鉄輪    〜かなわ <四番目物 〜 観世流>  

日時:2003.5.25(sun) 15:00 - NHK教育放送(国立能楽堂)
出演者:
橋岡久馬:前シテ・女(妻)、後シテ・女の生霊
宝生閑:安倍晴明
高井松男:ワキツレ・男(夫)
野村萬斎:アイ・社人(神職)
笛、小鼓、大鼓、太鼓:各1
地謡:8名


内容:
  夫が他に女をつくり、自分を離縁しようとしていることを知った妻が、恨みを抱いて貴船明神に丑の刻参りをしていた。その生霊と化した女と陰陽師・安倍晴明との戦い。

<前場>
 烏帽子姿のアイが登場(バラエティ番組なら黄色い声が上がるところだが、能楽堂だから静寂)。丑の刻参りをする女に対する神の託宣を受けたと語る。舞台右手に座すと、しばし囃子方の演奏(演奏者は比較的若手に見える)。黒い編み笠を被った前シテが登場(ちょっと前屈み気味。失礼だがなんとなく危なっかしい)。橋掛りの途中で、夫への恨みを語る(が、囃子方の掛け声の方が大きいせいか聞きづらい)。舞台に進み出ると笠を脱ぎ、中央に座す(面の表情が明らかになる。やや年増の女か?)。そこへアイが立ち上がって言う。望みを叶えたければ火を灯した鉄輪を頭上に戴き、顔に丹を塗り、赤い衣を着て、強く願うことだと(神に仕えるものが、他人を呪い殺すのを幇助してよいのか?)。女は「それは自分ではない、人違いだろう」と言うが、自分が一番分かっている。アイは「恐ろしや」を繰り返して退場。次第に囃子が激しくなる。女が退場しようとする。一旦、橋掛りの途中で立ち止まり、客席に向かう。何か言うのかと思いきや、そのまま退場。

<後場>
 夫が登場。夢見が悪いので安倍晴明に相談にやってきた。舞台手前まで進むと、揚幕の前に安倍晴明が登場。橋掛りを挟んで両者向き合う。夫が妻から恨みを買っていることを言い当てる晴明。二人は互いに進み、交差すると夫はそのまま退場。晴明は舞台へ。
 舞台中央に一畳台が置かれ、その手前に作り物の祈祷棚が用意される。棚には夫と新しい女に見立てた烏帽子と鬘が置かれる。台の上で晴明は幣を手に祝詞を上げ、祈祷する。テンポの速い曲が囃される。晴明は台を下り、座す。しばし囃子が続く。
 後シテ登場。前場でアイが女に伝えた通りの姿で現れる(面は般若ほど恐ろしげではないが、見る角度によっては鬼女にも見える。アップになると悲しげにも見える。どうやら蝋燭に火を灯して頭に着けているように見えたのが”鉄輪”らしい)。生霊は「恨めしや」と夫への恨みを繰り返す。手にした棒で、祈祷棚の新しい女に見立てた鬘の髪を打ち据える。地謡が「三十番神が現れた」と謡う。神々は舞台に姿こそ表さないが、生霊を攻め立て、徐々に力を奪っていく。生霊は「時節を待つべし」と言って逃げるように(橋掛りへ)去っていく。途中でなんとも悔しそうに足を踏む(まさに地団駄を踏んでいる。不思議と面の表情にも無念さが浮かんでいる!)。そして退場。

感想:
 丑の刻参りをする女に、彼女の願いを叶える方法を社人を介して伝えたのも神ならば(貴船明神)、生霊と化して安倍晴明宅に現れた彼女の霊力を減じて退散させるのも神である。一体どうなっているのだろうか?神様も気まぐれである。

参考資料:
「能楽ハンドブック」 戸井田道三・監修、小林保治・編(\1,500 三省堂)

更新日: 03/05/29