映画Ryan's
daughter
♪レンタルビデオ:1970年 英国作品、邦題「ライアンの娘」
♪監督:デビッド・リーン
♪ロケ地:ケリー州 Dingle半島
♪キーワード:アイルランド、英国軍、少佐、教師、祖国解放、不倫
♪内容:
20世紀初頭、アイルランドの海辺の村。バーの店主トーマス・ライアンは目に入れても痛くない一人娘ロージーを(プリンセスと呼んでいる)、不満ながらも村の学校の中年教師チャールズと結婚させることになる。チャールズは早くに妻を亡くし、独りヤモメであったがロージー自らのアプローチもあって結婚を決意。結婚式で村人らに祝福を受け、新婚生活が始まる。しかし、やはり年齢の差もあってか、ロージーは何かしっくりと来ない夫婦生活に時々苛立つ。
村にはイギリス軍守備隊の駐屯地があり、アイルランド人たちに睨みを効かせている。イギリス支配下にある村人から見れば、英国兵士たちは鼻持ちならない連中なのだ。貧乏な村は若者達が仕事もなく、毎日ふらふらしている。
ある日、その駐屯地へ若き少佐ドリアンが赴任してくる。彼は第一次大戦の前線で脚を負傷し、その療養も兼ねていた。彼の出現でチャールズとロージーに転機が訪れる。
ある日、ロージーが父の店の番をしていると、ドリアンが店に入ってくる。彼は酒を飲んでいると、ふとしたことがきっかけで戦場を思い出し、突然パニックに襲われる。戦争で彼は心にも傷を負っていたのだ。それを介抱したことがきっかけで二人の仲が急速に接近。しばしば夫の目を盗んで逢引きするようになる。
二人の仲は狭い村のこと、たちまち噂になり、村人は次第にロージーに冷たく当たるようになる。夫チャールズもうすうす勘付いていたが、あえて責めるようなことはなかった。
そんな村に、祖国アイルランドを英国支配から解放するための組織が密かにやってくる。リーダーのオリアリーは組織とつながりのあるトーマスとしばしば接触。
ある嵐の夜、オリアリーらがトーマスを訪ねる。組織が船から流したドイツ製の武器弾薬が海岸に流され着いたのを回収するためだ。これには村人が総出で協力。激しく波が押し寄せる海岸で必死で荷を引き揚げる。オリアリーらは村人から見ればヒーローなのだ。随分、遅れてチャールズやロージーも浜へ。荷を車に積み込み、揚々と村に車を進めると、既に英国軍に動きが知れていて、彼らを待ち構えていた。逃げようとするオリアリーをドリアンが狙撃。その最中、ドリアンはまたしても戦場を思い出し、大勢の村人や部下たちの前で様子がおかしくなる。心配して思わずドリアンに駆け寄るロージー。それを村人が冷やかす。せっかく村人が引き揚げた荷も英国軍に接収されてしまい、ドリアンらも囚われの身に。
一方、家に戻ったチャールズは妻に、ついにドリアンとの関係について問い質す。その夜、妻がベッドからこっそり抜け出し、ドリアンに会いに行くのを見てしまったチャールズは落胆し、独り裸足で家出。妻が家に戻ると、夫の姿がない。
翌朝、海岸に一人でいる彼にコリンズ神父が衣服を届ける。渋々、帰宅したチャールズは妻に別れを切り出す。その最中に突然、村人が大勢で押し掛ける。オリアリーらの件で英国軍に密告をしたのはロージーに違いないと決め付けてやって来たのだ。父トーマスはただ、それを見ているだけで何もできない。実はトーマスが守備隊へ電話したのだ。たちまち村人達に囲まれ、ロージーは頭を虎刈りにされてしまう。
その夕方、浜で爆音がする。ドリアンが自殺したのだ。精神薄弱の青年マイケルが隠していた弾薬を、ドリアンが知り、それで自ら命を絶ったらしい。彼も悩んでいたのだ(マイケルは口を利けないが、各処でキーとなる人物だ)。
もう村には居られないと判断して、チャールズらは村を出る決心をする。村人たちの冷たい視線を受けながら、村を去っていく二人。チャールズは見送る神父に「別れるのか?」と聞かれる。二人がバスに揺られて村を離れるシーンで幕。
♪感想:
年の離れた中年教師に恋心を抱いていた若い娘ロージーが、自ら望んで結婚しておきながら、突然彼女の前に現れた陰のある青年将校に心を奪われ、浮気が始まってしまう。それを黙って見過ごす夫。祖国解放組織が絡んで、彼女は魔女狩りの対象のような立場に追い詰められていく。
ビデオカセット2本、194分という大作。アイルランドの海岸地方の美しくも厳しい自然と村が舞台。
そもそも、この映画を見たくなったきっかけは競馬。先のダービー開催の東京競馬場で配布されていた小冊子に、高橋源一郎がこの映画と同名の短編「ライアンの娘」を書いていたのだ。小説の内容は直接この映画とは関係はないが、この映画を小道具に使っている。今流行りのメル友で知り合った小説家とOLが主人公で、それぞれのアドレス名に”田舎教師”と”ライアンの娘”を使っている。この映画の内容にも少し触れられている。この短編は競馬を題材にした恋愛小説に仕立てられているが、これを読んでその短編小説より、急に映画のほうが見たくなったわけだ。舞台がアイルランドということもあり、その舞台を見てみたいというのもあった。
映画には馬も登場する。ロージーが少佐と密会をするのにも父からプレゼントされた馬で出掛けていく。
見終わって、なんともやり切れない気分になってしまった。悲劇とは言えないが勿論、喜劇でもなく、ハッピーエンドでは終わらない。せめてもの救いは村の唯一の精神的支柱である神父が、チャールズら二人を見送った後で言う言葉「I
don't know(何も分からん)」だ。突き放したようで、優しさも込められている。なんとかなるさ、神の御加護があるさ、全てなすがままに身を任せろと言っているようでもある。
恐ろしいのはロージーを密告の犯人に仕立て上げ、集団リンチに近い行動に突き動かした村人の集団心理である。長く英国の圧制に苦しみ、貧しく、しかも希望であった祖国解放の戦士を武器弾薬もろとも敵の手に落ちてしまったのだから仕方もない。
それにしても何故、トーマスは密告してしまったのだろう。
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更新日: 01/06/01
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