フェニキア歴史紀行

序   章

 ペルシア湾から死海の辺りまで弧を描くようにして、肥沃な三日月地帯が広がっている。そこには、我々が一般に乾燥地域として認識している"中東"とは違った特異なほど豊かな大地が広がっている。その豊かさが古代から歴史の先進地域として、多くの文明、文化、民族を育んできた。

 今回の旅行では、三日月の西の端にあるレバノンとシリアを訪れる。この地域は「乳と蜜の流れる地」と呼ばれるほどに地味が肥えている。また、地理的にも、アジア、アフリカ、ヨーロッパを結ぶ要衝に位置している。それゆえ古来、オリエント世界の支配を目指した征服者たちは、この地を奪うことを重要視し、それによって覇権の礎としてきた。

 そのようなこの地域の重要性を象徴する場所に、ナアル・エル・カルブ(別名ドッグリバー)がある。ベイルートの北14キロにある石灰質の切り立った崖に、カデシュでヒッタイトと戦ったことで知られるエジプトのラムセス2世(BC13世紀)のものをはじめ、この地を制圧したことを記念する碑が19も並んでいるという、夢のようなところである。どうしてもそこに行きたいと思ったところから、今回の旅が動き出した。

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