週刊法律新聞 1983年(昭和53年)1月5日号より

「大麻に有害性ない」

第二東京弁護士会司法制度調査会

 第二東京弁護士会(戸田謙会長)の司法制度調査会(石川泰三委員長)では、十一月四日開かれた全体会で、「大麻取締法の見直しについて」と題する意見書を採択した。
 現行の大麻取締法では、知事の免許なしに大麻の栽培、所持、譲渡等はできず、また、厚生大臣の許可を受けなければ輸出入、医薬品としての施用等はできないことになっており、違反した場合、栽培・輸出入は七年以下の懲役、所持・譲り受け・譲渡・使用は五年以下の懲役に処される。
 意見書は、大麻には従来考えられていたような強い有害性はないと認識されるようになってきたとの観点から、刑事政策的に罰金刑の選択の余地を認めるべきだとしている。さらに、大麻の害についての未解明部分を科学的に調査する必要性を強調、大麻取締法改正の当否については、日弁連レベルの専門機関で検討すべきだとしている。
 意見書は次の通り。



  1.  大麻取締法(昭和二十三年制定)は、大麻草(いわゆる麻)とその製品について、知事の免許を受けなければ、栽培し、あるいは所持、譲り受け、譲渡、研究のための使用をしてはならず(三条)、厚生大臣の許可を受けなければ、輸出入、医薬品としての施用等をしてはならない(四条)と規制している。そして、これに違反した場合、栽培、輸出入は七年以下の懲役(二四条)、所持、譲り受け、譲渡、使用は五年以下の懲役(二四条の二)に処するものとしている。同法が大麻につきこのように規制しているのは、抽象的には国民の保健衛生のためということであり、具体的には麻の葉を乾燥させたものあるいは麻の樹脂から作ったもの(マリファナ、ハシシといわれる)を吸引すると、日常と違った感覚、陶酔状態になり、このような精神作用(この作用は麻に含まれるTHCという物質によるものといわれる)が、身体的あるいは社会的に有害であるからとされている。

  2.  これに対し、近時、右のような規制の合理性について疑問が呈されている。
     その第一は、大麻の有害性についてである。すなわち、大麻には向精神作用はあるがその強さはアルコールやタバコほどではなく、身体的に有害というほどのものではない。その使用は、個人の趣味、し好の問題どあり、これを処罰するのは不当であるとする。
     第二は、法定刑の過重な点についてである。すなわち、仮に大麻が無害でないとしても、その害は従来考えられていたほど強くないことは明らかどあるから、個人使用の所持に五年以下の懲役刑のみで処罰するのは重きに過ぎる。この点については、昭和二十三年の立法時には三年以下の懲役または三万円以下の罰金という比較的ゆるやかな罰則であったものが、昭和三十八年に現在のように五年以下の懲役のみに改正されたものであるが、その重罰化には何ら科学的根拠があったわけではなく、不当な改正であった。また事案によっては罰金刑をもって処断するだけで十分なことも多いにもかかわらず、懲役刑しか選択できないため仮に執行猶予がついても自動的に職を失うこともあり、刑事政策上も、選択刑として罰金刑を科することができるようにすべきであるとする。

  3.  別紙に挙げた資料を参照すると、右の疑問には相当の理由があると思われる。すなわち、大麻には従来考えられていたような強い有害性はないと認識されるようになってきており、少なくとも刑事政策的に罰金刑の選択の余地を認めるべきと思われる。かかる点から、大麻取締法を見直す必要があると考えられるが、大麻の害についてはなお未解明な点も多く、さらに科学的な調査が必要と思われる。同法の改正の当否については、日弁連レベルの専門機関で検討するのが相当であると思料する。

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