読書メモ

・「愚直の信念 〜われ、身を賭して、国民に政治を奪還する
(江田 憲司:著、PHP研究所 \1,100) : 2010.11.01

内容と感想:
 
著者は2009年に渡辺喜美氏とともに国民の手に政治を奪還する国民運動を立ち上げた。 その後、今年の夏の参院選では「みんなの党」として初の選挙戦に臨み、10議席も獲得し俄然、存在感を示した。 本書は「みんなの党」になる前に出た本で、内容は渡辺氏との共著「「脱・官僚政権」樹立宣言」で書かれたものと重なる部分も多いが、 本書では官僚時代の話や、橋本内閣で総理秘書官として行財政改革に取り組んだこと、その後、官僚を辞めて国会議員となったことなど個人的な話も 書かれていて、著者の人となりがより分かるようになっている。
 第6章にもあるように「今の日本は、政治家の利権、官僚の既得権益・天下りといったガンに侵され、栄養(税金)がそこに吸い取られ、 身体(国民)がやせ細っている」状態だという。これを打開したいと、著者は意気込む。 そのためには天下りを禁止して税金の無駄使いをなくし、政治家への企業・団体献金を禁止して政治腐敗をなくしていく必要がある。 昨年の政権交代で民主党にそれを期待した国民は多いと思うが、現時点ではその望みは叶いそうもない。 その失望感が先の参院選の結果として現れたのだ。注目された「みんなの党」の民主党との連携だが、結局、連立までには至らなかった。 参院選では他の新党もいくつか登場したが、総じて振るわなかった。
 著者は有権者と触れ合う中で、「国民意識に潜む静かなマグマ」を感じ取っていたようだ。 そのマグマを噴き出させることが政界再編の動きにつながるのだ。 それには「奇策はない、愚直に訴えていくしかない」と彼は言う。その声が参院選では国民に届いたのだろう。 彼が言う一議員の発する「小さな種火」が全国に広がった。国民一人一人の一票という大河の一滴が大きな流れとなり一大勢力に押し上げたのだ。
 この分では民主党政権も長くはもたないだろう。政権交代して何が良くなったのか、すぐに答えられないほど何も変わっていないのだ。 改革は進まず、外交面でも不安が広がるばかり。果たしてこのまま民主党に任せておいてよいのか? 国民の苛立ちは新たなマグマを生んでいることだろう。更なる政界再編が起きることは必至であろう。
 そもそも著者のような私利私欲で政治をやっていない者こそが国会議員であるべきで、 そういう人を見る目が国民にも少しずつ育ってきている気がする。 政治家の資質を判断するためにも、政治家にはどんどんこの手の書籍を出版して、自分の政策論などを語ってもらいたいものだ。 本も書けないくらい忙しいのだろうか?それとも書くこと(政策、理念)がないのだろうか?

○印象的な言葉
・自民党政権時は議論をしても骨太の政策が決まらず、議員同士が足を引っ張り合う。最後に官僚が出てきて、毒にも薬にもならない無難な線でその場をおさめてきた
・二大政党制の小選挙区では自民、民主の候補者の狭間に埋没する恐れ
・政党を政治理念や主義主張で整理整頓して、まっとうな政党政治に作りかえる。健全な民主主義が根付くための避けて通れないコスト(→政界再編。あくまで手段)
・触媒集団を目指す
・財務省の予算査定権、査察権が権力の源泉。予算だけでなく、人事、組織、法務、監査部門まで一手に握る
・国家公務員は10万人以上削減できる。各省庁の地方出先機関の廃止。国交省の地方整備局、運輸局、航空局の統合、農政局、都道府県労働局の合理化。 公務員には意に反して解雇できない身分保障がある。国鉄民営化時の民間受け入れ等の知恵が必要。
・技官制度は「井の中の蛙」
・強い官公労は悪平等主義
・企業・団体献金の全面禁止。現状は、政党助成金も受け、二重取りになっている。個人献金を促進させるべき。献金の所得税額控除拡大で優遇すべき。
・政界はいればいるほど人間が悪くなる、駄目になる、信用できなくなる
・政治家とは「選挙のためならなんでもする」という前提で付き合え
・国会議員がいつのまにか地方政治レベルに矮小化している
・自民党型組織選挙は都会も地方も通用しなくなっていく。組織の基盤が緩んできている
・選挙期間中の費用は上限が決められているが、選挙前の活動代には際限がない
・理念・政策を打ち捨て、無条件で民主党に吸収合併された自由党
・無所属議員は本会議で代表質問ができない。委員会での質問も与野党に根回しをする必要がある。本会議での質問や答弁はお芝居に過ぎない。あらかじめ作成されたペーパーを読むだけ。 質問が制約されることは、「質問主意書」で補える。⇒国会議員の国政調査権に基づく、総理宛ての公開質問状。その回答は閣議決定を経て、公式見解として戻ってくる。
・無所属でも超党派の議員連盟で議員立法することも可能
・地方主権:権限、財源、人間の「3ゲン」を地方に移譲
・政治を奪還するとは、税金を奪還すること
・明治維新は武士という身分を無くした運動だったから成功した。自ら武士という身分を捨て「武士の世」を終わらせた。 官僚という身分を無くし、官僚制度を変える。官僚は本来の能力を発揮してもらう。官僚は職業であり、身分ではない。「官僚の世」を終わらせる。
・事前ポスターは景観を害する。駅前や街頭演説は騒音。米国なら人の迷惑も省みない人と見られる
・道路公団時代の35兆円の借金はどう解消するのか
・農家の所得補償制度は後継者がいないところに渡すのは無駄、農業の足腰を強くすることにはつながらない
・連立政権内での「政権離脱カード」を使っての改革推進。連立の中でテコになりうる勢力
・政党内、政党間にもねじれがある。これまでの政界再編は親小沢vs反小沢という人間関係が軸だった。エセ二大政党制
・800億円近い税金を使う解散・総選挙
・自己保身のために政界再編に飛びつく有象無象
・政治家がリスクをとっている姿を見せれば、人はついてくる
・真空斬り:霞ヶ関用語で、官僚に不都合な規制を作ろうとした場合、官僚たちは規制対象そのものをなくしてしまい骨抜きにする
・国家機能:国家の存続、国富の確保・拡大、国民生活の保障・向上、教育や文化の継承・醸成
・霞ヶ関の各省庁は「お家大事」となると裏部隊を作って画策する
・政治家は口が軽い。政治家に話せば途端に漏れる。官僚は情報操作のために政治家を使う
・予算編成権の枢要な機能を官邸、総理に移す。予算の性格、規模、重点項目の選定
・今、総理に求められているのは明確な意思表示。知恵袋を縦横無尽に使って、21世紀のグランドデザインを国民に提示すること
・日銀総裁の適格性の判断基準:通貨・金融政策のプロ、知識、経験、市場との対話能力、国際金融界での人脈、交渉力
・地方税の徴収事務を国税庁に統合すれば、何万人という公務員が削減できる。社会保険庁も統合すれば、更に削減可能
・特別会計の剰余金は一般会計に繰り入れるのが原則
・財政投融資特会では過去の高金利時代に貸し付けた事業からの利息分が利益として毎年上がってくる(フローの埋蔵金)
・100兆円の外貨準備を持つのは異常。他の先進国は日本の1/10の水準。急激な円高のため為替差損が出ている。ほとんどが米国債。リスクの高い、対米国で売るに売れない資産。 ドル高局面では臨機に外貨準備の縮小を図るべき。米国債を米国企業、金融機関の優先株等に一旦、振り替える。
・英国のエージェンシー制度:役人を役所から外に出す、役人のアウトソーシング。行政の効率化
・独立行政法人:国の統制色の強い特殊法人と、財団・社団等の公益法人の間に位置する中間的な存在。実態は特殊法人からの看板の架け替えに過ぎなかった。天下りと利権構造が維持された。
・財投債:財務省が発行する債券。それを郵貯や簡保、年金積立金に買わせている。その資金が財政投融資として独法に貸し付けられている。累積債務は300兆円。
・独法などが税金や保険料の無駄遣いを通じて国民に損害、損失を及ぼした場合、退職金の返納、退職、求償、補償を含めて責任をとらせるべき
・霞ヶ関は人材バンクを隠れ蓑に水面下で天下りを続けていく戦術に転換した
・選挙期間中の公開討論会を解禁すべき。最低5回。毎回テーマを決める。理念や政策本位に候補者の資質を有権者が直接判断できる仕組みが必要
・インターネット投票:選挙管理委員会がパスワードを有権者に送り、そのパスワードで投票
・財政出動は必要。景気に効く分野への集中投資。将来の日本のための先行投資
・積極的調整政策(PAPS):産業構造を衰退部門から将来有望な部門へ円滑にシフトさせる政策
・年金制度は税方式に。厚生年金、国民年金、共済年金の一元化
・教育費の税額控除
・不妊治療への保険適用
・国や政治家の役割は国民それぞれが異なる幸福や夢を実現するために、いろいろな選択肢や道を提供すること。国民は自らの判断で選択し、自らが責任をもち、必要以上に国に救済を求めない。 そうなれば国や政府の役割は限定され、国民負担率も抑えていくことができる。

-目次-
第1章 官僚を辞めて無所属議員へ
第2章 渡辺喜美さんと国民運動をスタート
第3章 元官僚だからできることがある
第4章 官僚国家・日本の病巣
 財政至上主義の蔓延
 霞が関埋蔵金は官僚のヘソクリ
 天下りの温床「独立行政法人」
第5章 天下りこそが諸悪の根源
第6章 「脱官僚」後の政治とは
 政治家のレベルを上げるにはどうしたらいいか
 そして、この日本をどうする