7月13日
※無断転載を一切禁じます
IOC総会
2008年五輪開催都市決定、プレゼンテーション
(モスクワ、ワールドトレーディングセンター)
|
1回目 |
2回目 |
大 阪 |
6 |
- |
パ リ |
15 |
18 |
トロント |
20 |
22 |
北 京 |
44 |
56 |
イスタンブール |
17 |
9 |
2008年夏季五輪開催都市は、北京に決定した。
委員による投票の1回目では北京が44票を獲得(有効投票数104)、開催地の決定は2回目以降の投票に持ち越されたが、ここで大阪が6票で落選してしまった(右表参照)。
北京は2度目の投票で56票(有効投票数は日本の猪谷、岡野理事が投票に戻ったために2票増えて106)を獲得して残る3都市を振り切って開催都市に決定した。1回目、2回目で100票を集める圧倒的な勝利となった。またパリは、1回目15票、2回目が18票、トロントが20と22、大阪と最下位争いかと言われていたイスタンブールは、17と9票と大健闘を見せた。
北京は1993年に2000年の夏季五輪に初めて立候補をし、サマランチ会長の後ろ盾で決定かと言われたものの、直前になってシドニーに敗れている。その後、2004年候補には立候補を見送り、2008年、大阪の立候補より遅れて、立候補を表明した。実に8年越しの五輪開催実現となった。
「6票が意味するものは」
前夜、首脳陣で行なわれていた票読みは、実に対照的なものだった。
超楽観派は、「日本は多ければ20票から25票前後を獲得できる」とし、一方これとは正反対の超悲観派は「悪ければわずかに3票、よくて10票」とする両極端な票読みが水面下ではされていた。
結果的には悪いほうが当たってしまったわけだが、この背景にはまず自分たちのポジショニングが定まっていなかったこと、そしてイスタンブールがイスラム圏でもあり、かなり強固な固定票をすでに保持していることへの計算の読み違いなどがあったのではないか。
招致に敗れたこと以上に、100人を超えた委員の支持がわずかに6票であったことのほうがはるかに「衝撃」をもたらしたはずだ。
また12日の夜には、もうひとつのアクシデントもあった。
倫理委員会が行なわれ、倫理委員会のメンバーである猪谷氏と、トロントのクロック女史に対して「五輪の倫理委員会メンバーが、自らの候補都市を壇上でアピールするのは不公平になる。登壇はしないことにしたい」と、急遽、候補都市を北京にしたいと露骨なまでに表現しているかのようなサマランチ会長の意向からか、非常に政治的な決定がなされたからだ。
猪谷氏は、この日午前行なわれたプレゼンテーションでも冒頭のスピーチをすることになっており、これは重要なパートだった。前日の夜になって急遽これを禁じられたことで現場は混乱し、岡野理事をピンチヒッターに、急場をしのぐことになった。岡野氏はこれを万全にこなした恰好だったが、こうした揺さぶりに対しても、大阪はよく踏みこたえ、梁さん、小谷氏らが非常にポジティブに演説をしたことは評価したい。
一方では、同じ登壇禁止を受けたトロントのクロック女史は13日朝、辞表を提出。
「こうした不公平な決定こそ容認し難い。私はIOCのメンバーである前に、まずカナダの国民として、この大事なプレゼンテーションに参加することを選ぶ。間違っていない」と、堂々と会見を行い、プレゼンテーションに潔く出席した。
猪谷氏は、態度を明らかにする会見を行っておらず、倫理委員会委員長のムバイ氏が「猪谷氏は大阪との関係を決して軽んじたわけではなく、倫理委員会の理念を苦しみながら選択したのだ」(通訳による)と擁護している。
勝った北京はプレゼンテーション、前日の会見、すべてがほぼ完璧だった。
北京が圧倒的有利とされる中で、天安門事件からわずか12年しか経過していない事実、多くの人権活動家への抑圧、ジャーナリストへの弾圧、チベット問題や大気汚染、といった問題は、大阪を始めほかの都市が抱える「開催都市」としての問題点とは明らかに重みも、意味合いを違っていた。
つまり、この日北京を落とすことは、五輪の開催都市としての敗戦ではなく、中国という国家を政治的に、国際的に根本的に否定することになったはずで、そんな決断をIOCができるはずもなかった。この戦いはほかの4都市とはまったく次元の違う土俵での、これこそ国家の威信をかけた戦いだったといえる。
たとえば大阪の危機感と、北京の危機感を、単に結束力などのレベルで比べても意味はなく、その内容を考えたとき、大阪もほかの4都市も「危機感」の内容がまるで違っていたことをまず見逃してはならない。
大阪は、何も否定されていないし、トロントもイスタンブールもパリも同じである。日本のスポーツ、オリンピックへの働きかけ、大阪のスポーツへの取り組みは少しも後退はしないだろう。
ただし、大阪で五輪をやってもいい、ということは十分にアピールしても、なぜ大阪でやるのか、という理念や哲学までは、最後まで強いベクトルにはならなかったように見える。大阪の関係者の多くが、国際舞台ではなく大阪や国内、あるいは組織といった「内向き」の仕事に従事せざるを得なかった点も気の毒だった。新しい概念や組織で思い切り動く大阪らしいバイタリティも、存分に発揮できなかったのではないか。むしろ大阪が今後、本当の意味での国際化をはかりたいのなら、今回の6票は大阪で招致に従事し、尽力した活動に対して「国際的感覚への得点」だったと思えば少しも無駄ではない。常に無駄使いを指摘する意見はあるが、これは今後市民が断を下すことだろう。
理念や哲学を持って国際舞台にアピールすること、役所の縦構造や肩書き、慣習の悪循環を絶つことは、実はただ五輪開催都市の、大阪という立候補招致に限る問題ではないのかもしれない。
日本人が実はもっとも苦手である問題の集約した形に、今回は大阪がここモスクワで鮮明な恰好で対峙したということなのだろう。
サマランチ会長のコメント(IOCから)「この決定は、中国、北京のみならず世界的にも意義のある決定になった。私たちは中国が提唱した“グリーンオリンピック”を支持して、新しい時代の五輪を模索していきたい」
「オイ、オイ……」
パリの隠し球、ジダンが登場すると会場が沸き、沸くだけならまだしも、短いスピーチを終えたジダンに、誇り高きはずのIOCメンバーがサインに群がる一幕があった。ジダンは「パリで平和の祭典を行なうことは、私の次の大きなゴールでもある」と短くスピーチ。しかし存在感はさすがに圧倒的で、早々と降壇するなり、IOC関係者に囲まれてしまった。これには、レアルマドリーに、サッカー史上最高の移籍金で移ったばかりのジダンも苦笑い。サービスはしていたが、ネクタイ、スーツ姿のこれだけの人たちにサイン攻めに合うことも、なかなかないのではないか。
「プレゼンテーションの様子」
午前中に行なわれたプレゼンテーションでは大阪が、開催都市によるプレゼンテーションにパリ、トロント、北京、イスタンブールのトップバッターとして登場。約1時間、磯村隆文大阪市長、バイオリニストの梁美紗さん(14)、元ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さん(34)、ビデオで小泉純一郎首相が演説を行なうなど最後のアピールを行なった(演説はすべて英語で行なわれる)。
その後、大阪市在住で国際コンクールジュニア部門優勝経験もある梁さんが短くオリンピック賛歌を演奏。磯村市長が「大阪のメッセージ」として、「OSAKA IS READY」と、すでに3分の2に近い施設が完成していること、「心=ココロ」(WARM HEART)がボランティアや平和や融合を支えるとして日本語も披露した。また提案の中の「秘策」としていた、オリンピックレガシー(五輪後も何か遺産を活用していくとのコンセプト)に、「ワールドトレーニングセンター」の開設や、野外ミュージアムを作ることを約束した。
途中ビデオで大阪のPRをし、小谷氏が選手の立場を代表するものとして、大阪の選手村は個室を全員に与え、さらに1人当たり17平方メートルのスペースを確保するとプランを明かし、また役員、コーチ関係者にも隣接した選手村の使用を計画することを、イラストなどを使って説明。
梁さんは身近な話題をもとにスピーチをし、長野五輪を成功をバックに、竹田恒和(馬術連盟副会長、JOC常務理事)が過去の五輪から得た経験や自信を生かすことを約束し、ほかには陸上のモーリス・グリーン(米国)ら、外国選手が「大阪の組織、環境、すべてが最高のホスピタリティーだ」と、援護射撃をする場面も入れていた。最後はビデオで締めくくって、持ち時間を終えた。IOCメンバーからの質疑応答では3つの点を指摘があった。
質疑応答は以下(ここからは台本がなく、日本語で回答)
──大阪の人工島を使う計画の中でも、交通問題がもう少し具体的になっていない。
磯村市長 確かに遠いところもあり、ボート会場などは一部会場を変更している。また地域開発によって、すでに一部で新しい道路ができており、これによって、輸送機関がさらに充実すると思う。
──提案の中に、アンチドーピングへの取り組みがまったく入っていなかった。これについてはどういう立場を取るのか。アンチドーピングに賛成するのか、しないのか。
磯村市長 極めて厳しい認識をしている。調査機関は世界最高の技術を持っている。できる限りのことをするお約束をする。
──提案の中にはセキュリティへの対策が説明されていない、それと地震の問題はどうなのだろうか
磯村市長 地震予知は難しいが、今後10年の間で大阪に大きな問題が起きるという報告はない。また日本の建築物は非常に厳しい基準で建設されており、建物などへは影響はまずないと思われる。セキュリティは、心配ない。

読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い
|