2008年物故作家ブックガイドより−アーサー・C・クラーク

 大野万紀

 早川書房「SFが読みたい! 2009年版」掲載
 2009年2月15日発行


幼年期の終り
 オールタイムベストを選べば必ず上位に入る、クラークの最高傑作の一つである。宇宙における人類の進化を思索的に描き、様々なSF的テーマを網羅する、詩情に溢れた傑作だ。大都市上空に突然現れた巨大宇宙船。オーバーロードと呼ばれる異星人の管理の下、地球には平和が訪れた。だが、やがて人類の次なる進化が始まる。子供たちは変容を始め、我々には理解できないオーバーマインドと呼ばれる宇宙精神の一員へと変化していく。

2001年宇宙の旅
 スタンリー・キューブリックの映画の原作として書かれた作品ではあるが、クラークの傑作の一つとして、最も知名度の高い作品でもある。人類の誕生から月でのモノリスの発見、星々の世界からスターチャイルドの帰還へと至る、壮大で宇宙的なテーマを扱っているが、同時にディスカバリー号の土星への旅と人工知能ハルの反乱といった近未来の科学技術を描くハードSFでもある。クラークの科学技術への視点の確かさは驚くべきものだ。

3001年終局への旅
 『2001年』でハルにより宇宙空間へ放り出されたフランク・プールの死体が海王星軌道で発見される。回収され千年後の世界で蘇生した彼は、再び木星系へと旅立つ。エウロパへと一人向かう彼に、超生命体となったボーマンが話しかける。モノリスは、そしてその生みの親である超知性も、決して万能ではないのだと。本書で描かれるのは人類も超知性も、あるいは科学も魔法もさほど差のない、とても人間的なスケールの未来像である。

 2009年1月


トップページへ戻る 文書館へ戻る