---と---
●トウゴマ トウダイグサ トリカブト ●毒ウツギ
●毒ゼリ 毒ニンジン ●ドクムギ

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 トウゴマ(ヒマ)




トウゴマの種(右)

1978年9月のある夕方、ロンドンのテームズ川の橋のたもとで、一人のブルガリア人亡命作家が、刺客に襲われた。こうもり傘の先で大腿部を一突されたのである。彼は、その夜遅く帰宅したが、午前2時頃、高熱を出し、意識混濁をくりかえし、二日後に息を引きとった。
遺体の大腿部からは、直径1.5mmのプラチナ・イリジウム製金属球が摘出された。それには蝋でふさがれたらしい小穴がふたつあり、体内で蝋が溶けると内容物が出る仕かけになっていた。金属球と遺体の組織は早速、英国の科学兵器防衛研究所で精密分析され、毒の正体がつきとめられた。

フリーマントル 『KBG』 新潮選書

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この毒こそがトウゴマの種に含まれる猛毒タンパク質のリチンで、イギリスでは暗号名『W』として知られていたらしい。

毒・害

薬・効

<種子
有毒アルカロイドのリシニン毒性タンパク質のリシン。これは世界五大猛毒の一つといわれる。
(五大猛毒:テタヌストキシン、ボツリヌストキシン、ジフテリアトキシン、グラミシジン、リシン)

症状:死激しい下痢、呼吸困難、意識不明で死に至る。4、5粒で致死量。摂取して数時間たたないと中毒症状が現れない。が50度以上の熱を加えると分解する。

古代、病気を体の中からすばやく排出する事によって治すという考え方から、強力な下剤であるヒマシ油が用いられた。
キャプション
下剤、工業用、化粧品等として使われる“ひまし油”は加熱によって分解されたもの。適量を使用するのは可。ただし妊婦には不可

毒リシン、米軍がワクチン開発 「動物実験に成功」

 米陸軍感染症医学研究所などの研究チームは4日、植物性の猛毒リシンから身を守るワクチンの動物実験に成功したと米専門誌に発表した。現在、リシンに対するワクチンや解毒剤はなく、テロや戦闘で使われた場合には多くの死傷者が出る恐れがある。将来は米軍兵士たちへの予防接種に加えることを目指す。

 リシンは、ヒマ(トウゴマ)から「ひまし油」を搾り取った後のかすから抽出される。吸い込んだり、飲み込んだり、あるいは注射されても細胞を壊死(えし)させて臓器不全を招く。注入した場合の致死量は0.0005グラム。

 研究チームは、リシンのたんぱく質の一部分から有害部分を除去したワクチンを作製。これを投与したマウス10匹と、未投与の10匹に致死量を超えるリシンを噴霧した。未投与群はみな死んだのに対し、ワクチン群はすべて生き延びた。

 ワクチンが、マウスの体内にリシンから身を守る免疫をつくったとみられる。今後、サルで安全性を確かめるのと並行して、大量生産法の開発を始めるという。

 米国では今年2月、共和党のフリスト上院院内総務の事務所の郵便室でリシンを検出。昨年秋にも、ホワイトハウスあての郵便物を扱う施設や、サウスカロライナ州の郵便施設でリシン入りの封筒が見つかった。

(2004/08/05 asahi.com の記事より)



     


 トウダイグサ(トウダイグサ科の植物)

沢に群生するトウダイグサ

ノウルシの群落、5月まで見ごろ>

加須市北篠崎の「浮野の里」で、ノウルシの群落が見ごろ。浮野橋からちょっと歩くと、黄色のじゅうたんを敷いたようなノウルシ。暖かい春の色は、広さ約1000平方メートル。5月上旬まで。
 日当たりのいい湿地に群生するトウダイグサ科の多年草。茎からウルシのような汁を出すので和名「野漆」。

加須・浮野の里 『観光案内』

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トウダイグサ、ノウルシ、等みな同じ仲間である。

毒・害

薬・効

<全草・茎の汁
有毒成分の科学的な精査はまだ完全ではない。経験的に毒草であることがいわれてきている。

症状:死に至るほどの猛毒ではないが危険である。茎の汁によるかぶれ、皮膚に水泡ができる。口にいれたとき吐き気、腹痛、下痢、消化器官への異常、脈拍異常、けいれん。
 トウダイグサの名は、海上を照らす『灯台』ではなく、神仏に供える燈火をのせた『燈明台』の飾りがその葉ににているところに由来する。

茎からでる汁をイボに塗り、イボとりに用いるところがある。
キャプション
群生する黄色い花を鑑賞するのは爽快である。


 トリカブト

山のトリカブト

トリカブトの根:烏頭といい、これを加工したものを附子という。

  

主人
「これはまた 附子(ぶす)というて、向こうから吹く風にあたってさえ、たちまち滅却するほどの大の毒じゃほどに、そう心得てよう番をせい。」

太郎冠者
「その儀でござれば畏まってござる」

次郎冠者
「ちと御不審を申し上げまする」

主人
「何ごとじゃ」

次郎冠者
「向こうから吹く風にあたってさえ滅却するほどの大の毒を(御主人様は)何としてお取り扱いなされます」

主人
「(略)不審もっともじゃ。これは主を思う物で、その主が持て扱えば苦しうない。また汝らがそっとでも傍によったならば必ず滅却するほどに、そう心得てよう番をせい」

狂言「附子」

毒・害

薬・効

<全草・特に根
アルカロイドのメサコニチン、アコニチン、アコニン等。天然毒としてはフグに次ぐ。

症状:嘔吐、呼吸困難、手足指の麻痺、下痢、重症の場合は死亡。洋の東西をとわず、古くから狩猟の矢毒として利用されてきた。現在でも解毒剤は見つかっていない。
雅楽装束の鳳凰を模したかぶりものに形が似ていることからこの名がついた。

キャプション
漢方では生薬として塊根を用いる。強心、利尿剤
狩猟の矢毒として利用されるが、この毒によって殺された動物の肉を食べても、毒にあたることはない。


 毒ウツギ


毒ウツギの実

東京は府中での話。往年名主を勤めていたある人のお屋敷の庭先に、毒ウツギがあって実が熟していた。ちょうど1日中その辺りで遊んでいた子供たちが帰宅後全員、大腹痛を起こして苦しみ始め、あわてて医者を呼んで手当てを施したが、既にどうしようもなく、症状の激しい子は大量の血を吐き死亡してしまった。中に症状が軽くて助かった子がおり、事情を問いただすと、名主の家の毒ウツギの赤い実を食べた事が判明した。

『日本産物誌』<要略>

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実がなったときの様子が美しいはいえ、危険なので庭の植栽に加えるのはやめよう。

毒・害

薬・効

<全草
コリアミルチンル、ツチン、コリアチンで、特にコリアミルチンの毒性が強い。

症状:嘔吐、けいれん、呼吸マヒなど。花が4〜5月に咲き、果実はちょうど桑の実のように赤から黒(紫)色に熟す。自生している場所も明るいところで、しかも見た目がいかにも食べられそう、おまけに甘味もあるらしいので食用と間違える事故が毎年多発。知らずにこの実をつかい薬洋酒を作ってしまい、集団で中毒者がでた村があったらしい。
また、恐竜の絶滅の原因がこの毒ウツギではないかという説がある。

・実をイボに塗ると自然にイボがとれる

・葉を御飯に混ぜてねずみとりに使う(毒ウツギの別名にネズミゴロシというのがある)

  


 毒ゼリ(ウォーターヘムロック)


山間の川辺や湿地で
普通によくみかける

ドクゼリは池や沼地に生える大型の植物で、茎が1メートル以上にものび、夏になると小さな花がたくさん集まって、白いレースのように涼しげに咲く。ここまでくれば間違えっこないのだけれど、小さなぎざぎざの若葉が足元からちょろちょろ出てくる春先は、ワサビよりセリと勘違いされるかもしれない。しかし、水のなかにある根は、セリや、ワサビよりもずっと太く、タテに悪となかはタケノコのように空洞になっていて、あいだにはいくつもの節があり、気色っぽい汁をにじませている。これが何の植物か、一目でわかるのは、その道の専門家か、ドクゼリにあたって死ぬほど怖い思いをした人くらいかもしれない。

植松黎「毒草を食べてみた」

 茎のなかも空洞

毒・害

薬・効

<全草、とくに根
毒ウツギ、トリカブトにならぶ、日本の三大有毒植物。シクトキシン。早春は全草、夏と晩秋には根の毒が強くなると言う。

症状:激しい痙攣、意識障害、痙攣による窒息死。ドクゼリの初期症状は早く、普通15〜90分であらわれる。適切な処置が遅れると24時間以内に命を落としかねない。
毒矢の先にトリカブトとまぜて使ったと言う例がある。

・万年竹、延命竹、と言う名で鑑賞用に店に並ぶこともある。


 毒ニンジン(ヘムロック)

毒ニンジンの根

ソクラテスが毒ニンジンの杯をあおって
最期の瞬間を迎えるまでの様子を
その臨終に立ち会ったパイドンが話している。

あの方は(ソクラテスは)あちこち歩きまわっていられましたが、やがて脚が重たくなったと言われて、仰向けに休まれました。すると、毒を手渡した男(獄卒)は、あの方のおからだに触り、しばらくしてから足先や脛のほうを調べ、それから足の先を強く押して、感じがあるかとたずねました。

「ない」とあの方は答えられました。

つぎに、また脛に同じことをし、こうしてだんだん上にあがっていって、しだいに冷たくなり硬くなってゆくのを、ぼくたちに示しました。そして、もう一度触ってみて、これが心臓まできたらおしまいです、といいました。

もう、ほとんどお腹の当たりまで冷たくなっていましたが、あの方は顔の覆いをとって---覆ってあったのですが---言われました。これが最後のお言葉になったわけです。
「クリトン、アスクレピオス(医薬の神様)に鶏をお供えしなければならない。忘れないで供えてくれ」
「承知した」とクリトンは言われました。「まだほかに言うことはないかね」
クリトンがこうたずねられたときには、もう答えはありませんでいした。

これがぼくたちの友、ぼくたちが知るかぎりでは同時代の人々の中で最もすぐれた、しかも最も賢い、最も正しいと言うべき人のご最期なのでした。

プラトン「パイドン」

毒・害

薬・効

<全草、とくに根、種子
アルカロイドのコニイン、ガンマコニセインを含む。

症状:神経組織の破壊筋肉の硬直や麻痺、聴覚障害、体温低下等急速に症状が起こる。葉をセロリや他のセリ科ハーブと間違えて食べる事故が今も多い。他の動物がこれを食べても吸収が遅いので、なかなか死にいたらないが、人間は吸収が早いのですぐに症状があらわれるという。この草を食べた鳥や獣を捕って人間が食べた場合ににも中毒にかかることがある。

鎮痛、鎮痙剤として利用


 ドクムギ 


道ばたでよく見かける
ホソムギも同じ仲間

ユーグ・ド・モンホール、ニコラ・ド・クレマンジュ、パオロ・アルベルティ、
君たちには再び制服を脱ぎ、世俗騎士の姿になって、隠密行動をとってもらう事になった。
知っての通り、ドイツ皇帝の不幸な最期はサラディンを狂喜させた。彼はあらゆる手段でドイツ郡の遠征を阻止しようとしていたのだ。ギリシャ商人に毒麦を送らせ、ドイツ騎士団の集団毒殺を謀ろうとした事もある。後発のフランス王とイギリス王に対しても画策せぬという保障はない。
そこで、君たちの任務はイギリス王リチャードの身辺警護だ。

青池保子 『サラディンの日』

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また、ほかのたとえをお話になった。
「天の国は、よい種を畑にまいた人のようである。人々がねむっている間に敵が来て、麦の中に毒麦をまいて立ち去った。芽が生え出てみると、毒麦もあらわれた。下男たちが主人のもとに来て、“ご主人さま、畑におまきになったのは良い種でしたのに、それにどうして毒麦が出たのですか”とたずねた。主人は、“敵がしたことだ”といった。下男たちが、“おのぞみなら、私たちが、あれをぬきにいきましょうか”というと、主人は、“いや、毒麦をぬき集めようとして、よい麦もいっしょに抜くおそれがある。双方とも収穫の時まで、育つにまかせておけ。収穫のとき、私は刈る人に、まず毒麦をぬき集めて焼きはらうために束ねて、麦をあつめて倉におさめよ、といおう”と答えた」

マタイによる福音書 13章24ー30節


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イネ科ドクムギ属ドクムギ(Lolium temulentum L.)というのが正式名になる。
      

毒・害

薬・効
<本体に毒性はない
ドクムギが牧草に混入すると家畜が中毒を起こすことがあるというので『毒麦』というが、実際にはテムレンという有毒アルカロイドを算出する菌の寄生によるものである。また『麦角菌』のついたライ麦のことを指したと思われる。菌に侵されなければ“ドク”という名はついていても有毒植物ではない。むしろ“雑草、麦と違って役に立たない”という意味あいが強い。

牧草として、また冬でも緑を保つ芝生として明治時代に輸入されたもの。同じ仲間の草はどこでもよく見かける。