読書メモ

・「私塾のすすめ ─ここから創造が生まれる
(齋藤孝、梅田望夫 :著、ちくま新書  \680) : 2009.11.07

内容と感想:
 
これまでに両著者の本を何冊か読んできて、何か共通点があるような気がしていたが、 ここで一冊の本として両者のコラボが生まれた。「学び」がテーマの対談集。
 齋藤氏がイメージしている私塾は緒方洪庵の適塾や、吉田松陰の松下村塾。 そこには「志を同じくする仲間がいて」、「中心には信頼できる人格と力量を併せ持った師」がいた。 松下村塾は幕末に維新の立役者を長州から何人も輩出したことで有名だ。 松陰を描いた本をいくつか読んだことがあるが、塾の風景は我々現代人が学校で学ぶ授業風景とは全然違ったものであった。 現代の学校でもそのスタイルは無理ではないと思うが、なかなか成立させるのは難しいだろう。 教師、生徒の両方に高い志が必要だろうし、時代の雰囲気のようなものも大事だろう。
 そんな幕末の私塾のようなものが、今日の日本にあれば志のある若者を刺激し、 「現状を打破する起爆剤」になると二人は期待している。とは言っても、本書は革命を起こせと煽るような内容ではない。
 インターネット空間でも「私塾的関係性」は成立しうると二人は考えている。 ブログなどを使えば時空を越えて集うことが出来る。 ネットによって「脱藩的・越境的な」つながりができる、とも言っている。 吉田松陰は投獄されているときに囚人たちに孟子を講義したような「獄中私塾」が成立したのだから、 「ネット私塾」が花開くことは充分期待できる。

○印象的な言葉
・ロールモデル思考=あこがれる力
・私淑する人
・まだ自分は何ものでもないけれど、何かをなしとげたい
・伝記が心の骨格をつくる。偉大な人の人生が日々を生きるための燃料
・大きな仕事をする人は向き合っているトラブルも普通の人より多い
・自分探し:自分はここにいるのだから、自分を探しにいくことはない
・動物的なカンで道を選び取っていく。けもの感覚。野性的。直感を信じる。
・社員を増やさず、外部の一流の人たちをネットワーク化。知的好奇心を満足させない仕事は断る。規模の追求よりライフスタイル重視。
・戦後日本の教育にはアメリカから自由な雰囲気だけを輸入し、「自立」が抜けていた
・「できるって面白い」、成功体験
・同時代からの評価をあまり期待していない
・勝手に理論武装しながら新しいことをやる
・生涯すり減ることのない資本を身につける
・限定した期間を積極的な意味で「あきらめる」。評価されなくてもあきらめる。
・「なんとか職人」と自己規定してみると、腹が決まる
・エネルギーを沸き立たせるための読書
・自分の中の発酵を続け、沈殿と結晶を待つ(森有正)
・ビジョン、アイデア、スタイルを意識する
・日本の大人たちの「時代の変化」への鈍感さ、これまでの慣習や価値観を信じる「迷いのなさ」、社会構造が大きく変化することへの想像力の欠如、 安定志向、知的怠惰と無気力と諦め、などが日本社会全体を覆っている。閉塞状況を生んでいる。

<感想>
・同じ人の本を読み続けるのも一種の私淑

-目次-
はじめに ――志をデザインする
第1章 志向性の共同体
第2章「あこがれ」と「習熟」
第3章「ノー」と言われたくない日本人
第4章 幸福の条件
おわりに ――私塾による戦い