意見 派遣先による労働者派遣契約中途解除をめぐる問題について
1999年12月5日 脇田 滋

 新派遣法が1999年12月1日に施行されました。
 それに伴い、労働省が従来の就業条件明示書のモデル記載例を改めました。関連して、朝日新聞が次のような記事を掲載しました。
 「くらしのあした」欄への読者からの訴えが元になり、派遣先による労働者派遣契約中途解除をめぐって、労働者に犠牲・負担が転嫁されていることが明らかになりました。

 詳しくは、「くらしのあした」欄のバックナンバーに記事が掲載されています。その経過のなかで私のコメントも紹介されました。また、労働省の担当者である岸本課長補佐との対談でも、労働者派遣契約中途解除の問題が話題になりました。
 そのなかで、労働省として、下記の記事にありますように、就業条件明示書に中途解除の際の措置の例として、休業手当の支払を明示し、労働者に周知するように指導することになったということです。

 派遣で働くときには、「就業条件明示書」を交付されますが、その中に中途解除の際に「休業手当」を支払うことが明記されているか、しっかりと確認して下さい。記載されていないときには、記載するように求めることができますし、公共職業安定所にその派遣会社を指導してもらうように申告することもできます。

 また、万一、派遣先から契約期間が残っているときに、中途解除されたら、それは派遣元との関係ではまだ解雇されたわけではないことをしっかりと理解してください。

 そして、残り期間いっぱいについて、
 (1)以前と同等以上の仕事を紹介するように強く求めてください。前の仕事より悪い条件であれば、応じる必要はありません。
 (2)(1)ができなければ、派遣元の会社内で同等以上の仕事をさせるように強く求めてください。派遣元会社が通勤の事情などで不利な条件であれば、この要求を不要ですし、派遣元から求められても応じる必要はありません。
 (3)(1)、(2)が実現しないときには、残り期間いっぱいの休業保障を派遣元の契約違反による損害賠償として強く請求してください。
 (4)派遣元としては、労働基準法第26条に基づく、休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う義務があります。この休業手当分の支払もしないときには、労働基準監督署に賃金未払い(労働基準法第24条違反)として申告することができます。なお、休業手当の支払は、賃金とまったく同様に、毎月の賃金支払日(給料日)にしなければなりません。

 なお、平均賃金の計算は、派遣労働者の場合、不利になっています。過去3ヵ月の総賃金(労働による収入:残業手当などの手当類)を総暦日数で割るからです。概算で日給の7割弱になります(日給1万円であれば、7000円弱)ので、平均賃金の60%という休業手当では4000円程度になってしまいます。残業手当や通勤手当があれば、それも総賃金に含めますが、派遣社員には通勤手当を含めて手当類の支給がないことが多いからです。(この点は、改めて別の機会に、派遣労働者の平均賃金計算方法見直しの問題として提起したいと思っています)できれば、休業手当ではなく、賃金全額の請求を求めることが必要だと考えます。

 多くの労働者の方は、実際に仕事がないのに賃金全額や休業手当をもらうということは考えつかないかと思います。
 しかし、最初に約束した契約期間を一方的に破棄することが、重大な契約違反であることを理解してください。
 契約違反についての派遣元や派遣先の責任をあいまいにしますと、かえって不利になります。
 次の派遣先で仕事を探そうとして見つからないときには、離職票に「自己都合退職」と記載され、雇用保険の受給についても最長で3ヵ月もの支給制限を受けることになります。

 中途解除、休業保障なし、自己都合退職、雇用保険の支給制限・・・・・・・・
 本来であれば、派遣先の契約違反の責任こそ問われるべきですが、次の仕事の保障のない派遣労働者の弱い立場のために、保護されるべき労働者が、かえって、次々に不利な状況に追い込まれています。
 事前規制を緩和し、事後的救済でよいとする労働立法・労働行政の無責任な「規制緩和政策」の結果です。

 86万人の派遣労働者のなかで労働者派遣契約中途解除にあった人は少なくないと思います。
 かりに延べ5万人の人が平均で1ヵ月の期間を残して中途解除されていたとしたら、休業手当1ヵ月分(約9万円)として、45億円もの休業手当が支払われるべきことになります。こうした巨大な額が、労働基準法が最低基準として義務づける労働者の生活保障にまわっていないことは深刻な問題だと考えます。派遣先事業主や派遣元事業主は、派遣労働者を生活する生身の人間として扱うべきです。

 労働者に犠牲を押しつけ、労働基準法の最低基準も守らないのでは、経営者のモラルハザードだと言わざるをえません。
 労働省も、中途解除の場合の休業保障については、明確に派遣元を行政指導しています。
 また、休業手当を確実に受けられるように、派遣元に対して派遣先が中途解除にともなう損害賠償を支払うように求めています。
 今回の通達の見直しは、この点を改めて確認するものです。

 労働者としても、当然の権利ですので、あきらめずに請求してください。応じない派遣元や派遣先については、公共職業安定所に個人的に、また、労働組合を通じて申告することができます。

 関連したホームページをご覧下さい。



 
 
1999/11/21 朝日新聞

中途解約の派遣労働者へ休業手当の周知徹底 労働省 

 派遣先から契約半ばで辞めさせられ、次の就業先が見つからない派遣労働者には、派遣元の会社が休業手当を支給しなければならない。しかし、多くの派遣労働者は休業手当の規定さえ知らされていないのが実態だ。こうした状況を重視した労働省は、契約内容を示す就業条件明示書に休業手当の規定を明記するよう指導することを決め、改正労働者派遣法の指針に付け加えて公布した。「使い捨て」とも言われる派遣労働者にも休業手当の規定を周知徹底させ、派遣業界の体質改善につなげたい考えだ。

 労働省の指針は、12月1日の改正労働者派遣法の施行に伴って、今月17日に公布された。この中に、労働基準法などの関係法令を関係者に周知徹底するよう、派遣元会社に求める項目が付け加えられた。

 具体的には、契約の際の就業条件明示書に「派遣契約解除の場合の措置」などの項目に、休業手当についての説明を明記するよう求める。

 今後、派遣業界への通達で「休業手当を支払うことなど、雇用主に係る労働基準法上の責任を負うこととする」などの表現を示し、就業条件明示書の記載例とする予定だ。

 就業条件明示書は、雇用契約ごとに派遣社員に渡す書類で、労働時間や派遣期間など契約内容の一部が書かれている。派遣先にも渡されるため、結果的に派遣先への意識喚起にもつながるとみている。