初めての免許更新
 
 人にはそれぞれキャラクターに合った行動というものがある。
 モテナイ独身青年(僕のこと)にとってカッコイイ行動というのは、どうもキャラクターに似合わず様にならないらしい。そういう世界にちいとも踏み込ませてもらえない。
 お洒落なバーで美女と共にカクテルを飲んだり、ビーチボーイズのように爽やかな海の男というキャラクター等も似合わないらしい。どっちかというと居酒屋や海の家のイカ焼きの方が似合っているらしい。

 オープンカーで隣に美女を侍らし、浜辺をドライヴ、なんてのも実に似合わないようである。
 このように「車」というのは、僕のキャラクターとは最も対極の世界に位置するものであった。
 只モテル男は必ず車に乗っている、というのは気になっていた。非常に気になっていた。

 実際車に限らず、車の如くスピードを要する「スピードもの」に、人生においてしばらくは縁が無かった。
 そんな僕の社会人になってからの、未だに無い「スピードもの無い無い3大自慢」として、次のものがあった。
  1.ジェットコースターに乗ったことが無い。
  2.スキーをしたことが無い。
  3.車の免許が無い。
 上記は僕のキャラクターとは対極のものゆえ縁が無かった(本当は単に金が無かったらじゃネエカヨ!と、真実をえぐるような鋭い指摘有り)。

 しかしながら、1、2に関しては社会人になって程なく機会が訪れ、クリアしてしまうこととなった。
 最後に残ったのは3である。
 3に関しては、地球にヤサシイ僕の(?)キャラクターとしては、公害の元凶のような「自動車」に乗る、免許を取る、などというのは想像し難いことでもあった(本当は単にヒマが無かったらじゃネエカヨ!と、真実をえぐるような鋭い指摘有り)。
 そんな地球へのヤサシサでは、東多摩地区では右にでるもののいない(その程度の範囲かい!)僕が、なんと運転免許を取得してしまったのは、僕が齢実に36になってからのことであった。

なぜか?
  1.それまで勤めていた会社を辞め、免許取得の時間ができた。
  2.会社を辞めたことで、社員証に変わる身分証明(IDカード)が欲しくなった。
  3.文明というものに、寛大な心で接していこう、向き合っていこう、対話していこう、と方針の転換を図った。

 ・・・という理由による。決して車に乗れる男性をカッコイイ男性の条件として女性が挙げていたから、ということでは無い(本当は単に女にモテヨウと考えたからじゃネエカヨ!と、真実をえぐるような鋭い指摘有り)。

 僕が四苦八苦しながら免許を取得していった様子は、機会があれば別途お話ししたいと思うが、ともあれ、これで僕もようやく女にモテル下地ができた・・・、いや失礼、ええと、まあとにかく僕のキャラクターに「車にもとりあえず乗れる」という項目が付加されることとなった(免許有っても肝心の車が無いと始まらないことに気づいて無いね)。

 そんな僕にも、なんと初めて「運転免許を更新せよ」とのお達しが、お上の警視庁より下されたのである。
 免許は更新しなければいけない、とは聞いていたが、取得後2年半の期間を経て、ようやくそれが実現する運びとなった。
 お上の命とあっちゃあ、しねえわけにゃあいかねえな、八つぁン、と(なんで江戸っ子なんだよ・・・)、僕は秋めいてきた10月のとある木曜日、会場となる府中運転免許試験場に初の免許更新へと向かった。

 お上からの通知は、葉書で誕生日の一ヶ月程前に郵送されてくる。
 僕の誕生日は11月2日で、9月の終わりくらいに通知が来ていた。
 
 受付は平日の午前8:30〜11:00のパターンと、午後の13:00〜14:00のパターンがある。
 僕は午後に行くことにした。
 
 調布から武蔵小金井行きのバスに乗り、途中の「試験場正門前」というところで降りる。
 バスは、それ程混んでいなかったが、僕と同じように試験場に行く客が結構いた。
 12:40発に乗ったら、ちょうど13:00頃に到着。

 試験場に入ると、人だかりで、急にめげそうになる。
 うわあ、混んでるじゃん、と思っていたが、後で試験場の方がおっしゃるには、これでも今日は空いていたらしい。

 僕はとりあえず来てしまったが、初体験なので、どういう手順でするのかわからず右往左往してしまう。
 なぜか一階のフロアをグルグル回ったりなど意味の無い行動をしてしまうが、そのうち案内係のような人に声をかけられ、ようやく受付を開始することができる。
 フロアを良く見たら電光掲示板があり、そこに更新手順がちゃんと掲示してあった。周囲は落ち着いて見渡す方が良い。
 ちなみにテレホンサービスによる、手続きに関する問い合わせの対応もしているらしい。
 
 最初は通知の葉書と古い免許を見せ、そこで古い免許をコピーしてもらい、申請書というのをもらう。
 その申請書に持参した顔写真を貼り付ける。最初写真は何に使うのかと思って、適当に持ってきていたが、ここで申請書用に使用するのであった。多少大きい写真を持って来てしまっても、カッターがあり奇麗にカットできるようになっている。

 申請書に写真を貼り、所定事項を記入した後は、手数料として幾らか払い、その印紙を申請書裏に貼り付ける。僕の場合は2950円であった。
 
 次は視力検査だったが、僕が列に並んだ時には前に30人程並んでいた。その30人の列が3列できている。どうやら一番混んでる時にあたってしまったらしい。というのもしばらくして、そこを再び通った時には全然人がいなかったのである。皆午後一で済まそうと考えていたようで、考えることは同じだなと、ちと反省。
 かなり待ちそうでウンザリしかけたが、僕のすぐ後ろに若いネエチャンがついてくれて、何やらイイ匂いを発してくれていたので、「待つのも満更では無し」と、やや前向きな姿勢を保てる。
 検査はかなり簡便に行われているようであったが、中にコンタクトだか眼鏡を忘れたため素で検査を受け、デタラメに答えまくって、注意されていた不幸なオバチャンなどもいた。
 待つこと20分、ようやく僕にも番が回って来た。
 モテナイ独身青年の僕にも唯一自慢できるのが視力なのであるが、そんな自慢の視力の良さに浸っている間も無く、次の受付へ。

 ここからは係員に、東へ行けと言われれば東に、西に赴けと言われれば西に、というように、言われるままに、館内を巡っていく。ここからは特に混雑も無くスムースに事は運んだ。

 次もまた受付で、男性の係員の窓口と女性の係員の窓口があったが、迷わず女性の窓口の方に並ぶ。
 そのまま後ろの部屋の写真撮影に行け、というので言われたとおり、そこへ向かう。
 免許証用の写真撮影も無事終了し、次は講習の受講となる。
 ここまでで40分程かかっていた。

 講習は免許の点数によって、優良者とそれ以外にわかれるらしいが、僕はなんと一応優良者らしい。
 ほとんど乗っていないからなのであるが、地球にヤサシカッタ意味も含め優良なのであろう、と勝手に解釈する。
 
 講習はほとんど儀礼的なもので、おそらく免許作成が行われている間のつなぎ的な意味合いもあるのだろうが、これを受講してハンコを貰わないことには免許をくれない、というので受講しないわけにはいかない。
 受講教室は、ほぼ埋まっていたが、ポツポツ空席もあった。中にその席に座らず立っている輩が数人いて、係員が再三座るように指導するが、なかなか座ろうとしない。
 いつもだったら気にもとめない僕なのだが、その座らない輩の一人というのが通路側に座っている僕のすぐ横に立っている男性だったので、僕も真横に立たれてこちらを向かれ多少うっとおしく感じていた。
 当人は遠慮しているのか何か知らぬが、これ程再三の指導にも屈しないというのは、もう遠慮を通り越して、抵抗・反逆とも言えるのではなかろうかと案じていたのであるが、数人いた立てる輩も再三の係員の説得により一人座り二人座りして、最後に残った僕の横の輩も、さすがに一人だけ立っているのは気恥ずかしく感じたのか、ようやく僕の側を離れて空席に着席してくれた。立てる反逆の輩も徒党を組むと強いが、単独では体制の前に屈伏せざるを得ない。

 20分程のビデオ観覧の後、講話が有り、その後免許の引換券に受講の終了印を押してくれる。これが無いと新免許は受け取れない。
 ハンコを押してもらう際に、争うように列を作っている方もいたが、実際免許をもらえる順番は、写真撮影の前の受付順になっているので、ここで慌てても意味は無い。
 僕はハンコをもらう際、気をきかして押し易いように引換券を逆さに向けて出したのであるが、係員はその裏を読んでいて、初めからハンコを逆さに向けて押していた。慌てて僕も向きを直す。
 さすが事務手続きのプロ、僕も読みが甘かった。読めなかった。彼らは僕の上をいっていた。負けた、完敗だ(なんのこっちゃ?)。
 
 1号館というところで、いよいよ免許を受け取る。ここは新規で取った時も来た場所である。免許の配布まで待ち時間がある為か、室内にキヨスクばりの売店もある。
 15分ほど待って名前を呼ばれ免許受領。これで今日の一連の手続きは全て終了である。全工程1時間半弱くらいか。
 これで僕の免許は若草色から水色のラインになった。次回更新では銀色になる予定(?)である。

 帰りのバス停で、僕の前に若い女性がおり、シゲシゲと自分の昔の免許と新しい免許を見比べていた。
 僕は見ては失礼に当たると思ったが、彼女も堂々と見せつけるように見ていたので、つい見入ってしまう。
 いろんな情報がわかってしまったが、誕生日を見ると10月30日で僕とかなり近く、親近感を感ずる。
 オレと同じサソリ座かあ・・・、ん?
 そうか!この時期に更新に来ている人は、みんなこの近辺の生まれ月の人なんだ・・・。
 そう、免許更新は誕生日一ヶ月前から誕生日当日までが更新期間となっているので、10月のこの時期サソリ座が大挙して更新しに来ていてもおかしくはないのである。
 ということはさっき講習受けてた人は、サソリ座軍団かもしれなかったのか・・・
 などとつまらぬことを考え帰途に向かうモテナイ独身青年初めての免許更新の日でありました。
 
 (2000.10.12)

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