映画 八甲田山  

ビデオ(完全版、171分)(1977年 東宝作品)
キーワード:新田次郎八甲田山、高倉健、北大路欣也日露戦争雪中行軍、遭難

はじめに:
  先に読んだ新田次郎(浅田次郎ではない)の「八甲田山死の彷徨」がきっかけで、昔TVで見たこの映画を再び見たくなり、ここ数年足を運んでいなかったレンタルビデオ屋へ借りに行ってしまった。もちろん子供の頃見た記憶では、士官が雪の八甲田山中で凍死寸前の部下に「眠るな、眠ったら死ぬぞ」と言う場面が強烈に残るだけで、時代背景とか雪中行軍の目的すら理解していなかった。

内容と感想:
 出演者も豪華な顔ぶれで、主役級の俳優がたくさん出ている。製作者・配給サイド(東宝)の力の入れ方も相当のものだったのだろう(配役などは、「日本映画データベース」が詳しい)。原作が刊行されたのが1971年9月だから、きっと当時は相当な話題になったのだろう。すぐにこれを映画化しようということになったのだと想像する。
 主役の徳島大尉が高倉健、神田大尉が北大路欣也。二人とも若い。
 迫力あるメインの雪中行軍だけでなく、日露戦争を目前に控えた明治35年という時代の雰囲気、日本陸軍や東北地方の農村の様子も再現され、映像的にも面白い。
 演出のためか原作と異なる場面がある。徳島大尉が遭難死した神田大尉の遺骸を山中で見付けたはずが、下山後の田茂野木村には棺に納められた神田の遺骸と、喪服で付き添う未亡人(栗原小巻)がいた。また、原作では5聯隊の救援部隊の将校が徳島に、山中で何か見なかったと聞く場面。何も見なかったと嘘をつくのが原作であるが、映画では嘘は言っていない。
 ともかく雪中行軍の撮影は大変だったろうと想像する。総勢210名の青森第5聯隊の行進も相当なものだが、吹雪の中の撮影は出演者も相当の覚悟であったろう。雪崩や滑落シーンもある。
 原作ではよく分からなかった装備についても映像として目にすることが出来る。威勢の良い軍歌”雪の進軍”も聞ける。映画ならではである。
 ほぼ全編にわたり雪の銀世界だが時折、織り交ぜられる四季の十和田湖や八甲田山の明るい映像が対称的だ。
 吹雪に突っ込んで次第に衣服が氷雪に覆われていくのは、実に寒々しく悲惨である。悲劇ではあるが喜劇的にも移る。なんでこんな馬鹿なことをしたものかと考えてしまうが、目の前に戦争を控えた陸軍上層部の意志を反映しての行動らしい。
 私は雪国生まれであるが、雪の中を通学するくらいで、この映画のような悲惨な目に遭うようなことは勿論ない。冬の白馬のスキー場のバイトでは吹雪でもどんな天候の日でも出勤したが、限られた空間であったから大したことはなかった。
 やはり経験してみなければ理解できないといったところか。映画としてたとえリアルに再現したとしても、この映画より実際はもっと悲惨と考えるべきだろう。
 また、寒さと疲労で気が触れ、奇妙な行動に出て死んでいく兵隊達は我々には滑稽に写るかも知れないが、実際そうらしい。五感が次第に麻痺し、平時はマトモな人間でも思考がおかしくなるのだ。
遭難しなかった徳島率いる弘前第31聯隊が、案内人の村の若い嫁(秋吉久美子)を敬礼して見送るシーンは、次々に倒れていく5聯隊の兵隊達の悲惨な映像の連続の中では(まるでゾンビの行進だ)、何かホッするような場面。健さんも決まってます。
 興行的に成功したかどうか知らないが、かなり気合の入った作品である。


参考: TSUTAYAより

更新日: 00/09/16