「「フラの宇宙」解説 メッセージとしてのフラを読むために」


DVD『ハワイ〜虹色のレイ・フラの宇宙』パナソニック・デジタル・コンテンツ、1998年


 1980年代、ハワイの文化潮流に新しい動きが現れた。ハワイアン・ルネッサンスと呼ばれるハワイ人文化の復興運動である。先住民族としての誇りを取り戻そうと始められたこの運動は、文化のあらゆる層に浸透しはじめた。フラもその一つである。観光客のための余興ではなく、先住民族の誇りと精神を表現する媒体としてフラは大きく変化を遂げた。いや、先祖返りをしたといってよい。新しく復興を遂げつつあるハワイ人の伝統文化に寄せる熱い思いを伝えるため、この「文化編・フラの宇宙」を企画した。

▼フラを理解することは、なかなか難しい。まず、「フラ・ダンス」という言葉の響きがもつステレオタイプ(画一的イメージ)から逃れることから始めねばならない。さらに、フラの表現はハワイ語にもとづくシンボリズムの体系に従っているから、ハワイ語の理解も欠かせない。そして、フラに伴って歌われるチャント(歌謡)はたいてい二重の、いや三重の意味を背後に隠し持っている。

▼フラには、儀式的色彩を強く持った古典形式のフラ・カヒコと日常の楽しみのために踊られる比較的モダンな形式のフラ・アウアナに大きく分類できる。それぞれに優れた曲目をもつが、ここでは、それぞれ特徴をもつカヒコ5曲とアウアナ4曲を選んで収録した。

▼フラは、クムフラと呼ばれる師匠が率いるフラ・ハラウという芸能集団によって演じられ、また、次の世代に伝承される。ロバート・カジメロ氏とレイナアラ・ヘイネ氏の二人のクムフラとそのハラウが収録に協力をしてくださった。お二人とも国際的に高い評価を受けるクムフラであり、この企画の教育的な目的に賛同して協力くださった。フラに対する彼らの思いを語るインタビューも併せて収録した。撮影は、オアフ島ホノルルのカメハメハ・スクールの校庭を借りて行われた。

▼この「フラの宇宙」では、DVDの特性を活かして、全体の動きを正面から固定カメラで撮影したレッスン・モードを副映像として収録した。さらに、レイナアラ・ヘイネ氏(男性のパートについては、ロバート・カジメロ氏のハラウの一員であるブラッド・クーパー氏)がフラの動きに合わせて歌詞や曲の意味を解説する副音声をこのレッスン・モードに加えた。フラをより深く理解する上で役立つだろうし、フラを習う人々にとっても大いに参考になるだろう。

▼さらに、後半では、オリを取り上げた。伝統の歌謡であるオリを日本人にイメージしてもらうには、神道の「祝詞」に類するといえばよいのだろうか。ハワイ語の歌詞をさまざまな技巧を施した発声法によって詠い上げるオリは、西洋音楽と接触する以前のハワイ先住民族文化が持つ原点の響きを保っている。フラを踊るための曲であるメレ・フラやその後のハワイアン音楽の発展を理解するには、オリに触れないわけにはいかない。オリの撮影はハワイ島で行われ、若い世代を代表するクムフラの一人であるモーゼス・クレイブ氏、ハワイ大学ヒロ校ハワイ研究学科の教授カレナ・シルバ博士、同講師のカイポ・フリアス氏の協力を得た。

▼最後のチャプターには、ハワイ文化の精神的指導者(ロエア)としてフラ世界の頂点に立つプアラニ・カナヘレ氏のメッセージが収録されている。自然と人間文化との融合を解く氏のメッセージに多くの教訓と示唆を見いだすことができるだろう。先述のカイポ・フリアス氏は、このプアラニ・カナヘレ氏の娘婿でもある。二人は96年に来日の経験がある。

▼インタビューの多くは、ハワイ語で行われた。ハワイ語を多くの人に知っていただきたいと思い、吹き替えをせず、英語と日本語の字幕を用意した。ハワイ語によるインタビューは、ハワイ大学大学院言語学研究科のミイラニK.クーパー氏によるものである。クーパー氏はフラの優れた踊り手でもあり、今回の企画全体を通してコーディネータとして協力いただいた。日本文化とハワイ先住民族文化の双方に精通した同氏の存在がこの企画を豊かなものにしてくれた。

▼DVDというこれまでにない特性をもつ新しいメディアが、フラに対する私たちの理解をより深いものにしてくれるだろうことを確信している。