渇水龍女    〜かすいりゅうにょ  

日時:2003.09.28(sun) 15:00 - NHK教育放送
収録:2003.03.15 京都府立 府民ホールアルティ
原作:「河水(かすい)」 演出:大槻文蔵(能楽師)、復曲・改訂:堂本正樹
出演者:
龍女:観世銕之丞
王子、のちの龍王:片山清司
帝王:片山九郎右衛門
仙人:茂山七五三
太鼓の精:観世淳夫
その他:
 敵将・陳恵孜、鯛の精、鱗の精、童、童女、廷臣ら多数
笛、小鼓、大鼓、太鼓:各1
地謡:6名


あらすじ:
 (1)舞台は古代の中国。長く雨が降らず、地は乾き、民は渇水に苦しんでいた。
(舞台右手に座す囃子方の囃子に合わせて)仙人が登場(杖を手にする。頭には赤く平らな大きな帽子)。帝に命じられて、川の源へ向かうと語る。(舞台左手の床には水がなく、渇いた水底をイメージさせるペイント)川の源に着いた仙人は、雨後でもないのに、虹が立つのを目にする。(干上がった川底にスポットライトが当たると)銀色の衣(龍の鱗をイメージ)を頭から顔を隠すように被り、龍女が登場。帝の第三の王子に恋をしたと言う。水を止めたのは自分であり、もし王子を自分に給わるなら、雨を降らせ、国を守ろうと語る。衣を下ろして羽織ると素顔が現われる(女の面)。虹が消えると、龍女は姿を消す。これを知らせるため仙人は王宮へ戻る。

(2)帝、王子らが登場。そこへ仙人が戻って報告する。それを聞いた王子は万民のためだと、龍女のもとへ行くと決心する。帝から宝剣、仙人から巻物をもらい、馬を走らせ川の源へ向かう。龍女が再び姿を現すと、被っていた衣を振り捨て、両手を大きく煽ぐ。すると忽ち雨が降り注ぎ、地を潤していく。王子は龍女に手を引かれて、水が満ちた川底へ消えていく。それを見届ける仙人。

(3)帝が(衣装を替えて)童らを従えて登場、椅子に腰掛ける。すると下手から鯛の精ら(各々が頭に魚を象った飾りを付ける)が巨大な太鼓(「波の太鼓」)を引いて登場。竜宮から引いてきたらしい。(舞台が少しずつ上昇していき、太鼓が舞台中央の奥へ移動される)鯛の精ら5名は酒宴に招かれ、仙人から酒を振舞われる。鯛の精は「目出鯛は」と洒落て見せ、舞う。数多くの魚の名前が歌の中に出てくる。舞い終わって暇乞いする精らを押しとどめて、帝が自ら舞う。すると突然、「波の太鼓」が自ら鳴動し、驚いた鯛の精らは退散する。

(4)敵将・陳恵孜が家臣4名を従えて登場。王宮へ攻め入る。剣や鉾を手に、攻め手と守り手の立ち合いが始まる。ついに帝一人となり、陳が帝を斬ろうとしたそのとき、龍女、龍王が登場(龍女は前とは異なる衣装、面も違う。龍王の方は若い男の面。2人とも頭上に龍を象った飾りを付ける)。龍王は姿を替えた、かつての王子であった。不思議と攻め手は身動きできなくなる。突然、「波の太鼓」から子供の声がすると、これが二つに割れ、中から太鼓の精が登場(演者はまだ子供)。太鼓のバチを手に敵を追い払うと、取り残された陳は龍女、龍王に攻められて切り伏せられる。再び国に平和が戻った瞬間であった。

感想:
 通常の能とは違い、多くの出演者が登場する一大スペクタクル。冒頭で演出の大槻氏が語るように、原作は能舞台を意識しない作りになっているようで、本演目も舞台に捉われない、現代的な演出で演じられた。それでいて決して伝統は失われていない。
 仙人は狂言方の茂山氏であるが、ほぼ全般に登場し、陰の主役的存在。仙人が帝の命令で動くかどうかは疑問だが、竜宮は川にあるのか海にあるのか(鯛の精が来るのを見ると海か?)、太鼓の精とはどういう位置付けなのか、ストーリーに対する疑問は残る。
 龍女が前半と後半で姿を替えたのは、前半は人間に恋する様子を人間らしく見せるためだったのか?後半は国の守り神としての別格の存在として見せたかったのだろう。

参考資料:
「能楽ハンドブック」 戸井田道三・監修、小林保治・編(\1,500 三省堂)

更新日: 03/10/18