海外書籍
 『星に向かって: ジョージ・タケイ自伝』

 書名:To the Stars: The Autobiography of George Takei
 著者:George Takei

 ISBN :0-671-89009-3
 出版社:Pocket Books
 価格:U$12.00
 出版年:1994


<内容>
「スタートレック」シリーズのヒカル・スールー役(日本で放映時の役名は"ミスター・カトー")で知られる日系人俳優ジョージ・タケイの自伝。

 ジョージ・タケイは日本の山梨で生まれてアメリカに移住した父親と、日系二世としてカリフォルニアの州都サクラメントで生まれた母親との間で、1937年4月20日にロサンゼルスで生まれる。(1940年生まれとするデータを見かけるが、1937年が正しい。自伝で明言しているし、収容所に入った時点で物心がついていたことを考えれば、その通りだろう。)弟と妹も生まれ、平和で多感な少年時代を過ごすが、1941年の日米開戦で突如暗雲に包まれる。彼とその家族は他の多くの日系人たちと共にいわれなき罪を米政府に着せられ、ロウアーの強制収容所へと送られるのだ。しかも彼の父親が合衆国への忠誠を拒否したため、家族は更にトゥールレイク収容所へと送られる。収容所での苦難の生活はまたタケイに忍耐と辛抱を教える。戦後、家族はロサンゼルスへと戻り、クリーニング業を手始めに商売にも成功する。ジョージはUCLAで建築を学ぶが、同時に俳優になりたいという夢を持つようになり、NYのアクターズ・スタジオで勉強する。(その前に彼は日本映画「空の大怪獣ラドン」の英語吹き替えで芸能界(?)デビューしている。)日系人故にまわってくる役柄は限られていたが、下積みを続けるタケイにやがて大きなチャンスがまわってくる。テレビのSFドラマのパイロットへの出演が決まったのだ。それが「スタートレック」だった。パイロットはシリーズとして製作されることになり、放映されてから全米で爆発的な人気を呼ぶ。ジョージ・タケイ演じるヒカル・スールーは、東洋的なストイシズムや武士道精神を持つキャラクターとしてシリーズを通じて人気を博する。TVシリーズの終了後も、「スタートレック」は映画が6本製作され、名実ともにジョージ・タケイは「米国で最も成功した日系人俳優」として、日系社会のみならず、全米で多くのファンの心をつかむことに成功する。現在、ジョージ・タケイはロサンゼルスにある全米日系人博物館で理事会の会長を務めている。博物館や日系人の関わる行事には必ず出席し、その誠実で真摯な人柄は多くの人に親しまれている。

 本書は、下積みから苦労を重ね、ついにハリウッドで成功した一人の俳優の記録であると同時に、異国の地で不断の努力を続けて成功を掴んだ一人の日系人と、そして日系人全体の苦難の歴史の記録でもある。「スタートレック」ファンのみならず、アメリカの日系人の歴史に興味のある人にもぜひともお薦めしたい一冊である。

 先般、アメリカン・シネマテークで「スタートレック2 カーンの逆襲」が上映された際、ニコラス・メイヤー監督や出演者のウォルター・ケーニッグらとともに、ジョージ・タケイもゲストとして参加した。ファンから最も大きな拍手やスタンディングオベーションを受けていたのがジョージであった。ちなみに本書によれば、「スタートレック2」にはジョージ・タケイがウィリアム・シャトナー演ずるカークから宇宙戦艦の艦長に任命される場面があったという。ここは実際に撮影もされたのだが、どうしたことかシャトナーは任命の演技中にタケイの方を見ようとせず、あまりいい場面にはならなかった。そのためかどうか、最終的にこの場面は映画からはカットされた。(シャトナーの曲者ぶりについては、本書では他にもいくつかの箇所で触れられている。シネマテークのインタビューでも、最後のスポックの葬送シーンでバルカン人の女性艦長が涙を流したところを撮影したところ、シャトナーが「バルカン人が泣くのはおかしい」と茶々を入れたためにカットされたとのエピソードが紹介された時には場内のあちこちで失笑がもれた。シャトナーのこうした性格はアメリカ人のファンには結構有名な話であるようだ。好意的に見れば、「スタートレック2」でのシャトナーの役どころは、名誉職に祭り上げられて、老境を意識し、現場を懐かしむカーク元艦長というものなので、この行動もカークが現役のスールーに嫉妬し、自らの立場を恨むという演技に基づいてかもしれないのだが…。)

 なおジョージ・タケイ本人の吹き込みによるダイジェスト版のオーディオテープ(2巻組)も別に発売されている。ジョージの渋い低音の声がまた魅力的である。

 ペーパーバックで406ページ。


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2002年8月20日作成