読書メモ
・「ネットビジネスの終わり 〜ポスト情報革命時代の読み方」
(山本一郎 :著、PHP研究所 \952) : 2010.03.14
内容と感想:
タイトルの真意が分からなくて本書を手にした。
帯には「YouTubeは儲からない!ウェブ進化論なんて幻想だ!」と書いてある。
当たっているようで、でもそうなの?と疑いも感じた。
なんでもネットでは著者は「切込隊長」とか物騒な名前で呼ばれているらしい。
目次を見ると分かるように、
「ものづくりからシステムづくりへ」とか、
瀕死の状態のメディア産業、
アニメ、ゲームは成長産業にはなりえない、
情報革命はブームに過ぎなかった、といった全体的に否定的・悲観的論調だ。
いずれもどこかで読んだような話ばかりだ。
本書はタイトルとは違って、「ネットビジネスだけじゃない産業」の現状分析と展望を語っている。
携帯電話に見る製造業の限界、国内外の出版社、新聞社の実情と展望、ポップカルチャー関連産業の経営上およびファイナンスの問題、
なども取り上げている。
ネットビジネスに関して言えば、
今は「ネット関連事業では無料モデルを支えた広告収入や物販収入の成長鈍化が表面化」し、サービスの撤退も相次ぎ、
「今後はネット関連企業も統廃合」が進み、
Yahoo!のような大手と、専門性を軸とする専門サイトとに二極分化する、と分析している。これは十分にありえる。
ただ、「ネット利用ビジネスは終わらない」。一発芸に近いネット関連企業は生き残れまい。
少し視野が狭すぎるのでは?と思わせるところもある。自分の得意分野だけの話をしているような印象を受けた。
例えば第三章では「コンテンツ業界自体の状況はより悪くなっている」としているが、
ポップカルチャーだけを取り上げて言うのはどうかと思う。悲惨な日本のアニメ制作現場を強調するが、
ディズニーのような手法は日本では出来ないのかとも考えてしまう。
「まえがき」の低成長時代の日本として、
「より合理的で弾力性のある産業秩序のあり方を問い直し、日本の産業基盤を支える適切な規制と社会制度、国民の職業訓練体制を整えること」が最重要である
という点には共感する。
ユニークな見方だと感じたのはGoogleを指して述べていると思われる以下の記述だ(第4章)。
「情報に左右されず節度ある人間の営みに回帰したいという反知性主義的な動きが先鋭化したとき、その輝きを失う可能性はある」。
この一文は「切れ味」がよかった。
情報に振り回されたくない気持ちは分かる。それが「情報は要らない」という反知性主義に転じたら、人類文明は停滞・衰退だ。
○印象的な言葉
・知識の分散化・小口化:知識労働を行なうために必要な最低限の知識量が増大し、高度な知的生産を行なうためのスペシャリティを確保するための時間が膨大に必要になった。
・資本の高度化・集積化:より高密な資本を形成し、機動性と生産性に優れたチームが必要
・技術力で勝り、事業で負けた。高い生産技術、システム構築能力の不足。
・日本の全労働力の25%が何らかの形で製造業に関わる
・過去の蓄積を食い潰しながら決算を作っている上場企業は多い
・海外競争に敗退し、国内に事業主力が帰ってきている企業も少なくない
・日本の蛸壺化した製造業文化。日本でしか通用しない製品とそれを受け入れる独特な市場
・深刻な経営資源の分散(→数多くのメーカーが競争して同じようなものを製造している)。合併で規模を大きくする
・(新興国では)ノウハウの供給や資金導入、企業経営など事業全体のプロセスを供与することで、その商圏を確保できる
・自動車産業は公共サービスやインフラ、金融が組み合わさって初めて産業となる
・ベンダーファイナンス方式:資金を貸し付ける代わりに自社製品を買わせる仕組み。ファイナンスを軸にする
・法律が右に左に変わる中国のカントリーリスク
・ネット時代は消費者が多くの情報を摂取しながら吟味。(→情報過多でいずれ吟味するのに疲れてくるのでは?ブランドも大事)
・活字離れは嘘:活字による情報摂取の量は(ネットによって)引き上げられている
・非上場企業の多い出版業界。どこからか資金が湧いて出る仕組みがある。とっくに倒産しておかしくない会社が業界にゴロゴロしている。
・金を払ってでも読みたいというネットの情報は特定分野に限定されている。生涯学習、ビジネストレーニング、外国語習得、ビジネススキルの市場は伸びている。
専門性のある高度な情報を求める読者には、新聞のような中途半端な情報には金を払ってもらえない。読者のニーズに全て応えようとして煩雑なメディアになっている。
・国民の知る権利と報道内容の質的向上を目指すための新たな公的な枠組みを構築する(→お上主導でいいのか?)。
対価をきちんと払って情報を得るという本来の消費活動に立ち返る。
・アニメやゲーム業界は上流にあたるTV業界や映画業界、エレクトロニクス業界の影響を受ける。単独で資金調達を貫徹し、事業計画を組むのが難しい
・アニメは産業基盤として自立できるほど効率的でも高収益でもない。多作を求められる
・(良質の)漫画版権の枯渇で、アニメ界には一般人の興味の対象から外れた作品の氾濫。粗製濫造、視聴者不足
・アニメを好む層は貧乏。アニメのスポンサー企業や商品に興味をもち、購入する率は低い。効果が限定的と知られているためスポンサーが付かない。
・(一部の)高予算アニメは業界のフラッグシップ的な扱い。が、評判をきちんと得られていない
・国内では15万人ほどのコアな需要家が市場を作っているに過ぎない。それを有望産業として囃し立てるのは問題
・ガンダム、ジブリ作品、ポケモンなど上位5%がアニメ関連産業全体の売上の85%を占める
・アニメ業界は零細が多数。世に出て才能を示すことが困難。30代で疲れ果てる。
・ゲーム業界:キラータイトルのシリーズ化、リメイクで過去の遺産を食い潰しながら経営を維持。オンラインゲーム会社やケータイ向けゲームビジネスが台頭。
ケータイ向けゲームは需要が一巡。無料ゲームが浸透。万人が遊べるライトなゲームに回帰。
・ゲーム機のハードの更新にタイムリーに乗ることができたゲームメーカーが、一時的に採算を改善
・日本市場の8倍の規模をもつ英語圏ゲーム市場。国内ゲームメーカには海外と開発競争できるだけの技術力、企画力を喪失しつつある
・消費にかけられる金額が一定であれば、市場が増えないのは当然
・ネット大手は既にベンチャーではなく、安定した収益性と優れた財務基盤が創造的な企業風土を作っている。アイデアだけ新たに参入する技術系ベンチャーの入り込む隙はなくなりつつある。
・国内のIT業界には革新的な利便性を顧客に提供するための技術の集積と、裏付ける哲学が存在しない。ただ収益性の成長を追い求めるだけ。
ネットを旧来型のビジネスと融合させ、置き換えたものがほとんど。
・ゴールドラッシュで最も儲けたのは、工具を売った者、ジーンズを売った者、人を輸送した者。
・ウェブ上の情報で購買の決断が完結する商材はごく一握り
・「情報革命」には何らイデオロギーが伴っていない。価値観を根底から覆すような文脈が含まれていない
・ネットの無料サービスが情報を生み出すために必要な収益的基盤を破壊した。本来対価を得るべき情報まで無料で提供し、広告料や物販収益で穴埋めするようなビジネスは長続きしない。
・良質な記事を組織的に掲載するためのまともなトレーニングも受けていないネット媒体。記事の正確性に疑問のあるネット記者。
・質の悪い情報で溢れる。悪貨が良貨を駆逐。(→社会が望む姿とは思えない。知の衰退。行き着く先は人類の堕落
・一発芸に近いネット関連企業。生き残り、更に収益を拡大するのは、一足先に規模の経済へと脱皮したごく一部の大手企業。
・情報の分断による無知の牢獄。見たくない情報から遠ざかる自由。(→想像力に欠けるようになる恐れ)
・ネット上の巨大データベースは、情報に左右されず節度ある人間の営みに回帰したいという反知性主義的な動きが先鋭化したとき、その輝きを失う可能性はある(←Googleを指している)
・国内には反競争的で安全で充実した社会保障を求める国民の群れ。世界に背を向けている
・不確定な世界を生き抜く多様性が現れることが社会の活力
<感想>
・Yahooによる新聞社買収もありうるのでは?
-目次-
まえがき ―低成長時代の産業社会とは
第1章 「ものづくり信仰」から「売るためのシステムづくり」へ
第2章 瀕死のメディア産業
第3章 アニメ、ゲームが成長産業になれない理由
第4章 情報革命ブームの終焉
あとがき ―不確定な世界を生きるために
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