みだれめも 第234回

水鏡子


○近況(4月)

 泊での古本屋巡りを検討と前号で書いたのだけど、緊急事態宣言を受け、本屋もブックオフもどんどん連休明けまでの休業を打ち出したので、意味がなくなり断念した。
 代わりに数年越しで目標としていた「株主優待券」を活用しての食費ひと月1,000円生活に挑戦した。
 株主優待で送られてきた商品と、各社グループ企業の店舗用金券(ただしクオカードやVISAカードなどの現金代替系のカードは除く)で外食。生じた端数のみを現金で支払うといういわゆる桐谷さん型生活である。
 残り半年分くらいある有効期間のものの大半を使い切る、少しもったいないかたちになるので、なかなか踏ん切りがつかなかったのだが、最終的には537円で簡単にクリヤーできた。
 じつは現金を使っていないだけで例月と比較して大変な贅沢である。外食店での飲食は、1,000円1,500円が当たり前だし、持ち帰り弁当などもひとつ400円500円である。食品スーパー半額セールの平均200円弁当と比較して、使った経費はたぶん4倍くらいに及ぶ。
 想定外は、食品スーパーのタイムセールに行かないことで、外出機会が激減したこと。これまで平日は週に3日くらい午後3時から10時過ぎまで健康管理を兼ねて6時間ほど外出していた。夜の7時前後、9時前後のどちらか、あるいは両方の時間帯の食品スーパータイムセールに照準を合わせ、喫茶店で本を読んだり、本屋古本屋、ときにはパチンコ店などで時間を潰し、晩飯を外食店でとるという流れである。
 1,000円生活になると、当然喫茶店とスーパーに行けない。古本屋と外食店だけである。コロナの非常事態宣言で、パチンコ店が休業である。
 その外食店も7時くらいで閉める店がほとんどで、サイゼリヤは完全休業した。近くの松屋もパチンコ店の敷地であるので一緒に休業してしまった。一番近い外食店であったマクドナルドは従業員が尼崎市経由での市内12例目の感染者になったため休店となった。予想以上に行ける店がなくなって、ひきこもらざるをえなくなった。運動をしない、することがないから口にものを入れる、体重も少し増えている。この次の血液検査の値が少し不安である。
 いざ本当に食品スーパーを使用しないと、野菜の欠如がかなりきびしい。月も下旬に入ってくると、米、パン、パスタといった主食系さえ怪しくなった。ガストや牛丼チェーンの持ち帰り弁当、三食カレー三昧などでしのぐことになったが、食品スーパー活用時より明らかにフライものの比率が上がった。偏りのある食生活で、健康面で絶対に良くないなあと自覚できるひと月だった。とにかく野菜が厳しい。今度挑戦するときは、事前に優待商品で糖分の少ない野菜ジュースとかを確保してから始めよう。

 市内の感染者数は4月末時点で13人である。その大半が市外発症の濃厚接触者という感染経路の追跡がなされた結果のものである。無症状感染者の数はその数倍いるという覚悟は必要なものの、少なくとも神戸市の300人、西宮市、尼崎市等阪神地区の平均60人の発症者数と比べると、明石市以西は40人発症の姫路市も含めて2ランク程度低いという認識でよさそうに思える。
 濃厚接触者という単語をメディア経由で最初に聞いた時には、性的ニュアンスを感じ取っていた。割とすぐに誤解であるとわかったものの、報道するメディアの側自体に似たような誤解があったような気がする。

 なろう本を読んでいて、この「濃厚接触者」という単語に出会い、改めてああこれは疫学系の専門用語なのだ、と少し感動した。
 瓜生久一『化学で捗る魔術開発』(Mノベルス)。過労で倒れた生化学者が異世界に転生し、科学と魔法を重ね合わせて新技術を量産しているうちに、勇者の物語に巻き込まれていく。大本は王道だが、かなり肌合いの異なる作品に仕上がっている。丁寧な文章作法が好ましい。このなかのエピソードのひとつとして、治癒魔法の効かない青年を助ける話があって、これが肺結核の治療手続きを詳述していくかたちになる。「濃厚接触者」「アルコール除菌」「目の粘膜を通した飛沫感染」といったよく見かけるようになった単語が並んでいる。
 WEB掲載が18年の5月、書籍刊行が19年の3月なので、今回のコロナ騒動とはもちろん無関係なのに、この時期初めて目にしたのでちょっとうれしかった。ほかの時期に読んでたら気にもとめずに流していただろうなと思う。

 4月購入冊数は162冊18,000円。例月から半減した。
 なろう本55冊、コミック22冊。
 ダブリ本が17冊と実に1割超えしたが、ミスはそのうち12冊。『地図にない町』はかびた本の買いなおし、4冊は100円で見つけたせいで、わかって買ったハヤカワSFシリーズ。
 硬めなところでは、『批評のジェノサイズ』『エロゲー文化研究概論』『知識と時間』『法と芸術』『アリスと旅する不思議な数の物語』『民衆史 その100年』『ゴシックハート』『どんどん沈む日本をそれでも愛せますか』など。
 なお、4月の支出はトータル8万円ほど。うち3万円は電気ガス水道通信費。医療費1万、交通費1万、本代が約2万というわけである。

●新規まき直しなろうの整理 WEB小説作家別一覧(不完全)リスト

〇凡例

 1.表の構成

評価 作家名 代表作 出版社
(レーベル)
角川系 アルファポリス系 その他 文庫 枠超え1 枠超え2 枠超え3
あかつ D 朱月十話(とーわ)① 世界最強の後衛 KADOKAWAブックス はぐれ精霊医の診察記録 異世界に召喚された俺はハーレムマスターに転職しました 魔王討伐したあと、目立ちたくないのでギルドマスターになった コミュ難の俺が、交渉スキルに全振りして転生した結果 お姉さん先生は男子高校生に餌づけしたい 正しい異能の教育者
あかつ 朱月十話(とーわ)② 復讐勇者の迷宮奴隷ハーレム 転生剣士の奴隷ハーレム 転生城主の奴隷ハーレム 転生領主の催眠ハーレム王国
あにっ D アニッキーブラッザー 異世界転生 君との再会までながいことながいこと アルファポリス 異世界転生 君との再会までながいことながいこと 被追放者たちだけの新興勢力ハンパねえ 不屈の善戦帝王

 大雑把な説明としてはこんなところで。

 それなりに数を読んだこともあり、なろう系小説について感触的に把握できたように思える。
 しかし、全体像を文章的に伝えることができるのかは、正直試行錯誤の状態である。
 レーベル別とかテーマ別とかいくつか緒をつけてみたが、どうしても局所に焦点を当てるかたちにならざるを得ない。もちろんそのなかで、レーベルの置かれた歴史的位置とかテーマのヴァリエーションとか、全体を俯瞰する手がかりを混ぜていくのは可能だし、実際そういう書き方をしているのだが、なんというか一応の総体が見えるところにたどりつく時間的距離がはるかに遠い。
 そんなわけで、局所と無縁な、ある意味一番無味乾燥な「作家あいうえお順のリスト」を作り、その中から比較的お勧めできる作品に、コメントをつけていくことにしたわけである。この方が偏りがない分、全体像にたどり着きやすいのではないか。

 まあ、そんな意図でもって取り掛かったのがこちらのリストである。 (※リンク先はOne Drive(Excel Online)です)

 当初、あ行のリストを作成する予定だったが、「あ」だけで作品数が100を超え、つまりは書籍数で数百のオーダーとなったので、まずは「あ」だけで納めることとした。リスト作成と可能な限り評価点をつけていきたい思いがあるので隔月掲載としたが、わ行到達はまず不可能だと思っている。2年から3年かければたぶん「さ行」あたりまでたどり着けると思うので、「た行」以降をだれか作ってくれないかなあ。

 リスト掲載の際には、いつも言っていることなのだが、僕としては完璧なリストではなく「全体が見渡せるいいかげんな雛型」を作るので、それを参照にして誰かにきちんとしたものを作ってもらえたらとてもうれしいのだ。それなのにこれまで誰も追随してくれない。今回のものなどおそろしく初歩的な表計算ソフトデータなのだから、誰でも簡単にコピーできるものである。
 とりあえず、小説作家別一覧(不完全)リストの(不完全)なる理由について説明する。

(不完全)①
 原則として、書籍化された作品で、ぼくが1冊以上入手している作家に限った。実際に書籍化されている作家を拾い上げる作業をすると、調査にかかる時間がそれなりに膨大になり、事前作業で心が折れることになるから。
 このあと入手した作家については、リストのさ行、「そ」にたどり着いた段階あたりで改訂版を提供する。
(不完全)②
 「なろう」ではない作品が相当数混入する。周辺領域がよくわからない。
その1:
 なろう系レーベルのなかには、ラノベ作家の書下ろしオリジナル作品が一定数含まれている。ある程度知名度のある作家の場合、まだ除外しやすいのだがなかには新人作家やゲーム系などのシナリオ準拠の作品も混じっている。
その2:
 もともとラノベ作家として活動実績のある人間が、なろうに主軸を移したり、並行して活動を続けているケース。森田季節とか三上康明とか柑橘ゆすらとか。どこまでがWEB小説でどこまでが書籍書下ろしであるかよくわからないし、そもそも作家一覧としたときにそれらの作品を削る理由があるのかどうか。(もちろん記載枠の制限上、WEB小説を優先するのは当然として)
その3:
 ヴォーカロイドの小説化。WEB文化圏ということでは含めるべきかもしれないけれど小説自体は書籍書下ろしだし。あと携帯小説についても、同じことが言えるけど、基本、一部を除いて本を所持していないということで削除することに。
その4:
 所持している本に追加する作業は基本的に「小説を読もう!」の小説検索を中心に探しているが、アカウント削除が予想以上に激しい。最近だと鬼ノ城ミヤというかなりの作品が書籍化されている作者が突然消えた。あとエブリスタやカクヨム、ノベルプラス、個人サイトなど探す場所がいろいろあって、正直追いきれない。エブリスタ系ってわりと読まず嫌いであるし。
その5:
 角川系を中心にWEBマガジンの展開が珍しくなくなってきて、編集者の依頼によって書かれた作品も多くなってきている。これを自発性のなろう小説とひとくくりにしていいのかどうか。よくないと思うのだが、参画しているなろう系作家もたくさんいる。
(不完全)③
 評点のいい加減さ。
 評価が、こちらの読む時期、書かれた時期で、DであったりFであったりぶれている。書かれた時期というのはまあいい。同じ内容を書いたものでも、はじめのころに試行錯誤創意工夫で書かれたものは、拙い場合もそれを見つけた充足感が漂って、のちに同じ設定をツールに使ってこぎれいに仕上げたものより読み応えのあることがあるから。問題は、こちらがどういう部分を気に入って、どういうところに腹を立てつつ読んでいたか、比重の置き方が時期によって違ってしまい、同じようなレベルの作品評価がDになったりFになったりしているはずであるところ。それでもさすがにA、B、Fについてはそう変わらないと思うのだが、C、D、Eはつけなおすとそれなりにぶれる気がする。あと、よくできた小説であると、文章や設定、作りこみに感心したのに書籍化以降話が中断しているものがそれなりにある。完結とは言わないまでも、最低ひとつの区切りまで仕上げてもらえない作品にはCより上の評価はあまりしたくない。『異自然世界の非常食』とかは稀有な例外といえる。
 一応、読んだ作家の5割くらいはDの評価に落とし込むのがバランス的に適当だと思う。

ということでの「あ」のリスト

評価A
赤野工作   『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』
評価B
青井硝子  『異自然世界の非常食』
麻美ヒナギ  『異邦人、ダンジョンに潜る』
あずみ圭 『月が導く異世界道中』
評価C
合田拍子 『豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい』
青山有 『救わなきゃダメですか?異世界』
赤木一広 『無双系女騎士なのでくっころは無い』
秋川滝美 『いい加減な夜食』
麻倉英理也 『小さな魔女と野良犬騎士』
アネコユサギ 『盾の勇者の成り上がり(外伝あり)』
甘岸久弥 『魔道具師ダリヤはうつむかない』
アマラ 『神様は異世界にお引越ししました』
亜鳴蝉 『スキルリッチ・ワールド・オンライン』

 ABC合わせて13人。お勧め人数としてはまずまず妥当なところだろう。冊数換算だとこれだけで100冊くらいになるのだが。うち8名については過去になんらかの言及がある。アマラは『猫と竜』がだれ気味なので、代表作をこちらに戻した。青山有、秋川滝美はコンスタントに中の上レベルで安定している。

 過去に言及のない作家の中で、知名度の高い人気作家は『月が導く異世界道中』のあずみ圭と『盾の勇者の成り上がり(外伝あり)』のアネコユサギ。いずれも召喚されて疎まれた勇者が逆境をはねのけ、成り上がっていく王道で、それぞれのレーベルの看板になっている。
 合田拍子『豚公爵に転生したから、今度は君に好きと言いたい』は、強制シナリオの存在する定番異世界転生もの。本書のような男の場合もあるけれど、ひっくるめて「悪役令嬢もの」と言ってしまおう。アニメやゲームでなじんだ異世界の脇役や悪役に転生し、よく知る破滅シナリオを回避し、幸せをつかもうとする話で、今回の「あ」のリストだけでも、『冒険者デビューには遅すぎる』『聖王国の笑わないヒロイン』『悪役令嬢は庶民に嫁ぎたい』など、それぞれねじくれた設定で楽しめるが、本書はむしろ正攻法で、最悪ポジションからの正面突破を図る清涼感が好ましい。
 赤木一広『無双系女騎士なのでくっころは無い』はこの題名から内容を想像できない脳筋バトル。3人対3000人での正面突破とか、派手な戦闘シーンを繰り広げながら成り上がっていく物語で、こちらも清涼感がある。WEB版は完結したことも高評価。
 行き当たりばったり出たとこ勝負の展開がむしろあたりまえのWEB小説のなかで、文章とか構成とか小説的な気配りを感じさせて評価したのが麻倉英理也『小さな魔女と野良犬騎士』。『聖王国の笑わないヒロイン』にも似たような評価を下したいのだが、進行があまりに遅い。

その他Dの評価の作家作品の中で、先に述べたように同じ作家の他の作品が評価の足を引っ張ったり、進行が遅滞中断しているせいで評価を下げているもの、楽しんでいるけど突き抜けた魅力に乏しいものなどに次のようなものがある。かなりのものをWEB版最終更新まで目を通しているので、一応軽いお勧め作品といえる。ものによってはWEBに続きを読みに行ってお怒りになっても知らない。
 『冒険者デビューには遅すぎる』『聖王国の笑わないヒロイン』『押しかけ犬耳奴隷が、ニートな大英雄のお世話をするようです』『異世界国家アルキマイラ』『世界最強の後衛』『いやいやチートとか勘弁してくださいね』『俺の家が魔力スポットだった件』『Only Sense Online』など。最初の二つは今回繰り返し言及してしまった感があるけど、偶然出会って特に強調しているわけではない。


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