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■セブンアイ 「サムライ魂」
試合は0秒で決着したが、彼は、美しい礼をして畳を降りた。 アテネ五輪でメダルを獲得できなかった井上康生(綜合警備保障)か100キロ級から階級を超級に変更して初めて挑んだ嘉納杯(9日、武道館)、得意の内股で一本を連続し優勝を飾った井上の勝ちっぷりは見事だったが、マハムード・ミランファシャンディ(イラン)の負けっぷりもまた見事であった。強豪がそろう昨年のフランス国際で優勝を果たし、アテネ五輪でも超級で4強入りしている強豪である。 「嘉納杯に出たいとずっと願ってきた。2週間前、これでは無理だ、と医者に言われたが、それでも、最後まで努力し、なんとか畳に立ちたい、と日本に来た。とても残念だ」 ミランファシャンディはイランでの練習中に左ひざじん帯を負傷、全治2か月と診断されたが、嘉納杯初出場を諦められなかった。来日のために、と新調した道着の胸元には、黒糸で、わざわざカタカナで名前まで刺繍してもらった。じん帯が緩んでいるためにサポーターを使用する。しかしその一部に固い物質があるため、審判団が協議のうえ、サポーターを取らないならば失格、と畳に上がってから判定された。 日本企業に勤め10年になる、イラン人のトゥラジ氏が通訳を買って出てくれる。サポーターを外すことは現時点ではまだ危険で、審判の判断には従うつもりだった。しかし、憧れ続けた嘉納杯へ不出場を届けるのではなく、できる限りの準備をして実際に畳に立つだけでも励みになる、と巨体を丸めてミランファシャンディは説明した。2人は、山下泰裕(現東海大教授)に憧れ柔道を始め、武士道、サムライ魂といった精神に強く惹かれたという。 「決断を貫く、それを、後悔しない」 (東京中日スポーツ・2005.1.14より再録) |
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