労働者を指揮命令し、その支配下に置いて従属的に労働をさせる者」を「使用者」として労働基準法、労働組合法などの労働法の使用者責任を負担させてきました。労働者派遣の考え方は、この基本的な考え方を大きく転換することになってしまいます。BR>  この「雇用関係と使用関係の分離」こそ、労働者派遣の最大の特徴であり、労働者にとっては、使用者責任があいまいになる=労働者の権利保障があいまいになる、という点で大きな問題を生む根源なのです。

 時間外労働を例に違いを説明

 出向と派遣では、どのように違うのか、いくつかの点で説明してみます。
 まず、時間外労働(残業)については、出向と派遣で大きな違いがあります。
 出向の場合、出向労働者は、基本的に出向元の従業員として、他の従業員と区別なく扱われます。労働基準法が定める時間外労働をさせるための「36協定」は、出向先の事業場で締結される協定が出向労働者にも適用されます。出向労働者は、周囲の出向先の労働者と同様な条件でしか時間外労働をすることができません。時間外手当(割増賃金)も、出向先が支払うことになります。ただし、出向元での有利な手当を出向先でも支払うことになっているなどの特約があれば、差額を出向元か出向先が負担することになります。
 これに対して、派遣の場合には、派遣先の従業員とはまったく区別された扱いになります。派遣先で仕事が集中して残業が必要であるとき、派遣労働者については36協定は派遣元事業場で締結されることになっていますので、もし、36協定が派遣元で締結されていなければ、派遣先は派遣労働者に時間外労働を命じることはできません。逆に、派遣先では36協定が締結されていないときには、派遣先の従業員は時間外労働をしませんが、派遣労働者の派遣元で36協定が締結されていて、労働者派遣契約・就業条件明示書・派遣元就業規則などで時間外労働が予定されていれば、派遣労働者だけが時間外労働をすることも生じることになります。

 懲戒処分を例に説明

 次に、労働者が職場で周囲の労働者とトラブルを起こしたときにも、出向と派遣では大きな違いが生じます。
 まず、出向であれば、出向労働者は、出向先の就業規則の適用を受けます。したがって、出向先で懲戒処分を受ける可能性が生ずることになります。また、出向元と労働者の間の労働契約は終了するのではなく、出向中も継続して残っていることになります。通常は、出向元では「休職」扱いとなり、出向が終了すれば、出向元に復帰することが前提になっています。出向元との関係では、基本的な労働契約関係がありますので、出向先からの復帰、服務規律や懲戒処分(出向先での非違行為について)など、出向元が行える余地も残ることになります。ただし、出向先の出向元の両方で、同一の行為につき懲戒処分を受けることは「一事不再理」の原則に反する問題が生じます。
 これに対して、派遣の場合には、派遣先でトラブルを生じたとしても、派遣労働者には派遣先の就業規則は適用されません。派遣先が派遣労働者を懲戒することはできません。派遣元の就業規則が派遣労働者に適用されますので、派遣元が懲戒する可能性は十分にあります。派遣先は、派遣労働者本人や派遣元に対して、損害賠償を請求することは可能です。

 派遣類似の出向(偽装出向=違法派遣)

 要するに、出向の場合には、出向労働者と出向先の間に労働契約関係が生じます。さらに、36協定、就業規則など、労働基準法の定める様々な規範や使用者の責任はすべて出向先の使用者が負担します。労働保険(労災保険、雇用保険)、社会保険(健康保険・厚生年金保険)なども、出向先の使用者が負担するのが原則です。こうした出向先の使用者が、こうした法律上の責任を負担しないときには、この「出向」は、本来の出向ではなく、実態としては「派遣」と考えられます。
 出向名義の「派遣」=違法派遣と考えられることになります。


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