読書メモ
・「「クラウド・ビジネス」入門 〜世界を変える情報革命」
(林雅之 :著、創元社 \1,200) : 2010.03.07
内容と感想:
著者はICT企業に勤務しながら、ICTコンサルティング、情報通信政策の調査・分析などに携わっている。
ネット・メディアでも積極的に情報発信している。
本書を書くにあたっても、G-mailやGoogle Docs、Calenderなどクラウドサービスを駆使したという。
本書ではクラウド・コンピューティングの概念や仕組み、ビジネス活用の現状と展望などについて事例を挙げながら、まとめている。
企業ユーザが気になるリスクと対策にも触れている。
いまや「クラウド」という言葉を聞かない日がないくらいに一種のブームになっているが、「本質的な流れが後戻りすること」はないと著者はいう。
今後もインフラとして、「クラウドが企業ユーザにとって欠かすことのできない存在になるため」には、サービス提供会社が「イノベーションを続けていく必要がある」としている(第4章)。
また、将来予想として、次のようなことも書いている。
クラウド導入が拡大すると企業内の情報システム担当者は減らされ、蓄積してきたITの知識が必要とされなくなる。
システム構築を提供してきたIT企業の営業も必要なくなり、SE(システムエンジニア)の業務量も減少するかも知れない、と。
IT業界の人にはかなり厳しい未来が待っているのかも知れない。
逆にクラウドの導入や、既存システムとの連携のために「コンサルティング能力の高い人材が求められ」、
「複数のサービスを組み合わせて最適化するようなサービスをデザインできる人材が求められていく」ともいう。
SEも営業もこれにうまく対応できれば活躍の場はありそうだ。
巻頭にはクラウド・コンピューティングを構成する3つのレイヤ(階層)の図が載っている。
この内、「日本はネットワークと端末の2つのレイヤで世界をリードする立場であり、高い技術力をもって」おり、
それを発揮するためにも「クラウドサービスを活用する決断ができれば」、「様々なメリットを享受できる」と日本企業にエールを送っている。
クラウド・ビジネスではGoogleやAmazon、Salesforce.comなどが先行して、MicrosoftやIBMが追いかけている。みなアメリカ企業だ。
日本勢も遅れてはならじと躍起になっているが、似たようなサービスが乱立するとユーザは混乱する。
サービスの継続性のために、いずれ少数の大手に収斂していくのだろう。
外国企業に情報を預けることに不安を感じる企業にとっては、国内企業には一定の安心感を与えられるメリットはありそうだ。
「キャズム越え」という言葉があるが、クラウドが一気に普及に向かうためにはキャズム越えが出来るかどうかにかかっている。
各社が本気でクラウドに投資を始めたということは、一過性のブームで終わらせるわけにはいかないだろう。
メールシステムの置き換えくらいであれば、ユーザには特にクラウドに変わったという意識もさせずに切り替えられそうだが、
より複雑なビジネスに利用していくとなれば、ビジネスのやり方やワークスタイルの見直しを迫られそうだ。
○印象的な言葉
・クラウド基盤サービス活用で短期開発
・サービスの安全性、信頼性、セキュリティの確保、実績
・セールスフォース・ドットコム社のSaaS型サービス「セールスフォースCRM」。商談の進捗把握、経営判断のための業務の可視化など。
・中小企業でIT活用が進まない4つの理由:戦略的要因、人的要因、外的要因、コスト要因
・産業構造は産業間の垣根を越えてオープン化し、企業間の関係はネットワーク型へ移行。各企業はコア技術への選択と集中をはかる。協創型。
・Google Apps Premier Edition:企業向け有料サービス。99.9%のSLA。セキュリティ機能、認証機能を強化、電話サポート付き。ダウンタイムはMicrosoftのExchange Serverの10分の1。
自社でメールサーバ管理するより信頼性は高い。
・コンサルティング会社と開発環境をネット上で共有しながら進めるシステム開発
・競争力の源はビジネスモデル、知財、ノウハウ、経験など「無形資産」
・「けんてーごっこ」クイズ・コミュニケーション・サイト。ユーザ作成の検定・クイズ
・郵便局株式会社の「お客様の声管理システム」はセールスフォース・ドットコム社のPaaS型サービス「フォース・ドットコム」を活用。
ローソンは同じサービスを使ってコールセンターシステムを構築。
・クラウド活用で創造力をもって、いつでもどこでもグローバルな規模で業務を進められる。サービス指向
・Windows Azure:クラウドか自分のPCかどちらで処理するか状況に応じて柔軟に選択できるようにする。両者の利点を融合
・経済危機によるIT投資凍結などの今だからこそ、クラウドの普及は加速し、事業転換をはかる絶好の機会
・企業内にあるコンピュータの性能は「オーバーサービス」
・データセンターの消費電力の35〜50%が機器の冷却に費やされている。寒冷地は外気の冷気で消費電力を抑える。火山国は地熱発電で電力を賄う。
雪氷の活用、温度が安定している地下の冷却水などの利用。
・Google Mobile App。Android Market。Androidはまだ企業での実績は少ない。セキュリティにも課題。
・ISO27001:情報セキュリティ管理の国際標準規格
・プライバシーマーク:個人情報保護の体制整備を認定
・SAS70 TypeU:世界で最も厳しいセキュリティ監査基準。内部統制システムの評価の際に適用する基準。Google Appsはこれを取得。
企業向けに安心して提供できるレベルと認められた。
・セーフハーバー:個人情報保護の基本原則という自己規制ルールを遵守することを自己宣言するもの。Googleも登録。
・ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度(日本):「セールスフォースCRM」は認定されている
・事業の継続性。経営の健全性。倒産してサービスが継続不可能にならないこと。経営ビジョン、サービスのロードマップ。
・データのバックアップ。データを5年以上適切に保管。平均復旧時間。解約時の情報の取り扱い。適切な情報破棄
・トラブルに備えたアクセス記録、操作記録、エラー記録
・第三者がクラウドサービスの運用状況を詳細に監視するサービス
・クラウドを既存の企業内の情報システムとを連携させると、ネットとの接続経路がセキュリティリスクとなる。連携の構造が複雑になり、運用コストがかかる可能性
・業界全体で共有するクラウド。企業間同士で取引を活発化させる。中小企業に有利(→特に生産性が低いといわれるサービス業に有利)。
・クラウドで地域の自立的成長を牽引する基盤を構築
・日本企業の市場シェア:アプリケーション・ソフトウエアが0.4%、インフラ・ソフトウエアが2.5%と、国際競争力では厳しい状況。
・セールスフォース・ドットコム社の「1/1/1モデル」:就業時間の1%をボランティア活動に、株式の1%を資金援助に、製品(サービス)の1%を非営利団体・教育機関へ無償提供。
・発展途上国の企業がクラウドサービスを安価、もしくは無償で利用できれば、恩恵を受ける
<感想>
・クラウド・ユーザをサポートするビジネスなら、クラウドを利用して、どこでもビジネスが出来る。
・あらゆるPCアプリをクラウド・サービスに置き換えてみる⇒動画マニュアル作成ツールなど
-目次-
第1章 事例から学ぶクラウド
第2章 クラウドの時代がはじまる
第3章 クラウドの全体像
第4章 クラウドの時代に備える
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