能 鉄輪
(かなわ)<四番目物>
♪日時:2000.10.28(sat) 16:00 - NHK教育放送(佐賀県鎮西町の名護屋城跡本丸での薪能より)
♪出演者:
前シテ(女)、後シテ(女の生き霊):大槻文蔵
ワキ(安部晴明(あべのせいめい)):宝生欣哉
ワキツレ(男(女の夫):坂笛融
アイ(社人):丸石やすし
笛、小鼓、大鼓、太鼓:各1
地謡:8名
♪物語の舞台:
前半:山城・貴船宮、後半:京・安部晴明宅
♪内容:
城址の野外、特設の舞台での公演を収録。
名護屋城は豊臣秀吉が朝鮮出兵の際、この地に大坂城にも匹敵する規模で築いた城郭。
屋根のない舞台が設置された本丸からは海が見えるが、おりからの台風の接近のため風がキツイ。まだ明るさが残る夕刻、舞台は始まった。
前半:
貴船の宮の社人(アイ)が登場。何やら語って、一旦下がる。そこに青い笠を被って前シテが登場(女の面。老けたような表情に見える)。先ずは橋掛りの途中で思いを語ると、舞台に進む。どうやら自分を捨てた夫への恨みから、夫を呪い殺そうと宮へ丑の刻参りに来たらしい。シテの謡が終わると、そこへ社人が進み出て話掛ける。火を灯した鉄輪を頭に被り、顔に丹(に)を塗り、赤い着物を着て、怒る心を持つことで願いが叶うという神託を彼女に告げる。彼が「只退け、只退け」と声を掛けながら奥へ下がると、シテの短い舞い。シテが下がり、後半へ。
後半:
夫が登場。橋掛りの上で、後から登場する安部晴明に夜毎の夢見が悪いと相談を持ち掛ける。どうやら妻の呪いが効果を見せているようである。晴明(神主の装束)は夫の命が危ないとみて、その呪いを人形に転じるように祈ろうとする。
舞台中央に一畳台が運ばれ、その前に祈祷棚が置かれる。棚には五色の幣が飾り付けられ、男女を模した烏帽子と鬘(かつら、女髪)が置かれている。晴明は台の上に座り、幣(*神社で神主が祝詞をあげるときに手に持つやつ)を手に祈りを捧げる。祈祷が終わり、台から下りると、後シテが登場(怨霊の面。般若ほどではないが恐ろしげな形相)。唐織りの衣を両肩から下ろし、腰まで肌けて、上半身は赤い衣だけ。頭には火を灯した鉄輪を被る。それは前半の女が生き霊と化した姿であった。橋掛りで、そして一畳台の上で、夫への恨み、ツラミを込めた謡を謡い、更に台を下りて激しく舞う。彼女の激しい思いを止めようとして現れたか、神々の存在に気付いた彼女は時節を待つべきと思い、その場を去る。
♪感想:一度ビデオを見た後、ガイドブックを読むまでは、話の筋がよく理解できなかった。全ての謡や語りに字幕が出ているにも関わらずである。理解力が足りないと恥ずかしい限り。再度見直してみた。女性の嫉妬に狂う姿を表現した、なんとも恐ろしいお話であった。
この公演の内容に合わせたわけではないだろうが、台風による強風が一層、シテの感情の激しさを盛り上げているようでもあった。舞台背後の大木の葉や薪の火が風で大きく揺れていた。風の音がマイクに入るのが玉に傷といったところ(どうも気になる)。
♪参考資料:
「能楽ハンドブック」
戸井田道三・監修、小林保治・編(\1,500 三省堂)
更新日: 00/10/30
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