研究テーマ->調律の知識
  調律の知識について紹介します。 主にピアノの調律について紹介しています。(このページの内容は、一部、張能調律事務所からいただいた情報をもとに構成しています。)  
 
うなりの回数による調律
ギターをチューニングするとき、最近はヘッドに取り付けた小さなチューナーを見ながら一番上の弦から下に向かって1弦ずつ音をあわせていくという光景をよく見かけます。
ピアノにもピアノ調律用のチューナーがありますが、今のところ耳で聞くことによって調律している調律師が大部分です。
チューニングメーターが手に入らなかったころは、ギターも2本の弦を同時に鳴らして、そのうなりを聞いてあっているかどうか判断していました。つまり、1つ1つの弦の音を独立してあわせていくのではなく、2つの音の相対的な響きであわせていたのです。
 
うなりとは何か
うなりとは何でしょうか?うなりは、2つの音を出した場合に、振動数の違いによって生じます。ただし、音を2つ同時に出せば必ず、不快なうなりが発生するかというと、そうでもありません。たとえば、下のラの220Hzと上のラの440Hzのように整数倍の周波数をもつ音を同時に出しても、きれいに調和した音が聞こえるだけで、うなりは聞こえません。
うなりは、2つの音の周波数の直接的な違いによって生じるわけではありません。
これを説明するために、FとAの音について考えてみましょう。Fの音は、349.2Hz、Aの音は、440.0Hzです。音程は長3度で、振動数の比は4:5です。(4:5の計算だと、Fの音は、352Hzになるはずですが、平均律で定められた対数計算を行うと、349.2Hzになります。)
FとAの音、それぞれから倍音がでます。(倍音の説明は省略します。)
Fの2倍の振動数は、698.4、3倍の振動数は、1047.6、4倍の振動数は、1396.8、5倍の振動数は、1746です。(単なる掛け算です。)
Aの2倍の振動数は、880、3倍の振動数は、1320、4倍の振動数は、1760です。
振動数の比が、4:5なので、Fの5倍音とAの4倍音は一致するはずなのですが、1746と、1760とで微妙な差があります。
ちなみに、Fの音を、352Hzで計算すると、352×5=1760で、一致する値になります。このうなり無しの状態を純正といいます。(平均律ではなく、純正律であれば一致するわけです。)
また、Aの音を、436.5Hzに下げても、436.5×4=349.2×5=1746となり、うなり無しになります。
平均律では、Fの第5倍音とAの第4倍音の周波数にある、わずかな周波数の差が「うなり」として聞こえます。この場合のうなりの回数は、
1760-1746=14回です。
調律では、2つの音がある場合、高いほうの音を上げ下げすることによってうなりの調節を行います。(ちなみに、上の例で行うとすると、Fの音を上下させるのではなく、Aの音を上下させることになりますが、通常、Aは基準音とるすため、上げ下げの対象にしません。調律は、Aの上げ下げを行わなくても良いような順序で行います。)
FとAのように平均律の長3度からはじめた場合は、上の音を下げていくと、うなりがどんどん少なくなります。やがてうなりが無くなって、純正の3度になり、さらに下げ続けるとまたうなりが増えてきます。これは、2つの振動数の差がマイナスでも、その差分だけうなりが生じるためです。
 
うなりの回数による調律
平均律でピアノを調律した場合、特定の2音の間で、どのようなうなりが生じるかは、計算式で求めることができます。下記の表は理論上のうなりの数を示したものです。
ピアノの調律では、特定の2音の間でどのようなうなりが生じるべきかを覚えて、それを頼りにあわせていけば良いことになります。
しかし、話はそう単純ではなく、ピアノは個々の1音1音を計算上の値にして正しく調律しても、うなりが計算通りにならないという現象が発生します。
これは、インハーモニシティーと呼ばれるものの影響で、個々の楽器の形状が関係していています。このような状況では、個々の音の周波数を正しくあわせたつもりでも、和音で弾いたとき、曲として弾いたときに、全体の響きが美しくないということが生じます。
調律の発達していない国ではチューナで、単に個々の音をあわせていくということが今でも行われているようですが、日本をはじめ、欧米でも、「個々の音が計算式通りか」よりも、「弾いたときに全体として美しい響きになるか」に重点を置いた調律が行われます。このため、調律師には専門的な技術が必要とされるのです。個々の楽器の形状により、どのようなバランス(うなり回数)で調律するか、ということが変化してきます。
うなりは楽器が理論を再現するような完璧なものでも発生します。平均律自体がうなりを前提としているのですから、これはしょうがないことです。しかし 、実際の楽器では色々な要素がからみ、理論を完璧に再現することとは、ほど遠い状態になりますから、もっとうなりが発生します。この 色々な要素からくるうなりと、その不快感を最小限に抑えようとするのが、うなり回数による調律です。
 
49A= 440 Hzを基準とするインハーモニシティを考慮しない理論上のうなり数
長3度 調律うなり 完全4度 調律うなり 完全5度 調律うなり 長6度 調律うなり 8度/oct. 調律うなり 10度 調律うなり
C-E 5.19 C-F 0.59 C-G 0.44 C-A 5.94 C-C 0 C-E 5.19
C#-F 5.5 C#-F# 0.63 C#-G# 0.47 C#-A# 6.29 C#-C# 0 C#-F 5.5
D-F# 5.83 D-G 0.66 D-A 0.5 D-B 6.66 D-D 0 D-F# 5.83
D#-G 6.17 D#-G# 0.7 D#-A# 0.53 D#-C 7.06 D#-D# 0 D#-G 6.17
E-G# 6.54 E-A 0.74 E-B 0.56 E-C# 7.48 E-E 0 E-G# 6.54
F-A 6.93 F-A# 0.79 F-C 0.59 F-D 7.92 F-F 0 F-A 6.93
F#-A# 7.34 F#-B 0.84 F#-C# 0.63 F#-D# 8.39 F#-F# 0 F#-A# 7.34
G-B 7.78 G-C 0.89 G-D 0.66 G-E 8.89 G-G 0 G-B 7.78
G#-C 8.24 G#-C# 0.94 G#-D# 0.7 G#-F 9.42 G#-G# 0    
A-C# 8.73 A-D 0.99 A-E 0.74 A-F# 9.98 A-A 0    
A#-D 9.25 A#-D# 1.05 A#-F 0.79 A#-G 10.58 A#-A# 0    
B-D# 9.8 B-E 1.12 B-F# 0.84 B-G# 11.21 B-B 0    
C-E 10.38 C-F 1.18 C-G 0.89 C-A 11.87        
C#-F 11 C#-F# 1.25 C#-G# 0.94 C#-A# 12.58        
D-F# 11.65 D-G 1.33 D-A 0.99 D-B 13.33        
D#-G 12.35 D#-G# 1.41 D#-A# 1.05            
E-G# 13.08 E-A 1.49 E-B 1.12            
F-A 13.86 F-A# 1.58                
F#-A# 14.68 F#-B 1.67                
G-B 15.56                    
 
インハーモニシティを考慮した調律
インハーモニシティというのは、弦楽器特有の現象で、簡単に言うと、倍音が本来あるべき高さよりも、若干高くなってしまうという現象です。
太さや硬さがある弦は、空気のように自由に振動できないため、この倍音のずれが起きます。ずれの大きさは、同じ鍵盤楽器でもチェンバロのように弦が細く柔らかいものは小さく、ピアノのように弦が太く曲がりにくいものは大きくなります。
ピアノの調律を理論値どおりに行うことができないのは、このインハーモニシティのためです。たとえ正しい振動数にあわせてもうなりが計算通りにならない、滑らかに変化しないといったことが起きます。うなりが均一でないことは楽器全体の音の響きに影響するため、ピアノ調律の正しさは、単に音の振動数が物理的な計算値と一致しているということでは解決できないと考えられます。各音の振動数を単に平均律にあわせるのではなく、人の耳によってハーモニーを平均化していくことが本当の意味での平均律であると考えられますが、その辺りの実践は、それぞれの調律師の考え方や能力によって任されています。
 
49A= 440 Hzを基準とするインハーモニシティを加算したうなり
音名 インハーモニシティ  
28C 0.09
29C# 0.1
30D 0.11
31D# 0.12
32E 0.13
33F 0.14
34F# 0.15
35G 0.16
36G# 0.18
37A 0.19
38A# 0.21
39B 0.23
40C 0.25
41C# 0.27
42D 0.3
43D# 0.33
44E 0.36
45F 0.39
46F# 0.42
47G 0.46
48G# 0.5
49A 0.55
50A# 0.6
51B 0.65
長3度 調律うなり 完全4度 調律うなり 完全5度 調律うなり 長6度 調律うなり 8度/oct. 調律うなり 10度 調律うなり
C-E 5.12 C-F 0.52 C-G 0.5 C-A 5.7 C-C 0.04 C-E 4.79
C#-F 5.39 C#-F# 0.53 C#-G# 0.53 C#-A# 6.01 C#-C# 0.05 C#-F 5.01
D-F# 5.67 D-G 0.54 D-A 0.58 D-B 6.33 D-D 0.06 D-F# 5.25
D#-G 5.97 D#-G# 0.57 D#-A# 0.62 D#-C 6.67 D#-D# 0.06 D#-G 5.5
E-G# 6.35 E-A 0.58 E-B 0.66 E-C# 7.03 E-E 0.07 E-G# 5.77
F-A 6.68 F-A# 0.62 F-C 0.7 F-D 7.45 F-F 0.08 F-A 6.07
F#-A# 7.11 F#-B 0.66 F#-C# 0.75 F#-D# 7.89 F#-F# 0.1 F#-A# 6.39
G-B 7.57 G-C 0.71 G-D 0.79 G-E 8.37 G-G 0.11 G-B 6.72
G#-C 7.92 G#-C# 0.68 G#-D# 0.87 G#-F 8.72 G#-G# 0.13    
A-C# 8.43 A-D 0.77 A-E 0.91 A-F# 9.24 A-A 0.14    
A#-D 8.91 A#-D# 0.78 A#-F 1 A#-G 9.68 A#-A# 0.17    
B-D# 9.42 B-E 0.79 B-F# 1.08 B-G# 10.15 B-B 0.2    
C-E 9.96 C-F 0.8 C-G 1.17 C-A 10.69        
C#-F 10.53 C#-F# 0.81 C#-G# 1.26 C#-A# 11.27        
D-F# 10.93 D-G 0.77 D-A 1.38 D-B 11.67        
D#-G 11.48 D#-G# 0.73 D#-A# 1.51            
E-G# 12.05 E-A 0.73 E-B 1.65            
F-A 12.8 F-A# 0.74                
F#-A# 13.6 F#-B 0.74                
G-B 14.18                    
うなりの数え方
メトロノームを 60BPM に合わせて鳴らし、「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」 の最初の 「だ」 の音がメトロノームの1秒を刻む 「カチッ、カチッ、・・・」 という音と一致するように訓練します。これで1秒間に10回が数えることができます。慣れてきたら 「だるまさんが・・・」 を 「タタタタタタ・・・」 と、「タ」音で言えるようにします。6回なら「だるまさんが、だるまさんが、・・・」でもいいし、「たかだのばば、たかだのばば、・・・」など適当に言葉を選んで数えられます。(これば米国でも、例えば5回の場合 「Chi−ca−go to New−York」 とか数えるようです。)