「山歩」によせて
顧問 熊野谿 寛
1989年6月
ワンゲルの活動が再建されてから2年が過ぎました。昨年
は、丹沢の沢登りに始まって、夏の北アルプス・表銀座、秋の南アルプス・北岳、紅葉の西丹沢、と年間10日ほどの山行をすべてテント泊りで行なうことがで
きました。北アルプスでは槍の肩での日の出に感銘し、秋の北岳では肩の小屋で吹雪に遭遇して冬山をかいまみると共に登頂できずに下山する悔しさを味わい、
紅葉山行では豪華な食事を楽しみ・・・という具合いにそれぞれの山行が、参加した部員にとっても印象に残る活動ができたのではないかと考えています。登頂
目的の岩登りと雪山はやらない、という限度のなかではありますが、山の厳しさもすばらしさも経験してもらえたかと思います。私自身にとっても、たいていは
何度か歩いた山域ですが、新鮮なものが多く感じられたように思います。
そうは言っても、なにせこの「軽薄短小」の世の中に、
エッチラオッチラと山に登るというのですから、「暗い」などと周囲に勘違いされたり、「試験で疲れたから、試験後の山行はやめましょう」と部員一同が言い
出してこちらはカッカきたり、といったことが日常茶飯事なのも現実です。年間50日は山に行く、と私が言うと「また先生いったの」とあきれる部員の方が多
いようです。それでもやっぱり、日常の生活とは違った「山の世界」に魅力を感じることのできる諸君がこうしてクラブに集まってきていることに、ある種の感
慨を禁じ得ません。
この5月連休に、社会人山岳会の仲間と北アルプス白馬岳
の主稜に出かけました。取り付きを間違って、沢筋から誰一人登っていない雪をラッセルして登り、ナイフリッジの途中でビバークして、翌日、また新雪のラッ
セルの挙げ句に山頂に立ちました。汗だくになって雪を固めて登り、道を拓く、雪の壁を全力で登る、ついにそこより高い所のない地点に立ち、展望のなかに立
ち尽くす・・・私にとっては登山の最上の喜びの瞬間です。でもそれは、程度や形は違っても登山という無償の行為のなかでは、誰でもが味わうことのできる喜
びです。そうした中で様々な自然の顔に敏感になることができます。そしてまた、一日の行動を終えたときの安堵感と食事のうまさも、決して日常では味わえな
いものです。こうしたものの多くを彼らと共有できることはまさに「顧問冥利につきる」ぜいたくであると思います。
19世紀にドイツに始まったワンダーフォゲル運動は、渡
り鳥のように大地を放浪し、仲間と語らい、心身を鍛え、祖国を愛する、自由な青年たちの自己形成の場でした。近代社会の成立と共に生まれた自由な青年の時
代を、彼らは祖国の大地と自然のなかで送ろうとしたのです。部員たちにとって「山」がそんな意味で身近なものとなり、自然に親しむことができるような活動
を、これからも模索して行きたいと考えています。
今回の展示では「山の料理」を軸に、山のすべてを食い尽
くすということで「EAT MOUNTAIN」というテーマを設定してみました。ご高覧の上、ご意見をいただければと思います。
夏合宿に向けて
顧問 熊野谿 寛
本年度、新入部員8名を迎えることができました。しか
し、対応する上級生が少なく、高校3年生の諸君は受験準備で例年、参加していませんので、本格的な縦走には無理があるようです。また、今年の新入部員の特
徴として、うまいものを食べたり、自然のなかでキャンプをしたり、釣りをしたりしてみたい、という要求が強いようです。そこで考えられるのは、日本アルプ
スでの定着方式での合宿か中級山岳以下の山岳地帯でのキャンプ合宿でした。これをさらに検討し、現在の時点では、「沢登り」と「渓流釣り」を組合せた合宿
を考えています。
具体的には、1級から2級程度の沢の中で、釣りができ、
しかも遡行技術の上で初心者でも安心でき、しかものんびりと行動しても2泊3日で抜けられる・・・ということで、・日原川・大雲取沢 ・笛吹川・釜の沢の
2つが候補地として上がっています。現在は、・を第1目標にしていますが、6月のうちに顧問が下見を行い、最終的に決定します。