海外書籍
『俳優志願者のためのビジネス入門』

 書名:The Business of Acting
 著者:Brad Lemack

 ISBN :0-9715410-0-0
 出版社:Ingenuity Press USA
 価格:U$19.95
 出版年:2002


<内容>
ロサンゼルスのビバリーヒルズで俳優のためのマネージャーやPRを行う会社を経営する著者が、映画やTV、演劇の世界で俳優が仕事を手に入れてキャリアを築くために知っておく必要のある事柄を具体的かつ分かりやすく解説している。演劇論ではなく、エンタテーメント業界のビジネスの仕組みやマナーを、実際にマネージャーを行っている著者が書いているだけに、非常に具体的で面白く、そしてためになる内容である。エージェントとマネージャーの違いに始まり、キャスティング・ディレクターの仕事の内容、俳優組合に加盟することの長所と短所、正しい職歴書の書き方など、俳優志望の人はもちろん、米国のエンタテーメント産業に興味のある人は必読の本。全14章の内容は次の通り。

1.キャリアを築くために必要なスキル
俳優としてのキャリアを築く上で必要な4つのスキル「行動のスキル」「コミュニケーションのスキル」「自己学習のスキル」「認識のスキル」について。

2.演劇学校の学生からプロの俳優へ
学校を卒業して俳優としての道を歩み始めたばかりの初心者に対して、どのような心構えで臨むべきかを書いた章。成功は急には訪れないが、決して焦ることなく、生活費を稼ぐための仕事や俳優のレッスンなど、俳優になる上でポジティブな活動で生活を満たすべきと強調している。またキャリアとは常に改善中(work in progress)なのだと考え、現状にへこたれず、あきらめないことも大切。

3.ステップを一歩づつ
キャリア形成を行き当たりばったりに進めたり、無為に過ごすのでなく、具体的な行動計画を立てて、少しづつ目標に近づく必要性を強調。例として書かれているフェーズ1の行動計画では、まず目標を決め(「新しい顔写真を作る」「学生映画に出演する機会を求める」「職歴書を見直す」など)、4週間の中で各週ごとに行う事柄(例えば「第1週:友人の顔写真を見せてもらい、出来のいい写真の撮影業者とコンタクトする。知り合いの出演歴(レジュメ)を見せてもらい、参考にする」「第2週:番組のパイロット版への出演するための情報を集める。エージェントやマネージャーの情報を集める」「第3週:ターゲットを決めた人物に電話をかけ、出演歴の郵送を受けつけているか確認。郵送リストにスペルミスや誤りがないか再確認」「第4週:顔写真を郵送し、電話でフォローする」など)と毎週行うべきことを決めて(ヴァラエティ誌やハリウッドリポーター誌を読んで情報収集。学生映画などに応募する機会があれば応募するなど)、それらを着実に行う。計画を書くためのブランクページも用意され、そこに書き込めばいいだけになっている。

4.俳優エージェントについて
エージェントとマネージャーの違いについて。エージェントは契約した俳優への仕事の紹介に対してコミッションを得る存在で、どちらかといえばビジネスライク。多数のクライアントを抱えるため、本当に目が行き届いているのか、俳優としては不安になる。俳優保護のためにエージェントは法律で行動を規制されている。一方、マネージャーは少数の俳優と契約して(契約書を交わさない場合も多い)、そのキャリアを育てることを目的に、メンターとしてアドバイスを行ったりする。エージェントのような仕事の斡旋や交渉は(普通は)しない。有料レッスンを売り込む悪徳マネージャーもいるので注意。多くの人は、エージェントとマネージャーの両方と契約した方がいいと考えるが、必ずしも両方は必要ない。どちらを必要とするかはケース・バイ・ケース。

5.キャスティング・ディレクターの仕事
TVや映画の出演者を決めるキャスティング・ディレクターの仕事について。急に番組の予定が変わって、2日以内に出演者を決めなければならないようなケースは日常茶飯事。出演者が必要な場合、キャスティング・ディレクターは知り合いのエージェントに候補者を求めたり、オーディション情報をブレイクダウン・サービスと呼ばれるエージェントだけの有料ネットワークに載せたりする。オーディション情報を入手して申し込もうとする俳優もいるが、俳優が直接に職歴書を送っても通常は見てもらえない。またキャスティング・ディレクターとのオーディションにおけるマナーや心構え(挨拶は簡単に。余計なお世辞を言わない。待っている間にお喋りなどで他の人の邪魔をしない)なども書かれている。

6.顔写真の作り方
エージェントやキャスティング・ディレクターに自分を俳優として売込む上で、最良の武器である顔写真(ヘッドショット)の作り方について。顔写真のフォーマット(8×10インチ。通常は1枚だけ)。下手に飾ったりせず、俳優としてのありのままの自分が分かる顔写真が一番よい。知り合いの顔写真を見せてもらい、気に入った業者の連絡先を聞く。本書でもいくつかの業者が紹介されている。撮った写真は裏に出演歴を記入する。ネガは業者に保管してもらった方が適切に保管してもらえる。何人かの俳優(の卵も含む)の顔写真の例が載っており、参考になる。

7.出演歴や経歴書
出演歴(レジュメ)や経歴書(バイオ)の書き方。読みやすく分かりやすいものにするため、フォントの種類や大きさ、改行まで指定してくれている。業界の一般的な様式なので、これに従っていれば、プロである読み手にも読みやすい様式だ。書く内容は、本人の氏名、エージェント名、TV(出演歴)、映画、演劇、CM、演劇クラス、特技、学歴、身体的特徴など。各出演歴は、番組名と役の大きさ(主役、ゲスト、共演、助演)、局名だけ。また何を書くべきで、何を書かないべきか。25歳くらいまでなら、高校や大学での出演歴も入れてよい。逆に30歳を過ぎたら、それらは書かない。経歴書についても、様式と例文を載せ、注意事項が書かれている。

8.俳優組合
俳優の組合組織について。映画は、映画俳優組合(スクリーン・アクターズ・ギルド。一般にSAG)。TVやラジオは、全米TVラジオ芸術家連盟。演劇では、俳優公正協会。一般に多くの俳優は、組合加入に必要な条件を満たしたら組合に入るべきだと考えているが、駆け出しのうちは組合に入るメリットは少ない。例えば、SAGは加入だけで1300ドルかかり、毎年100ドルの支払が必要。SAGの健康保険に入るためには、毎年7500ドル以上の収入が必要だが、10万人の組合員のうちで7500ドル以上の収入があるのは25%だけである。その他の組合も同じような状況。また組合に入ったから、仕事をもらえるわけではない。始めは給与は安くても非組合の仕事(組合の条件を満たさないため、組合員はつくことができない)でキャリアを積んだ方がいい。

9.フィットネス
俳優としての仕事を続ける上で必要なフィットネスを「精神」「健康」「財政」の3点から書いたもの。「精神」の部では、とにかく焦らず、がっくりこないことを強調。オーディションに受からなかったのは、自分がだめだったからでなく、自分がその役にふさわしくなかっただけ。キャスティング・ディレクターは自分をだめな人間と思っているわけではなく、その仕事をしているだけ。結局のところ、オーディションは受かるか、受からないかのどちらかしかない。受からなかったから、だめというわけでは決してない。「健康」の部では、仕事をする上での肉体的な健康の大切さを強調。運動をしたり、医者に健康診断してもらうことを薦める。「財政」では、収支をよく把握し、日常の生活を財務的にマネジメントする大切さを強調。俳優に必要なものの多くは税金で控除可能(顔写真の郵送料、仕事絡みの長距離電話、レジュメの印刷費用など)なので、税理士と相談した方がいい。

10.俳優としての認識と行動
ある俳優志望者のエピソードを中心に、俳優として望ましい行動と考え方について。俳優クラスに遅刻してきた学生がいた。まず遅刻することは非常によくない。それから、その理由を学生に聞いた。彼は最近ロスに引っ越してきたばかりで、高速道路の渋滞のひどさを知らなかった。しかも彼は、高速道路で別の車の女性と路線をめぐって喧嘩していた。しばらくしてオーディションに行ったところ、たまたまキャスティング・ディレクターがこの時の女性で、当然ながら彼は仕事を得られなかった。あまり一般的なエピソードでなく、話もまとまっていない。しかし要はこの業界で働く人々も同じ人間であり、どこで誰と会うか分からないので、日頃の行動には気をつけるということ。また、エンタテーメント産業もビジネスには変わりはないので、きちんと時間は守ること。

11.俳優のためのPRとマーケティング
エージェントやキャスティング・ディレクターに手当たり次第に顔写真やレジュメを送っても、ほとんど役に立たない。まずターゲットを絞ること。そのエージェントが強い分野は何か(映画か、演劇か)、コンタクトできる人物はいないか。コンタクトについては、学校のOB名簿などが有望。著者自身もエージェントとして月に100通もの応募を志望者から届けられている。その中でどうすれば、エージェントに写真を見てもらい、好印象を受けることができるか。送るべきもの(はじめは裏にレジュメの書かれた顔写真だけ)、手紙の書き方(相手とのコネがあれば必ず書く。電話でフォローすることを書く)、電話でのフォロー(いかに秘書に好印象を与えるか。秘書はエージェントと会話する上での大きな関門である)など。またエージェントなどに自分の演技を見てもらう機会を逃さないために、演劇に出演する時などには、顔写真で作られた絵葉書(作り方は6章)で、その旨を関係者にPRする。

12.俳優としての心構え
「自分のキャリアはまだ発展中である」「目標を見失わない」「忍耐強くし、自分に自信を持つ」などの心構えを2ページで。

13.俳優としての倫理
「仲間の俳優を助け、その成功を喜ぶ」「自分が知らないこともあることを謙虚に認識する」「自分を安売りしない」などの倫理を2ページで。

14.ホームページ情報
俳優組合やエージェント、写真屋、映画や演劇の専門書店その他、本書で紹介された内容についての有力なコンタクト先のホームページ。

補足:著者略歴と連絡先。

以上、ペーパーバックで181ページ。


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2002年9月15日作成