2SC1172 トラターボ  アンプ





 家庭用ステレオセットが真空管式からト

ランジスターに切り替わる時期に、それま

で真空管式セットに使われていた出力管が

製造中止になってしまったので、真空管式

セットの回路や部品を、そのまま活用出来

るように、たまリントン回路やトラターボ

回路といった真空管とトランジスターとの

ハイブリッド回路が考案されました。

 それらの回路情報は、「手作りアンプの会」のホームページの「会員のページ」の中で、「たまリントン

とトラターボ」
として詳しく解説されていましたが、残念ながら今は回路図が表示されなくなっています。

ただ私はそのページを丸ごとローカルディスクに保存していたので、今回挑戦してみる事にしました。

 手持ち部品の流用などでオリジナルの回路とは違ってますが、以下のようにドライバー管のカソード電流

を分流してベース電流として、パワートランジスターを駆動するという物で、ドライブ管の数倍の出力を得

る事が出来ます。

 気を付けなければならないのはトランジスターの耐圧で、出力トランジスターには通常の動作でも電源電

圧の倍の電圧が掛かるので、使用したトランジスターの耐圧は500V以上の種類を選んでいます。さらに

カットオフ時にはパルスノイズも発生するので、OPTの1次側にパルスノイズ対策のコンデンサーも入れ

ています。そういう意味で、あまり電源電圧を上げられないのにOPTは通常入手可能な1次側5kΩとし

た為に、出力的には3W程度しか得られませんでした。

 なおダーリントンとしたのは、耐圧の高い石は大概がブラウン管テレビの水平出力用だったので、hfe

が10前後しかないのですが、そのような石だと必要なベース電流も大きくなるので、ドライブ管にも大電

流の流せる出力管を使う必要があり、それでは出力トランジスターが無くても同様の出力を得る事が可能に

なってしまいます。こうなると敢えてトラターポにする必要性もなくなってしまうので、このドライブ管は

電圧増幅管で済ませる前提で考えると、出力トランジスターのhfeは少なくても100以上ある事が望ま

しくなります。また実際に左右でhfeの揃う石を選ぶのも難しいので、ダーリントンの2個の組み合わせ

でhfeの合う組み合わせを探しました。むろんカタログデータではなく実測値で、です。なおオリジナル

は、三結の6BM8をドライブ管をとして、出力はhfe10の単体のトランジスターとしていました。

 一方、電源は手持ちの電源トランスを使い4倍圧整流で必要な電圧を得ています。また半導体式リップル

フィルターの後に、さらに左右別々のCRを入れてクロストークの向上を図っています。

 という事で、以下のような回路になりました。






  製作のポイントとしては

1.出力段に使用したトランジスターは手持ちの古いもので、現在は入手困難なので入手可能なものから選ぶ

  しかありませんが、先に述べた理由で耐電圧の高いものを選ぶ必要があります。特にVcboは高くても

  Vceoが意外と低いものが多いので注意が必要で、どちらも500V以上の耐圧のにして下さい。

2.OPT1次側に入っているコンデンサーはパルスノイズ対策で、これも高耐圧のものにして下さい。容量

  が大きいほどトランジスターは安全になるのですが、それだけ高域特性が低下するので、0.0047μ

  から0.0022μ程度が良いと思います。オリジナルは0.0047μでしたが、私の場合は予備の石

  があるので、少し冒険をして容量を減らしましたが今の所は問題無いようです。

3.OPTは共立電子の「真空管用出力トランス A54-13」ですが、本機ではOPTの一次側にノイズ対策

  の強力な補正が入っているので、定格が同じなら他社のOPTでも問題なく使えるでしょう。ただ今回の

  OPTの素の特性は、後ほど述べるように結構良さそうです。


諸 特 性


 最大出力は、見込み通り3W程度

得られました。ただ、高域の特性が

悪いのですが、出力トランジスター

保護の為にOPTにCRを入れて、

パルス電圧対策としているので仕方

ありません。

 一方で、NF量と比べてもDF値

が高いのが目を惹きます。


利得 18.8 dB (8.7倍)

NFB 10.1 dB (3.2倍)

DF= 20 on-off法 /1kHz

無歪出力2.8W THD1.3%/1kHz

最大出力3.1W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.1mV




 次に周波数特性で、高域が伸びないのは上記の通りパルスノイズ対策の所為ですが、それでも高域端に

山谷などは無くOPTの特性を反映して素直に落ちています。ただ低域端が少し盛り上がっていて、これ

は出力段のエミッタ抵抗に抱かせたケミコンの容量不足と思われるのですが、この程度なら音質的にも安

定度の面でも問題はないでしょう。という事で、最終的に10〜76kHz/−3dBの良好な特性が得

られました。




 最後に高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見たのですが、負荷開放でも波形の崩れは少なく全く

安定しています。これを見ても今回のOPTの素の特性は、意外と良かったようです。


 今回のトラターボアンプの製作では、当初は高域特性は諦めていました。上記で述べたように出力トラン

ジスターの保護の為には、高域を犠牲にするしかなかったからです。それでもここまで伸ばせれば、実用上

は必要十分な高域特性を確保出来たように思います。



 後  記

 本機のドライバー管は6GH8という事で、あまり馴染みがありませんが、一般的な三極五極の電圧増幅

管の中では、五極管ユニットを三結にした時のrpが低い球だったので選んだものです。当初は6U8Aを

使って見たのですが、三結時のrpが高く負荷5kΩでは上手く動作しませんでした。ただ先に述べたよう

に、ドライバー段に出力管は使いたくなかったので、敢えて6GH8を選んだものです。出力段のトランジ

スターにもっとhfeの高い合わせを選べば6U8Aでも良いのでしょうが、あまりhfeが高いと不安定

になるので、今回程度の組み合わせが無難な処だろうと思います。

 話は変わりますが、本機のDF値は「20」とかなり高い値を示しました。ただしNFを掛けているので

無帰還時のDF値を測ったところ、同6.7となりました。これを負荷5kΩで受けているので、出力段の

内部インピーダンスは0.75kΩとなり、古典三極管の2A3並の低い内部抵抗値を示しています。ただ

し、これは出力トランジスター自身の特性ではなく6GH8の五極管ユニット三結時の特性を電流ブースト

した結果だろうと思うので、それなら「電圧増幅管とトランジスターを組み合わせれば古典三極管の代用に

なるかも?」という新たな可能性も覗えて、これは面白い研究課題が出来たように思います。





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