キルギス人質事件解決報道の中で−キルギス人通訳の存在に光を−

1999.10.27

山中速人


 10月27日の午後7時のNHKニュースが、今回のキルギス人質事件で日本人技術者といっしょに拉致されたキルギス人通訳のインタビューを報じた。このインタビューを撮った記者のやさしい心遣いを感じた。

 ニュースでは、インサートとして、まだ小さな彼の子どもと通訳氏が解放後再会を喜ぶ映像が流れた。ともすれば、人質になった日本人たちの安否報道の影で、同じ苦労を味わった通訳の存在は、見過ごされがちだ。しかし、このインタビュー報道を通して、日本人の人質と運命をともにしたキルギス人がいたことを私たちは知ることができた。この報道は貴重である。

 通訳やガイドは、言葉に不自由な日本人が海外で行動するのに、欠くことのできない存在である。外国語の苦手な日本人にとって、海外援助の現場でも、多くの通訳やガイドの協力がなければ、その使命の達成は困難だ。しかし、多くの場合、彼らの存在は、影に隠れて日の目を見ることは少ない。とくに、メディアはその存在をことさら影に隠してしまう。

 たとえば、最近高い視聴率を稼いでいる「うるるん滞在記」などはその典型である。タレントが海外の市井の人々の生活の中で苦労しながら何事かを成し遂げるというこの番組も、実際は、1週間程度で収録され、タレントと現地の受け入れ家庭の会話のほとんどが通訳を通して行われている。しかし、映像からは、通訳の介在する部分は巧みにカットされ、あたかも直接のコミュニケーションが成り立っているような錯覚を視聴者に与えている。視聴者は、「言葉はいらない、真心さえあれば、気持ちは通じる」と思ってしまうに違いない。

 しかし、それは真っ赤な嘘である。二つの文化に通じ、身を粉にして通訳をしてくれる人の存在があって初めて心も通うのであろう。

 そのような現実を知るにつけ、NHKニュースがキルギス人通訳にスポットライトを当てたことが嬉しい。通訳氏は、たんに通訳をするだけでなく、言葉の分からない日本人人質のために武装ゲリラと身を張って交渉し、ときに人質を励まし、人質以上の苦労を体験したに違いない。しかし、人質の解放後は、日本のメディアは人質だけに関心を集中し、彼らのために尽力した通訳の存在をともすれば忘れがちであった。そのようなとき、NHKのニュースが彼の存在にスポットライトを当ててくれた。

 通訳氏の優しそうなまなざしがテレビ画面一杯に広がった。それを観るにつけ、今回の事件で、たとえ大枚の身代金を影で支払っていたとしてアングロサクソン諸国から批判を受けようと、人質の人命を優先したことに間違いがなかったと確信する。日本人人質の影に彼らを支える現地の人々がどれだけいたことか、そのことを忘れてはならない。その意味でも、NHKの通訳しに対するインタビューは、光っていたと思うのである。