一人日本西遊記


その6 2日め(望ましい隣人の巻 SLに搭乗)

 ついに湯田温泉にSLが到着したので乗車。
客室も昔ながらの古いタイプの客車で、ボックスタイプの座席である。
圧倒的に家族連れが多い。久しぶりに味わう「観光地的」雰囲気である。
一杯ひっかけてる者もいるのか、酒の臭いも漂って宴会的雰囲気も少し漂っている。ツアーの客もいるようである。
小郡始発なので、ほぼ今は満席といったところか。

 SLは指定席なのであるが、なんと僕の席には既にちゃっかり女性が座っていた。
僕は窓際を取ったつもりだったが、その席は子供を抱えた若妻に占有されていた。
若妻の向かいの席は、その実母と見られる老婦人で、彼女も子供を抱えている。おそらく若妻の二人の子供の一人と思われる。

 僕はどうしようかと思案してしまったが、今ここで自分の正当性を主張し、この家族の団欒を壊してまで窓際に座るのもどうかと思い、ここはまあ我慢するかと、通路側の席、若妻の左隣が空いているので、そこに腰かけることにした。
若妻が、ちょっとばかりかわいかったので、それも僕の許容心を動かしてしまった。

 それにしても若妻は自分が席を間違っているのが、わかっているのかわからないのか知らぬが、僕が来ても全く動じた様子が無い。ちゃっかりしているもんである。ちなみに強烈な方言で、どうやら地元もしくは近隣の方のようである。

ボックス席は大人4人がけであるが、まだ僕の向かいの席は空いていた。

 次の山口で、この空いた最後の席の主が来た。
また若妻である。そしてこれまた子供を抱えている。
これで、僕以外の3人は全て子供を抱えた女性という妙な絵になった。
この旅で良く、こういう子連れの婦人を良く見かけたが、旦那はどうしているのだろう?。おそらく旦那は疲れて寝てるか、別件で友人と遊んでるか、なんかなんだろな、旦那ドーシタ?と、ちょっと心配してしまう。ま、関係ねえか。

 最後に僕の向かいに座った若妻であるが、これがglobeのkeiko嬢そっくりで、かなりかわいく、まさに僕のタイプであった。最初から座っている若妻もまあ結構かわいいし、その母親も今はさすがにオバサンだが、昔は美人だったと思わせる上品な顔だちである。
ここで僕は待てよ、と考える。
「これは、考えようによっては、今僕は3人の美女に囲まれていると、言わせてもらっても良いのではないか?」
これは、ちょっとした「簡易ハーレム状態」とさせていただいて良いのではないか?!

 僕の列車における、好ましい臨席人物のランクづけを上位から挙げてみると

  1.独身美女
  2.独身女(美が付随していないところに注意)
  3.既婚美女
    ・
    ・
    ・
      931.酔っぱらいオヤジ
    ・
    ・
    ・

・・・等となる。

 今日のこのSLの場合だと、3番めのケース、すなわちまさに第3位のランクづけにあたる。
 オリンピックで言えば「銅メダル」である。NBAだとプレーオフでカンファレンスファイナルまで進出したのと同等である。
 しかも既婚美女3と、3倍の量である。唯一難点はお一人平均年齢をガッと引き上げている方がいらっしゃるということ。

 ま、こんな風に考えると、別に窓際などドーデモイイコトのようにも思えてきた。
 窓側に固執していた自分が、急にカッコワルくも思えてきた。

 ここでモテナイ独身者は急にソソクサと「話の分かるやさしい旅人」の振りをする。
 何のことは無い、ちょっと顔に笑みを浮かべながら、車窓を眩しそうに見つめるというだけである。

 臨席の女性達は始終子供にかまっていて、忙しそうである。一見とても旅どころじゃなさそうに見える。
僕的に見ると、これじゃあ育児の場所を屋外に移動してきたただけに見えなくも無い。でもこれが彼女達の「旅」なのであろう。いずれにしろ、僕の世界とは全然別世界に暮らしているのだな、と痛感する。

 後から来たkeiko妻の子供も最初からいる若妻の子供と一緒になってはしゃいでいる。
子供同士は打ち解けるのが早い。子供を通じてkeiko妻も、最初の若妻一家と、しゃべるようになった。

 モテナイ独身エトランゼは、ここでも浮いた状態になっているのに気づく。
こういう時は結構身の処遇がむつかしい。僕としても「気さくなオニイチャン」を演じ、この輪に入っていくべきか、それとも毅然と孤高の姿勢を保つべきか、大いに苦悶する。
 こんな時タイミングを考慮せず、いきなり会話に参加するのは危険である。女性陣は敵意こそ抱いてなさそうだが、かと言って僕に好意を抱いているわけではない。いきなり話しかけて「何、このオジサン?ストーカー?」などと思われては、全てが台無しである。
 だが、このままムッツリしていると、「何、このオジサン、暗いー。ストーカー?」などと思われる恐れもある。ま、どう転んでも、行き着く先はストーカーなのであるが。
 タイミングを図るために、彼女達の一挙手一投足に始終注意を払ってい続けるというのも、なんか変である。
 こちらの苦悶が伝わると、変に気を使われてしまったりして、それもミジメである。
 

 結局モテナイ独身エトランゼは、顔は柔和なまま、「オジサンは今景色を見る作業に忙しくて、申し訳ないけど君たちの相手をしている時間がナインダヨネー」的な素振りで、最初の姿勢をヒタスラ保つことになる。
 これは体力的にも精神的にも結構エネルギーを費やす作業となった。ま、結局モテナイ独身エトランゼの旅は最初から一人なのである。酔っぱらいのオヤジなんかと相席するよりは、格段にこっちのほうがマシマシと自分に納得させる。
 ふと正面を向くとkeiko妻と視線が合ったりして、ドキっとしたりなんかして、まあそれはそれで結構エエ気分で無いことは無い。指定席料金分はモト取れたゾイと思う。

 SLは実にノンビリしたペースで進んでいく。
SLは人気抜群で、沿線で写真を撮るマニアを多数見かける。農作業の手を休めて、こちらに手を振っている農家のオジサンオバサンもいる。いわばこの近隣のアイドル的存在である。

 途中中原中也の寂しい詩「冬の長門峡」の舞台になっている、長門峡という駅を通過する。にわか文学青年は「ここがそうなのか」と、ちょっと感慨に浸る。
 

 当初窓際で車窓の景色を見ながらSLでノンビリという絵を想像していたが、まず窓際という構図は出会い頭から崩れ、車窓の景色も途中からトンネルと森林だけの単調な景色が結構続き、「車窓の景色を見続ける忙しいオジサン」の振りも、そうそうできなくなる。
 こういう時、神が許せば、僕としては正面のkeiko妻を見つめる作業に突入したかったが、これはおそらく神の許可も本人の許可も得られないだろうと不本意ながら断念する。
 こんな時はやっぱウォークマンで音楽!。音楽は偉大だね!僕の精神を軽やかに保ってくれる。

 地福というところで7分間の停車。
乗客は一斉に降りて、SLの写真を撮る。もちろん僕もそうする。写真を見ていただくとおわかりになるが、ほとんどが降りている。

 程なく津和野である。
 今度は森鴎外の郷里を訪ねるのである。
 

続く。

●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  キリンジ:「双子座グラフィティ」(「ペーパードライヴァーズミュージック」収録) 


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