「青い目/西行U」創作ノート1

2009年4月

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04/01
姉の家に兄夫婦が来る。久しぶりに兄弟が揃う。兄は三重県からとんぼ帰りするとのこと。バス停で別れてこちらは歩いて帰る。末っ子なので、兄弟と会うと疲れる。一人でいると、還暦の老人だが、兄や姉がいるといつまでも末っ子だ。

04/02
医者。床屋。必要なところに出向いてから妻と花見。北沢川は五分咲きなのに、目黒川は満開だ。ここ数日、集中力がなかった。夜中、ようやくエンジンがかかる。『マルクス』の宣伝文を書く(集英社のPR誌『青春と読書』掲載)。

04/03
雑文2件片づけてかメンデルスゾーン協会。機関誌の編集会議。夜中、このページの設定。新しいノートの名前で迷う。『青い目の王子』にすでに取り組んでいるのだが、これは1カ月ほどで終わる。次の『西行U』とまとめてノートのタイトルとする。

04/04
「マルクス」のゲラを発送したあと、知人の葬儀などがあって、しばらく集中力を欠いていたのだが、昨日あたりから脳のスイッチが入ったようで、当面の雑文などを片づけた。「青い目」を最初から読み返してみたが、出だしはいい。いい感じで歌が入っている。しかしその後、王子が生まれる場面でイメージがうすい。このあたりから手を入れる必要があるだろう。この作品のコンセプトは、愛と悲しみ。子どもがこういうものをどうとらえるかわからないが、自分が子どもの頃に宮澤賢治をちゃんと理解していたことを思えば、あまり気にせずに自由に書いていけばいいと思う。今月は「マルクス」の再校と「罪と罰」の初校が出るはずなので、とにかく行けるところまで行って、作業を中断することになるが、まだこの作品はエンジンがかかっていないので、ゆっくりと慣らし運転ということで前進したい。
「白痴」の資料も読み始めた。これはわくわくする。「罪と罰」の場合は原典の世界を別の人物の視点で見るということで、原典の状況設定とストーリーをそのまま使った。「白痴」はそういうわけにいかない。同じ手は使えないということもあるが、「白痴」の場合は実際には書かれなかったプロットが創作ノートに残されている。この実現しなかった状況設定を用いて、実際に書かれた「白痴」のテーマを展開できないかというのがコンセプトだ。この創作ノートのプランでは、予定していたテーマを展開できないとドストエフスキーが考え、そのために初期のプランは廃棄されなかったわけだ。つまり、ドストエフスキーがこれでは書けないと思ったプランを強引に推し進めて書ききってしまうということになる。ドストエフスキーでもできなかったことをやろうとしているのだから、とんでもない試みになるが、だからこそ楽しいのだ。

04/05
日曜日。プライベートな雑用があって一日を費やす。この一週間、いろいろと多忙だった。問題は解決したので次週は仕事に集中できる。

04/06
本日は何事もなし。作品社の担当者からメール。『罪と罰』のゲラが出る。会って話したいというので木曜に会うことにする。

04/07
M大学の懇親会。今年からこの大学の客員教授になった。ここでは非常勤講師のことを兼任講師と呼んでいる。わたしは客員教授ということになっているが、立場は兼任講師と同じ。要するにハケンみたいなものだ。そのハケンの人たちの懇親会ということ。大学内の施設で宴会。W大学(早稲田のこと)でも同じような会があるが、寂しい会議室みたいなところを使用したしょぼい宴会だ。このM大学の宴会はややましな料理が出た。おいしい日本酒があったので飲み過ぎた。知らないところではあるが、この歳になると場所見知りなどということもない。ただ宴会場の外に出ると、知らないところだなと思った。ここはバスに乗らないと行けないかと思っていたが、帰りに春風に吹かれながら歩いて駅まで行くと、意外に近かった。もっと酔っていると時間の感覚がなくなる。帰るとやたらとメールが届いていた。こちらがのんびり飲んでいる間も、世の中は動いている。

04/08
明日ゲラが出るので中途半端な気持であるが、とりあえず「青い目」を少し。夜はPHPの担当者と三宿で軽く飲む。将来のことなどを話す。とりあえず企画を出すことを約束する。

04/09
昨日に引き続き、本日は講談社との打ち合わせ。夜は作品社からゲラを受け取り次回作の打ち合わせ。この3日間で、今年のスケジュールが完全に埋まった。もはや身動き一つできない。ゲラは、会って手渡したいというので、大幅な直しがあるのかと緊張したのだが、それほどでもなかった。しかし重要な指摘をしてもらえた。とにかくこのドストエフスキーの仕事は楽しい。楽しいことをするのが何よりだ。

04/10
自宅で5月の名古屋講演の打ち合わせ。昨日、酔って足首をひねったようで痛い。まあ、ゲラ直しに支障はない。22章ある900枚の作品なので、1日に2章がノルマだが、来週は外に出る用もあるので、週末に稼いでおきたい。

04/11
土曜日。ひたすらゲラ。

04/12
日曜日。ひたすらゲラ。

04/13
ペンクラブ。理事による会長選挙。これまでペンクラブは言論表現委員会に出席するだけだったが、今回から理事になった。また仕事が増えることになる。

04/14
今日は公用なし。ひたすらゲラに取り組む。「マルクス」のゲラはものすごい直しがあったのだが、ドストエフスキーの方はほとんど直しがない。しかし担当編集者から重要な課題を3つ与えられていた。これは難問であったが、昨夜、第1の難問を解決した。原稿用紙で3枚ぶんくらいの挿入をした。本日、第2の課題を解決。これは1行加えただけ。課題はあると1つ。それと「あとがき」の修正が必要だ。この作品は当初、「小説によるドストエフスキー論」というコンセプトで書き始めたのだが、小説として自立できるものに仕上がったので、「評論」という看板は下ろして、「新釈罪と罰」といった感じのタイトルにすることになった。あとがきは「論」のままなので若干の修正は必要だが、作品を書いた動機を語っているので、そのまま残しておいてもいい。「マルクス」の再校も出ているらしいが、時間がおしていることもあって、編集者がギモンの部分だけ送ってくれることになった。帯のコピーが作者の「まえがき」からの抜粋になっているのだが、実はゲラでその部分を削ってしまった。そこで「本文より」といった体裁で引用することができないのだが、まあ、帯のコピーを作者自身が新たに書いたという体裁にすれば問題はない。このように本が出る間際にはいろいろと軌道修正がある。「マルクス」は書き始めの時は「マルクスの謎」というタイトルを想定していたのだが、書き終えたあとで世界恐慌が起こったので、「マルクスの逆襲」というタイトルを考えた。入稿前にもう一度読み返した時は、やっぱり「マルクスの謎」の方がいいかと思い、「マルクスの逆襲がはじまる」といったサブタイトルを考えたのだが、編集者や営業部の最終判断は「マルクスの逆襲」になったようだ。このタイトルはわたしが考えたものなので問題はない。そもそも最初の「マルクスの謎」というのは、新書のコーディネートをやってくれるフリーエディターの提案なので、与えられたタイトルだった。わたしはこの「マルクスの謎」というタイトルに触発されて書き始めたので、このタイトルでもいいと思っていたのだが、やはり営業的には「マルクスの逆襲」だろう。ちなみに「逆襲」というのは、子どもの頃に見た映画の「ゴジラの逆襲」をヒントにしたもので、実は新潮新書の「団塊老人」は、当初は「団塊老人の逆襲」というタイトルを想定していた。まあ、タイトルに関しては、いろんなことがある。

04/15
文藝家協会理事会。声明を発表。これでこの問題も第1段階は終わった。自宅に帰ると集英社からゲラが届いていた。集中する。問題は解決。スキャンして送る。FAXではチェックの赤色が出ない。と思ったらスキャナーの調子がわるく赤が出ない。赤字がいっぱい入ってないと反応しないのかもしれない。ま、これで読めるだろう。

04/16
大学の出講日。今年からこの大学で客員教授を務めることになった。初めての大学。初めての教室。もちろん学生たちとも初対面だが、講義そのものは何度も話した内容なので問題はない。学生の反応も早稲田と変わるところはない。これから一年、彼らとつきあうことになる。バスに乗るのは疲れるので行き帰り、駅から歩いた。この方がいい。歩いているといろいろと考え事ができる。ドストエフスキーのゲラ、1章のみ。今日は久々の講義で疲れた。明日頑張ろう。

04/17
西立川。帰りに世田谷美術館に寄る。集英社のゲラ、電話でギモンが届く。編集者に任せる。これでどうやら完了らしい。ドストエフスキーの方は、大きな課題はすべて解決している。エンディングに向けて楽しみながら読んでいきたい。

04/18
土曜日。コーラス。出かける前にドストエフスキーのゲラ完了。二次会でメンバーの人々と飲みながら、一人で祝杯を挙げる。

04/19
日曜日。ゲラを投函。これで作業が完了した。明日からは児童文学に戻る。

04/20
文化庁小委員会。いつもの三田会議所。午前中の会議は妻に送ってもらうのだが、本日は午後なので電車で行く。先日偶然に発見した新ルート、表参道と溜池山王の2回乗り換えだがこちらの方が早い。終わって飯田橋へ。次の会合の間に、30分ほどタイムラグがある。ここは教育NPOがあるのでよく時間をつぶすカフェバーで、生ビールを飲みながら、児童文学のことを考える。アイデアがひらめいたので有意義だった。夜の会合は簡単な打ち合わせ。会議が2回あるとけっこう時間がとられる。

04/21
本日と明日と、公用休み。ドストエフスキーの疲れが出て頭がぼうっとしている。再校が完了するまではまだドストエフスキーの亡霊に追いかけられるのかもしれない。それでも夜中、書きかけの「青い目」を最初から読み返して、少しやる気が出てきた。何よりも重要なのはモチベーションだ。大学で学生に小説の書き方を教える時、文学史や小説の構造を教えることはできるのだが、モチベーションをどうやった高めるかといったことは、伝達不可能だ。わたしの場合、これまでの人生の積み重ねの果てに、ウィスキーを少々投入すると、エンジンがかかるような気がする。

04/22
本日も休み。渋谷まで散歩。連休中に必要な新幹線の切符を購入。妻がクレジットカードで出るはずだというのでやってみたら、暗証番号を要求された。そもそもカードなどというものは外国に行った時しか使わないし、番号など知らない。しかし試しに昔使っていたことのある数字を入れたら、受け入れてくれた。当時はこの番号ばかり使っていたのだが、最近は違う番号を使うことが多い。忘れかけていた番号だったが、カンが当たった。渋谷まで往復歩いて、疲れて帰ってきたのだが、妻が三軒茶屋の区役所出張所へ行けというのでまた三軒茶屋まで歩いていった。オーバーウォークだ。

04/23
大学。2回目なのでもう慣れた感じ。まあ、いい感じで話ができた。昨日は「青い目」のいままで書いたものを読み返した。今日はわずかだがその先に行けた。少しずつ調子を上げていきたい。

04/24
ペンクラブでグーグル問題の集会。言論表現委員、出版社の著作権担当者、新聞記者などが、会議室に満杯の状況で、充実した討議ができた。夜は著作権を守る弁護士の協議会。フェアユースを導入するとやたらと裁判が増えて弁護士ばかりが儲かると、わたしは警戒しているのだが、良識のある弁護士の方々が、著作権法の危機を救うために立ち上がってくださった。まことにありがたいことである。

04/25
土曜。久々に仕事場に移動。正月以来か。多忙で仕事場にこもる時間がとれなかった。豪雨なので道路が空いていた。土日は高速料金が安くなった。初めて実感した。

04/26
日曜。食料品を買いに行く。あとは散歩。今日は晴天だが風が強くやや寒い。「青い目の王子」2章終わる。全体が10章なので、2割のところ。

04/27
快晴。義父母到着。義父母と会うのは久しぶりだという気がする。

04/28
3章完了。伸びた松の木を刈る。

04/29
4章、半分くらい。主人公の母が出てくる。ここでキャラクターが固まって、つぎに進むことができる。

04/30
M大学の出講日。仕事場から出発。駅まで車で送ってもらうので楽。終わって自宅に帰る。愛用のラップトップを仕事場においてきたので、古いデスクトップでメールをチェック。動作が遅く、やたらと更新情報が入る。ふだんほとんど使っていないので、ウイルス対策ソフトが2世代も前のままだ。


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