読書メモ
・「気の力 ―場の空気を読む・流れを変える」
(齋藤 孝 :著、文藝春秋 \1,300) : 2009.05.03
内容と感想:
日本語には「気」が付く言葉が多い。本書の目次だけを拾ってみても、
気(空気)を読む、気(空気)の流れ、気配、気配り、気がきく、気を放つ、気質、やる気、など様々だ。
最近では「KY」(空気読めない)なんて流行語もあったが、日本人は人と人との間に流れる空気を大切にしてきた。
「気の文化」が根付いている。
以心伝心というような非言語的なコミュニケーションも日本人は得意だ(他国の人には理解しにくいかも知れないが、
きっと同じ民族同士なら同じような「空気」があるはずだ)。
本書には「気のセンス」という言葉が出てくる。それは「場の空気の感知力」と「場の流れを変える力」の2つの要素からなるという。
前者は受動的で後者は能動的である。うまく仕事や人生を回していくには両方の要素を身に付ける必要があると言う。
第一部ではその二つの必須要素について解説している。
第二部では「気」の文化の諸相として、「気質・声・日本語という3つの視点から、気のセンスの磨き方」について述べている。
目に見えない「気」は感じられるものであり、コントロール可能なものであることが改めて分かるのではないだろうか。
若い人の間に「KY」なんという言葉が生まれるのも、KYな人が増えている証しなのかも知れないが、
それを大の大人も使うということは若い人たちだけの問題ではなくなってきたということであり、
日本人のコミュニケーション能力の低下を示すユユしき事態なのかも知れない。
もし現在の日本社会が劣化し、国力が落ちてきているとしたら、
それは日本人の「気の力」が衰退しているからかも知れない。
日本復活・再生のためには「気の力」を見つめ直し、円滑なチームワークや、場の活性化などに上手に活用していく必要があるだろう。
単なる「KY」レベルで終わらないで、本書を読んでみてはどうだろうか。
○印象的な言葉
・目かけ、声かけが基本
・「あ・うん」の呼吸で動く。勘がよく察しのいいプレー
・全体を見られ、全体の中の部分が見られ、全体と部分の関係が見られること
・「兆し」(かすかな変化)をとらえる力
・見られているという意識=期待されている
・怒声を張り上げても、そこに「気」の交流がなければ、相手のやる気は引き出せない
・身体は息を通して内と外が交じり合っている
・買いたい客のオーラを感じ取る。迷っている人にさりげなく目を合わせるか声をかけ、買いそびれないようにする。
・気配り:その場を生産的なものにしようとする積極的な心身の構え
・気の状態は息(呼吸)に表れる
・場とは一人ひとりの身体の雰囲気の総和
・アウフヘーベン(止揚):テーゼ(命題)に対してアンチテーゼを出し、意見を交し合ってワンランク上の考えに練り上げていく弁証法の論理手法。
矛盾をお互いの工夫で乗り越えていく。
・人を見るとは気質を見ること
・風土が気質の深い部分(感性)とフィット。光の見え方、色の見え方。
・地水火風(四元素)ゲーム
・日本は湿度が高い気候 ⇒潤いがある
・狂言師の圧倒的な呼吸の深さ。深い響き、張り
・下半身が出来てくると度胸も決まる。四股を踏む
・音読:自分の身体が響くように読む
・おんぶ暗誦:腹の底から声が出る
・日本語は敬語がきめ細かい。複雑で多彩。人に対する深い配慮を大事にしてきた。
・日本語は相手との関係性を重視する言語。「私とあなた」という境界線をできるだけ作らないようにし、関係性を柔らかくしようとする
・微妙な違いを感じ分けられることは文化の高さのバロメーター
・粋(いき)は日本固有の美意識。←→野暮
・地味、渋味、いなせ。侘び・寂び
・身体という小宇宙を息でコントロールし、大宇宙と交流
・釈迦は「アナパーナ・サチ」というゆるあかに息を吐く呼吸で悟った
・道教では胎息法という赤ちゃんと同じような安らかな呼吸法で長生きを目指す
-目次-
第1部 場の空気を読む・流れを変える
なぜ気のセンスなのか
場の空気を読む
場の流れを変える
第2部 「気」の理解を深める ―気質・声・日本語
気質を読み解く
からだの「気」を揺さぶる声
日本語と「気」の文化
終章 「気」と息の文化
|