2000年11月11日 合同ゼミ
金沢大学 若山久子・椎野徳子
女性虐待〜ドメスティック・バイオレンスについて
一、
ドメスティック・バイオレンス
(1)はじめに
新聞報道によると、今年上半期の刑法犯中、「いわゆるドメスティック・バイオレンス(以下DVとする)で殺人や傷害に発展したケース」は四三三件と倍増した。(注1)
ここにおいて、DVを夫やパートナー、恋人など親密な関係の間における男性から女性に対する暴力をいう。暴力には、身体的な暴力のほか、性暴力、精神的な暴力(無視、言葉による暴力、経済的な支配)なども含み、その中核には『力と支配』の関係が存在する。(図1)
DVは男性の年齢・職業・学歴・や収入などに関係なく、どんな社会的地位や環境のカップルにも起こっている。したがって、DVは、全ての女性が被害を受ける可能性がある。また、二人の間に一度暴力による支配と屈従の関係が出来上がってしまうと、長い間続いてしまうのも特徴である。(図2)
(2)実態
昨年の9月から10月に行われた総理府の初の全国規模の調査(全国20歳以上の男女4500人を対象)によると、20人に一人の女性が夫から「生命の危険を感じるくらいの暴行を受けた」と回答した。女性が4.7%と男性(0.5%)を大きく上回っており、DVが女性に集中している実態がわかった。(詳細は別紙の「男女間における暴力に関する調査」参照)
二、
DVが起こる社会的要因〜「男性の優位と女性の従属」
(1)結婚制度・「家」制度
体力的・経済的・社会的地位が強い立場にたちやすいのは男性であり、DVは、これらの男性の持つ社会的な権力が女性を抑圧し、支配する手段として行われている。
妻が仕事している場合でも、名前・地位など社会的な立場は夫にあり、妻は夫に所属しているといえる。根底には、『男性は男性らしく、女性は女性らしくあるべきだ』という性別による役割分担の考えがある。
当事者同士で問題が解決できるのは両者が対等な場合であるが、DV当事者同士は、社会的にはもちろんの事経済的にも不公平な状態にある。DVは、単なる夫婦げんかとは違って、圧倒的な不公平なもとにある固定的な支配と屈従の関係であり、当事者だけで解決するには不可能に近いものがある。たとえば、妻からみれば明らかなDVでも、夫は「妻の非を諭す行動のひとつ」と考えており、暴力ではなく「しつけ」だと考えていることがある。家庭の中の暴力を止めるには第3者の介入が必要であり、また、ひとつの機関だけでなく、社会的な支援ネットワークが必要である。
(2)「法は家庭に入らず」
実際には、私的で個人的な関係だからという理由で、警察は介入せず。
→女性の生命・身体の安全や自由は、夫の私的な自由裁量に任せられている。
「法は家庭に入らず」という理由で、家の中で起こる見えない暴力が、妻・高齢者・子供たちなどの弱い立場にある家族の人権を侵害し続けている。
三、
DVへの対応
(1)相談機関(図3)
@女性センター・女性会館・福祉事務所・婦人相談所
A民間のカウンセラー
B法律相談
C警察署
(2)緊急一時避難所
@ 婦人相談所
婦人相談所には全国の都道府県に各1カ所設置されており、一時保護所を併設している。婦人相談所を利用するには、移住所の福祉事務所を経由する必要がある。利用の際の費用は無料で、利用期間はおよそ2週間。
A 民間シェルター
現在全国に20ヵ所設立されている。
四、
現行の諸制度・諸機関の問題点と今後の課題
(1) 刑法の適用
(2) 警察の対応
(3) 女性と子供の安全確保のための民事手続き
(4) 家庭裁判所の離婚調停
(5) 裁判所のDV認識
(6) 婦人相談所
(7) 母子寮
(8) 福祉事務所
(9) 医療・保健機関
(10)生活保護
(11)児童扶養手当て
(12)健康保険
(13)年金制度
(14)公立女性センターの相談機能
(15)民間援助システム
(16)DV防止法の草案
注1:朝日新聞2000年8月4日付。犯罪統計にはDV概念が無いので、被疑者と被害者の関係別検挙件数から、内縁を含む女性配偶者が被害者となった事件数を示したものであろう。
<参考文献>
・『知っていますか?ドメスティック・バイオレンス 一問一答』 日本DV防止・情報センター 解放出版社 2000年
・『ドメスティック・バイオレンス』 「夫(恋人)からの暴力」調査研究所 有斐閣 1998年
・『裁判の女性学』 福島瑞穂 有斐閣選書 1997年
・『検証・民事不介入』 法学セミナー 2000年10月号
・「男女間における暴力に関する調査」 総理府男女共同参画室 平成12年2月
・「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方―21世紀の最重要課題―答申」 男女共同参画審議会 平成12年9月26日
・「男女共同参画に関する県民意識調査」 石川県 平成12年度