読書メモ

・「負けない技術 〜20年間無敗、伝説の雀鬼の「逆境突破力」
(桜井 章一:著、講談社+α新書 \838) : 2010.11.07

内容と感想:
 
自然界にいる動植物には人間のような「勝ちたい」(儲けたい)という思考は存在しないという。 彼らは「本能で生きる」。そこには「負けない」という普遍のスタンスがあるだけ。弱肉強食の世界ならなおさらだ。生きるための知恵なのだ。 人間が「負けない」力をつけるには彼らのように「変化に対する動きと感性を磨くこと」が必要だという。
 著者はサブタイトルにもあるように、「雀鬼」の異名をとる、麻雀を知る者にとっては伝説的な人物である。 本書はタイトルが示すように「勝つ」技術ではなく、「負けない」ための考え方を説いたものである。 20年間無敗という脅威の勝負師が語る勝負論、勝負哲学、勝負感。 そこには麻雀やスポーツなど勝負ごとだけでなく、ビジネス等にも通ずるものを感じ取ることができるだろう。
 「はじめに」にある、「勝ちだけを求めていては本当の強さを獲得することはできない」という言葉は深い。 似たような表現では、「勝ち=豊かではなく、勝ち=強さでもない」とも述べている。
 本書は実に哲学的な言葉に溢れている。例えば「勝ちたい」という欲を捨て去れ、などと言うのは宗教的ですらある。 一つの道を究めた人ならではの言葉ばかりで、きっと著者は悟りを得たに違いないと私は思う。 しかし「おわりに」では、それを否定するように「究めたという感覚がまったくない」と語っている。 それでも著者は「麻雀からいろいろなことを学んできた」。その一端を本書で明かしていただいたことは非常にありがたい。
 本書をビジネスの視点から見れば、リスク管理にも活かせる内容である。 勘違いしてはいけないのは「負けない」のは「守りに入る」とは違うということ。そこには消極的なニュアンスは無い。

○印象的な言葉
・「オギャー」という産声。不安の表れ。最初の感情が不安。人は不安を取り除くために確証を求める。認められたい、褒められたい。多種多様な勝負で勝利することで束の間の安心を得る。
・衣食住:衣は着飾ることにつながり、名誉や権力という欲にも結び付いていく
・「負けない」には納得感がある
・「負けたら終わり」なら必要以上の争いはしないこと
・「勝ちたい」という欲を捨て去り、心身から不要な力みを消す
・「いい勝負」をさせてもらったと感謝。相手を認め尊敬する。相手の喜びを自分の喜びにする。勝負できることに感謝
・起きたことを全て受け入れ、楽しむ
・喜びばかり追いかけていると、その裏にある悲しみに気付かなくなる
・本当に負けてはいけないのは相手でなく己。自分をごまかさない。自分の中の敵と戦い、己の一部分を理解できた者は相手のことも理解できるようになる
・満足してしまうと、そこから変化できなくなる
・必要なことだけをやる。必要と不必要は循環する。必要なもの(チャンス)が巡ってきた時は、そのままそれを生かせばいい。来ないときはじっと待つ。
・知識やテクニックを捨てる。自分を捨てる。悪いものを捨てていく
・本能で感じ、判断していく。感ずるままに生きる
・「ながら感覚」が集中力を生む
・ビギナーズラック。物事が分かってくると、だんだん難しく考えるようになる。迷いが生じる。余計な思考が混じればスピードが損なわれる。無駄な動きになる
・普段からチャンスに追いつけるように脚力、瞬発力を磨いておく
・「負けない」人はその欠点が相手に知られたとしても、その弱いところで戦えるほどの強さをもっている
・軸が立った状態で力を抜く
・生きることは変化すること
・考えすぎる世の中は病を増やす
・気付くことが出来るようになると、元気や勇気など様々な「気」を自分の中に持つようになる。多彩な気をもつ人は気遣いができる人間になる
・この世に確証などどこにも存在しない。利口な人は物事を確証に結び付ける理由付けがうまい。確証を求めるのは根源的な弱さからくる。 人生では確かだと思っていたことにことごとく裏切られるもの。
・褒め殺し社会から落ちこぼれた子供が褒められることを求める一方で、人の悪口を言っている。文句を言う
・不得意を克服しようとするのは「負けない」という本能に近い。そのほうが自分の間口が広がる。克服するには工夫が必要となる。その工夫が得意なことを更に伸ばすこともある。
・不得意へ踏み込んでいったほうが道は開ける
・怒りは冷静さを奪い、目の前のことしか見えなくさせてしまう
・悪いものや駄目なものを単純にマイナスとして排除する風潮の危うさ。それらの中に自分を強くしてくれるものがある
・勝負所はピンチの中のピンチ、圧倒的に不利な状況にこそ訪れる。ピンチに臆することなく前へ進む。それをしのいだときの達成感。相手が勝負をかけてきたときが勝負所。
・ミスをなるべく小さくするよう努める
・リスクを取りに行く。リスクを楽しもうとすると潜在能力が引き出される
・まだもっとよくなるかもしれないと考え続ける。もうひと踏ん張りが大切
・守りの姿勢とは既に逃げている状態。守りに入ると、狙われる、追われるという気持ちになる
・攻撃に対して柔らかく、かつ厳しく対応することが「受け」の基本。相手の攻める力を削ぎ、次に自分が攻めやすくする
・苦しいとだけ思っていたら、そこで負け
・体構えがしっかりしていれば、心の構えもしっかりしてくる。動きを柔らかくすれば思考も柔らかくなる
・準備・実行・後始末を当たり前にこなす
・敵を仲間と考える。仲間のためにいい勝負をしよう。
・戦争という行為そのものが既に負け。戦争での勝利など人類全体としては負けでしかない。犠牲者と同じ数の妬みや恨みが生まれる
・「与える」と「もらう」をバランスよく循環させることが自然界のサイクル
・決断に時間をかけると邪念が入る。決断は早く。普段から早く決断する経験を積み重ねる。考えずに感じることが速さを生む。耳を澄ませるようにして感じる
・勝負は相手がいて初めて成立する。いい勝負をするにはお互いが尊重し合い、調和しなければならない
・「なんで駄目なんだろう?」から学んだほうが気付きやすい
・下の者(敗者)から学ぶ

<その他>
・麻雀の名勝負のビデオがあれば見てみたい

-目次-
第1章 「負けない」は「勝つ」より難しい
 「負けない」と「勝つ」は異なる
 「勝ちたい」欲は厚化粧と同じ ほか
第2章 「負けない」ための技術
 二兎どころか百兎を追え
 スルーする感覚で強くなる ほか
第3章 強くなるには、どうすればいいか?
 「答え」を求めない強さを持つ
 確かなものはなにもないと思え ほか
第4章 逆境を突破する力
 「チャンス」と「勝負所」は別物
 勝負所の力を磨く方法 ほか
第5章 人はだれしも無敗になれる
 たどり着いた「敵も味方」の境地
 「結果がすべて」は敗者の論理 ほか