いまも現役で活躍している女優について、果たして「思い出」など書いてしまってよいのでしょうか。 少々気にかかるところではありますが、私にとってヘイリー・ミルズ ( Hayley Mills ) は、やはり思い出としか言いようがありません。

  1960年代初頭といえば、アメリカがまだベトナム戦争の泥沼に陥るよりずっと以前、冷戦の中にありながらも、まさに光り輝いていた時代でした。 ハリウッド映画や「ディズニーランド」に象徴されるアメリカの繁栄と文化は、戦後間もない時代に育った多くの日本人にとって、あこがれの的であったといえるでしょう。 そんな時代に公開されたたくさんのアメリカ映画の中に、ディズニーの 「ポリアンナ ( Pollyanna 1960 )」 がありました。 日本でも大ヒットしたこの映画の主役を演じたのが Hayley Mills です。

  「ポリアンナ」 は、アメリカの作家 エレナ・ポーター ( Eleanor Hodgman Porter 1863 - 1920 ) が 1913年に出版した小説で、日本では村岡花子女史の翻訳により、「少女パレアナ」 として知られていますが、TVアニメの 「愛少女 ポリアンナ物語」 を思い出す方も多いのではないでしょうか。 牧師だった父を失って孤児になった少女 ポリアンナ。 "義務" と感じて自分を引き取ってくれたポリー叔母さんの冷たい扱いに当惑しながらも、どんなことにも "喜び" を見出そうとする彼女は、いつしか町の雰囲気までも変えていくのです。
  英語の辞書をひもとくと、"Pollyanna" は、"底抜けの楽天家" とある通り、ポーター女史の作品は、ヒロインの名前が辞書に載るほどの大ヒットとなりました。 文学史に残るような類の小説ではありませんが、確かに誰が読んでも感ずるところがあると思います。 ただ、その構成は必ずしも緻密とはいえず、後から付け足したような部分もあるのですが...
  そんな小説を、ディズニーは映画に合わせて巧みに再構成しています。 原作には 「パレアナの青春 ( Pollyanna Grows Up ) 」 という続編がありますが、映画は当初から続編の制作は考えていなかったらしく、続編に必要な設定は割愛して物語を簡略化しています。しかし、それでもなお、映画の方が原作の小説よりはるかに良い出来映えだと言えそうです。 既にディズニーにとって格好の輸出相手となっていた日本に対しても相応の配慮がなされており、さすがに巨大資本ディズニーの作品であることを実感させられる映画でした。

  さて、そのポリアンナを演じた Hayley Mills ( フルネームは Hayley Catherine Rose Vivien Mills ) は、実はアメリカ人ではありません。 彼女は、1946年英国ロンドンに、名優 John Mills と、小説家・脚本家である Mary Hayley Bell を両親として生まれた英国人で、お姉さんの Juliet Mills も女優です。
  両親の許で育った彼女は、外向的で知的な少女だったそうですが、9才で寄宿学校に入ると、同年代の子どもたちの中では、なぜかたいへん内気になってしまい、ひたすら演劇に情熱を傾けるようになります。 彼女は 1959年に、 Tiger Bay で映画デビューを果たしますが、この映画で、彼女は実の父が演ずる警部を向こうに回して、殺人犯をかばおうとする少女 Gillie を演じ、ベルリン映画祭特別賞を獲得しました。 この役は、もともと10才の「少年」が演ずるはずだったのですが、 Hayley の出現で急遽「少女」に書き換えられたのです。 彼女は早くもこのデビュー作の中で、並ではない喉を披露しています。 この映画に感動したウォルト・ディズニーは、彼女の許に馳せ参じ、 5年間の契約を申し出るのです。
  こうしてディズニー映画 「ポリアンナ」 が誕生し、この作品で、彼女はアカデミー特別賞に輝きました。 大きな目、明るい表情、のびやかな演技は実に印象的で、まさしく "ポリアンナ" のイメージでした。 この映画の中で、生粋の英国人である彼女が、ユニオンジャックならぬ星条旗を身にまとい、溢れる愛国心と戦いながら歌った(?) 「America the Beautiful」 は、たどたどしい歌い方が何とも愛らしく、すばらしいものでした。

  その翌年には、同じくディズニーの 「罠にかかったパパとママ ( The Parent Trap 1961 )」 で難しいひとり二役を見事に演じ、前作以上の人気を博することになります。 この映画は、ドイツのエーリッヒ・ケストナー ( Erich Kaestner 1899 - 1974 ) が書いた 「ふたりのロッテ ( Das Doppelte Lottchen )」 が元になっています。 生まれて間もなく両親が離婚し、父と母にひとりずつ引き取られた双子の姉妹 SharonSusan ( 原作では LotteLuise )が、13才の夏に参加したサマーキャンプで偶然出会います。 うりふたつのふたりは、初めはつまらないことでいがみ合ってしまいますが、ふとしたことから仲直り。そして自分たちが決して他人の空似などでなく、正真正銘の姉妹であることを知るのです。 ここからふたりの大作戦が始まります。離婚した両親を、何とかして元の鞘に収めようというわけです。 両親の前で、彼女がひとり二役の二重唱で歌う 「Let's Get Together」 は、LPが発売されるほどの人気となりました。 ふたり(?)の息の合ったスイングは見物です。 歌詞の中に出てくる 「alligator」 は、もちろん 「ワニ」 ではなく、日本語の 「ありがとう」 です。

  彼女は、その後も 「難破船 ( In Search of the Castaways 1962 )」 「夏の魔術 ( Summer Magic 1963 )」 「クレタの風車 ( The Moon-Spinners 1964 )」 などに出演し、それぞれに魅力的な表情を見せてくれました。 しかし、このままディズニーに留まれば、永遠に "ポリアンナ" イメージから脱却できないと感じた彼女は、やがてディズニーを去ることになります。 彼女の出演作品は30を超え、冒頭に書いた通り今も現役の女優ですが、1990年台は主に舞台での仕事に力を入れ、「王様と私 ( The King and I )」Anna 役では、かなりの評価を得たようです。 ここに掲げた小さく不鮮明な画像から、幼き日、若き日の Hayley Mills の魅力の一端を感じ取っていただけたら幸いです。



  Hayley Mills のファンページです。   On-Line Books of Eleanor H. Porter
Last Update : 4 Jan 2002
Created : 3 May 2000

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